記事・レポート

2012年版 いま、気に掛かる本たち

ライブラリーフェローによる、本にまつわる話

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2013年02月07日 (木)

第3章 日本論・日本人論、再び・三たび(1)

六本木ライブラリー ブックトーク 紹介書籍

日本を土着的な原理から見直そう

澁川雅俊: 『古事記』は、1300年前に国としての日本の成り立ちを確定しました。それは天皇と朝廷を中心とした、最初の日本論でした。以来、世代を重ねながらも私たちは「日本人としてどう振る舞うべきか」を繰り返し、繰り返し考えてきています。そしてそのときどきに、賢愚を問わず、多くの人たちが「何をなすべきか」を問いかける本を出してきました。とりわけ、〈失われた10年〉が喧伝された2000年のころに、この国の将来を憂慮する多くの議論が起こり、数々の本が出版されました。いまや、〈失われた20年〉に〈3.11〉も重なり、一億の人びとが自分を喪失しているこの時期にも、また再燃した感があります。

まず『日本の文脈』〔内田樹、中沢新一/角川書店〕があります。著者たちはいま幅広く活動している思索家です。『日本辺境論』(内田)と『日本の大転換』(中沢)など、以前にもカフェブレイクブックトークで評論を書きましたが、この本では「いったいこの国はどこへ行こうとしているのか」を中心に対談しています。彼らの主張は、私たちの生活の基盤としての「日本的なものの原理」の再構築です。少しばかりかみ砕いてみるとこうなります。そもそもこの国の人びとは農業に生活の原理を求めてきたのだが、時代と共に都市を形成し、そこでの生活に慣れ親しみ、さらにグローバル化の進行が加わって生活環境の大変化で先行きが見えなくなってしまっている。これからの生き方を土着的なものに回帰することは不可能だが、かつてあった日本的なものの原理を再確認しつつ、近未来における新たな原理を構築すべきだ。——

また、内田は作家・高橋源一郎と季刊誌『SIGHT』でこの国の最近の政治状況について連続的な対談を掲載してきました。それは『沈む日本を愛せますか?』と『どんどん沈む日本をそれでも愛せますか?』(ともにロッキング・オン)に再編集されて書籍として出されています。トピックは現今の混迷政治のことで、『日本の文脈』と合わせ読むと、彼らの言う〈沈む日本〉で活き活きと楽しく暮らす方法を見つけることができるかもしれません。