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2012年版 いま、気に掛かる本たち

ライブラリーフェローによる、本にまつわる話

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2013年02月05日 (火)

第2章 成立1300年記念古事記本いろいろ(2)

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古事記は紙に書かれたのか?

澁川雅俊: 『日御子』〔帚木蓬生/講談社〕には、紙が卑弥呼以前に渡来していたことが挿話として書かれています。金印<漢委奴国王印>以来の日中交渉の上で不可欠な存在であった、使譯(シエキ)たちの三世代にわたる物語です。古代の公文書はすべて木簡に清書されていましたが、使譯たちは渡航の際に、中国で生産されていた貴重な紙を土産品物として持ち帰っていたことが書かれています。7世紀に聖徳太子が派遣した遣隋使が持ち帰って来ているはずですし、『古事記』成立からおよそ半世紀後の百万塔陀羅尼経が紙に印刷されています。

一方『飛鳥の木簡』〔市大樹/中央公論新社〕は、紙の製法が国内では確立していなかった7世紀頃の文書の記録媒体は木簡であり、近年相継いで発掘される木簡がいまや黎明の日本を解明する史料となったことを力説しています。しかしおそらく『古事記』成立の時期は、紙が木簡にとって代わろうとしていた移行期です。ですから、国書である『古事記』は紙に書かれたのではないかと、私は信じていますが、その証拠は一切ありません。なにしろ現存する『古事記』の最古の写本は、室町前期に制作されたものですから。

木簡にせよ紙にせよ、やがては失われてしまうものです。写真集『神々の宿る日本の絶景』〔富田文雄、山梨勝弘/パイインターナショナル〕に掲げられている神話や伝説が残る日本の原風景は、いまでも『古事記』のさまざまな神話の風景を想起させてくれます。