記事・レポート

2012年版 いま、気に掛かる本たち

ライブラリーフェローによる、本にまつわる話

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2013年02月19日 (火)

第9章 この閉塞感は、貧しさゆえか?(3)

六本木ライブラリー ブックトーク 紹介書籍

「99パーセント」の人びと

澁川雅俊: 『リヴァイアサン』に記された人びとのことを、いまのメディア用語で言い表すならば〈99%の人びと〉でしょう。その語を書名にした本が、いま少なからず出されています。『世界の99%を貧困にする経済』〔ジョセフ・E・スティグリッツ/徳間書店〕と『99%のための経済学入門 マネーがわかれば社会が見える』〔山田博文/大月書店〕などがそうです。前者は21世紀のケインズとも称されるノーベル賞受賞の経済学者による著書で、世界同時恐慌時代に進もうとしている現在の状況を解説しています。大衆を食いものにして、何の責任もとらず、富をむさぼる寡少な上流層を生み出す政治経済の企みを糾弾し、その状況がアメリカやヨーロッパはもとより、日本で拡大しつつあると警告し、99%の人びとにも報いる経済システムの構築を提言しています。後者は、日本の金融の専門家がお金の動きを追って、〈1%〉のための経済のしくみの不可思議さを解き解し、99%が安心して暮らせる生活を獲得するには、私たちがどんな経済社会をめざすのかの選択の問題で、経済学は‘富む’ためではなく、皆を‘幸せ’にする方策を追究すべき、と主張しています。

『脱貧困の経済学 日本はまだ変えられる』〔飯田泰之、雨宮処凛/自由国民社/2009年〕では、プレアリカート問題の論客である雨宮が「カネよりも人命を優先する社会を取り戻すために経済学には何ができるのですか」と鋭く切り込み、同年代の経済学者・飯田がさまざまな問い掛けに、寸時に、かつ冷静に応答し、弾むように対談しています。

また『世界を救う処方箋 「共感の経済学」が未来を創る』〔ジェフリー・サックス/早川書房〕では、世界各国で貧困を根絶するために活躍してきた米国人臨床経済学者が、自国の貧富の格差、社会の分断、教育の劣化、巨額の財政赤字と政治腐敗、グローバリゼーションへの対応の遅れ、環境危機などの深刻な諸課題に、共感に充ちた豊かさをとりもどすための抜本的な処方箋を具体的に提案しています。

その〈共感に充ちた豊かさ〉は、『第四の消費』〔三浦展/朝日新聞出版〕で〈つながりを生み出す社会へ〉の語句で表現されています。この本は閉塞感からテークオフする経済学的手法を提案しているわけではないのですが、大正期以降の日本人の消費生活を考察しています。三浦は消費を〈欲求を満たすために商品やサービスを購入し、生活を豊かにする行為〉と捉えます。消費は時とともにさまざまに変遷してきましたが、人びとはいまモノの所有によって豊かさを実現するのではなく、〈シェアファウス〉、〈シェアカー〉などの新たな発想で消費生活を始めようとしていると分析しています。

共感に充ちた豊かさ、つながりを生み出す社会などのキャッチフレーズはベンサムの「最大多数の最大幸福」を思い出させます。18世紀の学者ですから、前出の『「豊かさ」の誕生』で述べられているように、裕福層と貧困層の二分化が現れ始めた頃で、この言説からも貧困層の人びとが目立ってきた様子が窺い知れます。人びとの幸福については、時代時代において解決するためのさまざまな提言や行動がなされ、近現代史を形成してきました。

『幸福度をはかる経済学』〔ブルーノ・S・フライ/NTT出版〕もそのひとつです。前著『幸せの政治経済学』以来、フライは一貫して人びとの〈幸福〉を目的とした経済学を目指している学者で、この本では‘お金’を超える幸福感を計量的に捉えようとしています。教科書のスタイルで、本来なら教室で専門教授の解説を得ながら読むべきでしょうが、序章の「幸福度研究とはなにか」は読みどころです。