記事・レポート
日本は文化で世界に打って出る
近藤誠一文化庁長官×竹中平蔵が語る「文化と経済」
アカデミーヒルズセミナー文化政治・経済・国際
更新日 : 2011年09月08日
(木)
第7章 地域活性化のカギは「文化と観光」~成功例と今後の課題~
竹中平蔵: アートによる地域おこしというのは実は非常に身近な問題で、皆さんの周りにもいくつかあると思います。例えばビエンナーレが象徴的です。そこでぜひお伺いしたいと思っていたのですが、アートによる地域おこしの可能性や政府支援について、長官として何かお考えになっていることはありますか。
近藤誠一: アートをプロモートするのは国よりも、都市や地方のほうがその地域の特色を活かして住民の支援を得ることで、きめの細かい、ニーズに合った文化・芸術の創造活動ができると思っています。
「創造都市」、クリエイティブ・シティーズという概念があります。具体例としては1985年にヨーロッパが始めた「欧州文化首都」というのがあります。これは毎年EUの中から1都市を選んで、その土地の特徴を活かした文化・芸術のイベントを1年を通じてやって盛り上げるというものです。これをやると、「何年後はうちの街だ。うちの街にはどういう芸術が、どういう伝統が、どういう工芸があるか。みんなで力を合わせて打って出よう」という気になって、新しい発見があるんです。
大成功だったのが、1990年のグラスゴーという街です。グラスゴーは産業革命で栄えましたが、その後すっかり落ちぶれてしまったのです。しかし首相が「文化でいく」と決めて、何年か経って見事に花咲いて、いまやイギリスで最も人気の街だそうです。
そういう意味では、地域が主体となって文化・芸術を基盤とした活動をしていく、そこに市の予算を使う、そしてボランティアも含めてみんながそれを支え、ふるさとにある素晴らしい文化財をみんなで探して、見つけて、それを展示する。そういうことで街は活気づき、経済効果だけでなく、心理的な効果などもいろいろ出てくると思います。
もう1つ具体例として、ユネスコが2004年から始めた「クリエイティブ・シティーズ・ネットワーク」というものがあります。これはデザインや文学や食などの7分野から選んで都市が加盟申請して認められると、同じ分野の都市同士がネットワークで結ばれるというもので、日本は神戸と名古屋、金沢が登録されています。
例えば、金沢は工芸の街ですからデザインで登録しました。するとデザインを誇りとしている世界中の街とネットワークでつながれて、行き来が始まり、活性化が起こり、お互いの理解が深まるという具合です。
実は今、日本国内でも「創造都市ネットワークをつくろう」という運動が始まっています。これは小さな町でも起こっています。例えば群馬県にある中之条町では、町長さんが「これから町が生き残るカギは第二次産業ではなく、文化・芸術だ。地元の歴史、史跡、文化遺産、そして人材を活かしていくんだ」ということで、実際、そういう動きを始めています。
こうしたことを国としても支援していく、また、ほかの都市の首長さんにはこうしたことに気づいていただく、そうして燎原の火のごとく広がっていくと日本も相当活気づくと思います。
竹中平蔵: 今のお話に含まれていたことですが、文化・芸術というのは、実は観光と表裏一体です。ニューヨークに行ってミュージアムやミュージカルを楽しみたい、オイスターを食べたいなど、ツーリズムというのは文化そのものです。ツーリズムに日本はようやく力を入れ始めたところですが、ツーリズムと文化について、行政の一体化というようなことは何かお考えになっていらっしゃいますか。
近藤誠一: 文化庁には、どこの地域にどういう文化財がある、どういう人間国宝がいる、どういう祭りがあるというデータがあります。観光庁には、観光会社とのネットワークがあります。それを結びつけることで、国内外の方にいろいろなメニューを提供できると思います。
例えば海外に七夕とねぶた祭りを組み合わせたパッケージを出すのでもいいし、お神楽のパッケージを出すのでもいい。あるいは地域の有形資産と伝統工芸を組み合わせてもいい。文化資産に着目したメニューをつくることで、観光というものを「単に温泉につかって、ゴルフをやって、富士山を見て終わり」ではないものにしていきたいと思っています。
近藤誠一: アートをプロモートするのは国よりも、都市や地方のほうがその地域の特色を活かして住民の支援を得ることで、きめの細かい、ニーズに合った文化・芸術の創造活動ができると思っています。
「創造都市」、クリエイティブ・シティーズという概念があります。具体例としては1985年にヨーロッパが始めた「欧州文化首都」というのがあります。これは毎年EUの中から1都市を選んで、その土地の特徴を活かした文化・芸術のイベントを1年を通じてやって盛り上げるというものです。これをやると、「何年後はうちの街だ。うちの街にはどういう芸術が、どういう伝統が、どういう工芸があるか。みんなで力を合わせて打って出よう」という気になって、新しい発見があるんです。
大成功だったのが、1990年のグラスゴーという街です。グラスゴーは産業革命で栄えましたが、その後すっかり落ちぶれてしまったのです。しかし首相が「文化でいく」と決めて、何年か経って見事に花咲いて、いまやイギリスで最も人気の街だそうです。
そういう意味では、地域が主体となって文化・芸術を基盤とした活動をしていく、そこに市の予算を使う、そしてボランティアも含めてみんながそれを支え、ふるさとにある素晴らしい文化財をみんなで探して、見つけて、それを展示する。そういうことで街は活気づき、経済効果だけでなく、心理的な効果などもいろいろ出てくると思います。
もう1つ具体例として、ユネスコが2004年から始めた「クリエイティブ・シティーズ・ネットワーク」というものがあります。これはデザインや文学や食などの7分野から選んで都市が加盟申請して認められると、同じ分野の都市同士がネットワークで結ばれるというもので、日本は神戸と名古屋、金沢が登録されています。
例えば、金沢は工芸の街ですからデザインで登録しました。するとデザインを誇りとしている世界中の街とネットワークでつながれて、行き来が始まり、活性化が起こり、お互いの理解が深まるという具合です。
実は今、日本国内でも「創造都市ネットワークをつくろう」という運動が始まっています。これは小さな町でも起こっています。例えば群馬県にある中之条町では、町長さんが「これから町が生き残るカギは第二次産業ではなく、文化・芸術だ。地元の歴史、史跡、文化遺産、そして人材を活かしていくんだ」ということで、実際、そういう動きを始めています。
こうしたことを国としても支援していく、また、ほかの都市の首長さんにはこうしたことに気づいていただく、そうして燎原の火のごとく広がっていくと日本も相当活気づくと思います。
竹中平蔵: 今のお話に含まれていたことですが、文化・芸術というのは、実は観光と表裏一体です。ニューヨークに行ってミュージアムやミュージカルを楽しみたい、オイスターを食べたいなど、ツーリズムというのは文化そのものです。ツーリズムに日本はようやく力を入れ始めたところですが、ツーリズムと文化について、行政の一体化というようなことは何かお考えになっていらっしゃいますか。
近藤誠一: 文化庁には、どこの地域にどういう文化財がある、どういう人間国宝がいる、どういう祭りがあるというデータがあります。観光庁には、観光会社とのネットワークがあります。それを結びつけることで、国内外の方にいろいろなメニューを提供できると思います。
例えば海外に七夕とねぶた祭りを組み合わせたパッケージを出すのでもいいし、お神楽のパッケージを出すのでもいい。あるいは地域の有形資産と伝統工芸を組み合わせてもいい。文化資産に着目したメニューをつくることで、観光というものを「単に温泉につかって、ゴルフをやって、富士山を見て終わり」ではないものにしていきたいと思っています。
日本は文化で世界に打って出る インデックス
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第1章 日本は経済・社会では世界トップクラス。でも幸福度は90位
2011年08月29日 (月)
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第2章 戦後の経済的成功が、文化・芸術の軽視につながった
2011年08月30日 (火)
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第3章 日本人が気づいていない「日本の宝」
2011年09月01日 (木)
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第4章 日本再生に必要な3つの改革
2011年09月02日 (金)
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第5章 文化予算の公平な配分は可能か?
2011年09月05日 (月)
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第6章 文化になぜ国がお金を出すのか?
2011年09月06日 (火)
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第7章 地域活性化のカギは「文化と観光」~成功例と今後の課題~
2011年09月08日 (木)
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第8章 これからの「文化」の話をしよう
2011年09月09日 (金)
該当講座
近藤誠一×竹中平蔵が語る「文化と経済」
~日本は文化で世界に打って出る~
近藤 誠一(文化庁長官)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授/アカデミーヒルズ理事長)
昨年7月に第20代文化庁長官として、外務省からの初めての起用ということで就任された近藤氏。外交官として長期に渡る海外経験から、日本を外から見てきて感じたことは、これからの国づくりにおいて、文化・芸術を柱の一つに据えなくてはいけないということでした。竹中氏が近藤長官と「これからの日本の文化と経済」について語ります。
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