記事・レポート
いま、環境の何が問題なのか
環境問題を取り巻く世界の動向と、問題の本質を捉える
更新日 : 2009年07月27日
(月)
第3章 国際交渉に必要な意思と判断力
小島敏郎: では、どうすれば日本の政治はリーダーシップを発揮できるのか、というのが次のテーマです。京都議定書は2012年までですから、今、それ以降の枠組みの交渉をしています。農業交渉から国際会計基準の問題、ISOの交渉などいろいろなテーマがこれまでもありましたが、ほとんど外圧によって変わってきました。どうして自分の「Will(意思)」で変われないのでしょうか。
また、交渉事なわけですから、政府として最初に方針をたてた後は、交渉の進展に応じて、どう妥協点を見いだしていくかを考えなければいけません。ともすれば、日本の方針は国内事情だけを考えた独り善がりの提案になりかねない。世界の合意を得ていくには、「地球の未来を考えた大義名分」が必要です。
そして、提案の順序は「野心的」に、次に「現実的」に。温暖化の交渉も「Ambitious & Realistic」です。野心的な目標・政策というのは、「Cost of Inaction」です。何もしないと、どれだけコストがかかるか、という議論をします。
私が水俣病にかかわったのは昭和30年代ですが、20年代後半から水俣病の原因はありました。チッソが考えたのは、「Cost of Action」です。途中で、原因は自分の工場から出ている排水だとわかったけれど、それを止めるための手立てはコストがかかりすぎる。だから工場排水を止める対策は現実的ではないと判断をしたのです。チッソにとって現実的な対策は、水銀除去には役に立たない排水処理施設を作ることだったのです。しかし、チッソが適切な対策をとらなかったために多くの人が亡くなり、多くの人が病気にかかり、結果としては多額の費用が必要となってしまった。これが「Cost of Inaction」です。
つまり「野心的」とは、対策をとらない場合にどれだけの被害が起きるかということに心を砕くことで、世界の利益のために、科学に基づく温室効果ガスの削減に取り組むというトップダウン・アプローチです。
また、交渉事なわけですから、政府として最初に方針をたてた後は、交渉の進展に応じて、どう妥協点を見いだしていくかを考えなければいけません。ともすれば、日本の方針は国内事情だけを考えた独り善がりの提案になりかねない。世界の合意を得ていくには、「地球の未来を考えた大義名分」が必要です。
そして、提案の順序は「野心的」に、次に「現実的」に。温暖化の交渉も「Ambitious & Realistic」です。野心的な目標・政策というのは、「Cost of Inaction」です。何もしないと、どれだけコストがかかるか、という議論をします。
私が水俣病にかかわったのは昭和30年代ですが、20年代後半から水俣病の原因はありました。チッソが考えたのは、「Cost of Action」です。途中で、原因は自分の工場から出ている排水だとわかったけれど、それを止めるための手立てはコストがかかりすぎる。だから工場排水を止める対策は現実的ではないと判断をしたのです。チッソにとって現実的な対策は、水銀除去には役に立たない排水処理施設を作ることだったのです。しかし、チッソが適切な対策をとらなかったために多くの人が亡くなり、多くの人が病気にかかり、結果としては多額の費用が必要となってしまった。これが「Cost of Inaction」です。
つまり「野心的」とは、対策をとらない場合にどれだけの被害が起きるかということに心を砕くことで、世界の利益のために、科学に基づく温室効果ガスの削減に取り組むというトップダウン・アプローチです。
「現実的」というのは、チッソの例でお話した対策実施者の利益ですが、同時に技術的、経済的な削減ポテンシャルをどう具体化するかというボトムアップ・アプローチでもあります。
しかし、「野心的な目標」と「現実的な目標」にはギャップが生じてきます。それをどうやって埋めていくかというのが、「革新的制度(制度のイノベーション)」です。
歴史からいえば、日本中に公害が蔓延し、「公害国会」があって、その後、公害防止の大投資の時代がありました。だからどのタイミングで政治が変わるか、世論が変わるかというWill(意思)が大切だと思います。
日本は、国際交渉を導いていく機能的な議論をしているでしょうか? 交渉というのは、日本の考えをとにかく主張すればいいというものではなく、妥協点を見出すプロセスです。国際交渉に一人勝ちも一人負けもありません。できるだけ多くの人たちに、国際的な取り決めに入ってもらうために、いろいろな国が交渉して妥協するわけです。
国際交渉とは、首脳・大臣による交渉です。日本の場合には役人が出ていって交渉しますが、非常に重要なことは大臣同士、首脳同士で決めます。本格的な交渉が始まる前に、大臣が2日間も3日間も合宿してコミュニケーションを図り、交渉をスムーズに持っていく、これが国際交渉の現実です。日本ではなかなかできないですね。
2009年12月18日、今年のCOP15最後の日、議長国デンマークの首相が主要国の大統領、首相、国家主席に電話をすると思います。「最後はこれでまとめよう」と。1997年の京都会議の最後の日がそうでした。首相官邸で橋本龍太郎総理がクリントンに電話をし、ゴアがヨーロッパに電話をしました。最後は電話の交渉で決まったのです。現地の京都はそれを待っていました。交渉というのは最後は総理、大統領、国家主席が決めるのです。日本は大丈夫でしょうか?
しかし、「野心的な目標」と「現実的な目標」にはギャップが生じてきます。それをどうやって埋めていくかというのが、「革新的制度(制度のイノベーション)」です。
歴史からいえば、日本中に公害が蔓延し、「公害国会」があって、その後、公害防止の大投資の時代がありました。だからどのタイミングで政治が変わるか、世論が変わるかというWill(意思)が大切だと思います。
日本は、国際交渉を導いていく機能的な議論をしているでしょうか? 交渉というのは、日本の考えをとにかく主張すればいいというものではなく、妥協点を見出すプロセスです。国際交渉に一人勝ちも一人負けもありません。できるだけ多くの人たちに、国際的な取り決めに入ってもらうために、いろいろな国が交渉して妥協するわけです。
国際交渉とは、首脳・大臣による交渉です。日本の場合には役人が出ていって交渉しますが、非常に重要なことは大臣同士、首脳同士で決めます。本格的な交渉が始まる前に、大臣が2日間も3日間も合宿してコミュニケーションを図り、交渉をスムーズに持っていく、これが国際交渉の現実です。日本ではなかなかできないですね。
2009年12月18日、今年のCOP15最後の日、議長国デンマークの首相が主要国の大統領、首相、国家主席に電話をすると思います。「最後はこれでまとめよう」と。1997年の京都会議の最後の日がそうでした。首相官邸で橋本龍太郎総理がクリントンに電話をし、ゴアがヨーロッパに電話をしました。最後は電話の交渉で決まったのです。現地の京都はそれを待っていました。交渉というのは最後は総理、大統領、国家主席が決めるのです。日本は大丈夫でしょうか?
いま、環境の何が問題なのか インデックス
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第1章 環境問題における国際交渉のリアリティを語る
2009年06月24日 (水)
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第2章 日本のグリーン・ニュー・ディールが陥りやすい落とし穴
2009年07月10日 (金)
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第3章 国際交渉に必要な意思と判断力
2009年07月27日 (月)
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第4章 国際的ルールをどのように合意に導いていくか
2009年08月10日 (月)
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第5章 国内政策の方向性と意思決定方式
2009年08月21日 (金)
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第6章 アメリカの環境政策の実現可能性
2009年09月03日 (木)
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第7章 なぜ「外圧」による「Change(政策転換)」しかできないか?
2009年09月17日 (木)
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第8章 国際社会で求められる日本という国の意思決定
2009年10月05日 (月)
該当講座
小島 敏郎(前環境省地球環境審議官)×竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長)
地球温暖化問題が注目を集める中で環境関連の情報が氾濫しており、本質が見失われがちな現在、改めて「環境問題」とは何かを小島氏と竹中理事長に議論していただきます。
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