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G8洞爺湖サミット「シェルパが語る首脳外交の舞台裏」

BIZセミナーその他
更新日 : 2008年11月27日 (木)

第9章 今回のサミットは成功だったのか、失敗だったのか?

洞爺湖サミットのシェルパを務めた河野雅治さん

河野雅治: サミットシェルパの議長をやった自分にとっての1つの大きなメリットは、ちょっと英語がうまくなったということです(笑)。議長ですから数多くの提案をするのですが、とにかく何度シェルパたちに罵倒されたか。彼らは自分たちの都合の悪い表現に対しては、「英文法上間違っている」と言うのです。英語力がちょっとだけ伸びたかもしれませんけれど、シェルパの作業というのは厳しいものがあったということです。

シェルパ間の議論は英語でやるのですが、信じられないような英語が飛び交うのですね。相手は法廷弁護士のような人たち、あるいは本当に百戦錬磨の人たちです。1つだけ例を挙げれば、あるシェルパが「I can not disagree more」と言ったことがありました。意味分かりますか? ああ、いい言葉だなと思った。私は「大賛成」という意味だと思ったんですよ。

普通の言い方は、「I can not agree more」ですね。その全く反対の表現である「I can not disagree more」などという激しい言葉を言うなんて、想像もしていなかったのです。それでハッと思って、「それは相当ひどいことを言っているんじゃないか?」「ああ、もちろんですよ」と。それがまさに国益というものなのです。それぞれの国がそれほど徹底的に表現を激しくして、相手を揺さぶって、自分の有利なように、ものをひきつける。これがまさにシェルパ会合のプロセスだったと思います。

私が今回のサミットを経験して、サミットには限界があると思いました。今日は触れませんでしたけれど、投機マネーの話、石油価格の問題にしろ、それぞれの国が政策をつくって、政策協調すれば解決するという時代は、はるか遠く過ぎ去ったのだろうと思います。それぞれの国にそれぞれの政策があって、どうしても調整しきれないところをどうするかというところで、やはりサミットには1つの限界があると思います。

気候変動の問題も、中国やインドなど主要な排出国を入れないで、40%しか排出していない、しかもこれから排出が減るだろうG8だけがものを決めても、世界の温暖化の問題は解決しません。しかし、やはり首脳は目の前の問題に対応しなければいけない。そういった中でのサミットですから、やはりサミットは曲がり角に来ていると思います。

しかし、それならばサルコジ大統領の言うように、G8に中国、インド、南ア、メキシコ、ブラジル、これを入れて13にする、あるいはエジプトまで入れて14にするという考えが正しいのでしょうか。今回確信したのですが、私はそうは思いません。これははっきり思います。

もしこの国々が入ったら、最初にどういう議題を議論するのか。8人、9人という人数で議論をするのと、16人で議論するのとでは、会議の性格は全く変わると思います。今回はG8がリードして議題をセットして、それに招待してダイアログをやるといった形で、G8のリーダーシップ、指導力も発揮でき、かつ対話が充実できた。そのかわり、G8の首脳たちは17時間の議論を強いられたわけですが、こういう姿が、恐らく今現在の最も望ましいサミットだと思います。

さあ、どうでしょう、来年はイタリア、その後はカナダ、そして再来年はフランスが議長国になります。フランスは虎視眈々とサミットの改革をねらっています。これにカナダ、アメリカ、日本、そしてイタリアは強く反対しています。サミットの将来はどうなるのか、まだ、これからこのドラマは続くと思います。しかし、私は今現在、今のG8のサミットの姿が正しいと確信しています。

サミットは登山に例えられていますが、ずっといろいろな山を登ってきて、そして1週間前にようやく山の頂上まで行きつきました。多くのメディアから、「今回のサミットは成功だったのか、失敗だったのか。河野さん、あなただったら何点つけるんだ?」と、こういうことを聞かれましたが、私は点がつけられないと思うのです。外交というのは、絶対評価ができるものではないと思います。

ただ、はっきりしていることは、「山を登り終えた」ということです。終わって今1週間して思うことは、登った山は下りなければいけません。今回はさまざまな首脳が決めた多くの新しい、これからのイニシアティブというのが文章の中に入っています。これを実現していくということが、まさに山を下りることであって、下山しなければ、このサミットというのは完結しないのだと思います。

幸い、日本の議長というのは今年(2008年)の12月31日までありますので、私としては、議長として、さらにあと数カ月、下山に向けての、すなわちフォローアップのためのリーダーシップをとって、そして来年の1月にイタリアに議長国を渡すということまでやりたいと思っています。

ご静聴、ありがとうございました。