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G8洞爺湖サミット「シェルパが語る首脳外交の舞台裏」

BIZセミナーその他
更新日 : 2008年09月09日 (火)

第2章 シェルパがいなければ、議論の中身は一切外に出ない

洞爺湖サミットのシェルパを務めた河野雅治さん

河野雅治: 部屋では、食事のときを除いてそれぞれの国のシェルパが後ろに座ります。G8、9人のリーダーの真後ろに9人のシェルパが座る。皆さん、想像して下さい。そういう雰囲気の中で、このシェルパというのは何をやっているのでしょうか。

シェルパというのはメモ取り、書記なのです。そうでなければ、外の人は一切、その議論が分かりません。誰も音声で聞いていませんし、映像も見られません。従ってシェルパがノートをとって記録をしなければ、彼らが議論した結果は一切外に出ないし、分からないのです。これがサミットのサミットたるゆえんです。

世界に数多くの国際会議、首脳の会合というのはあると思いますけれど、ご覧になっていると、どうでしょう? 大体後ろに役人がいっぱい座って、いろいろなメモを入れたりしていて、議論の内容は相当程度外に出る。世界の首脳が集まる議論では、それがほとんどです。

これに比べサミットは、非常に稀有な集まりです。首脳だけが、誰とも相談できずに、せずに、人に聞かれずに、ベルルスコーニ首相の言葉を借りれば「家族会議」ということですが、そうやって3日間を過ごす、これがサミットです。

我々シェルパは、会議の席の後ろにいてノートを取ります。しかし、首脳に呼ばれなければ、私どもは近寄りません。それから、今回のサミットでは首脳だけで7回食事をしていますが、食事の席には我々シェルパも入れてもらえません。

洞爺湖のウインザーホテルの11階に「ミシェル・ブラス」というフランスの三ツ星レストランがあります。そこで夕食会を何回かやりましたが、私ども シェルパは、その隣にある「アウトオブアフリカ」という鉄板焼きレストランのテーブルに座っていました。鉄板焼きは一切出てこないのですけれども、目の前 のスクリーンとイヤホンで議論をただただ注目して見ている、ノートを取るのです。

それぞれの首脳はシェルパと打ち合わせをしているようです。私も福田総理と打ち合わせをしました。というのは、首脳がどうしても必要なときはシェル パを呼べるのです。私も総理と相談しまして、「どうやったら私を呼んでいるということにしますか?」「僕は赤いペンを右手でちょっと振るから、そうした ら、どうしても君がほしいんだ。そのときは来てくれ」ということでした。それぞれの首脳がコンタクトする方法をシェルパとの間で決めているようでした。

今回、福田総理は議長ですから、私はサミットが始まる前に、非常に頻繁に相談に行きました。「総理、サミットというのはちょっと不思議な場所でし て、お互いファーストネームで呼び合うんですよ、総理、なさいますか?」と伺ったところ、総理は「僕は71歳で、ファーストネームで相手を呼ぶというの は、ちょっと自分のカルチャーにはないね、河野君」とおっしゃるので、その会話はやめました。私も「そういうものだろうな」と思いました。福田総理には総 理のやり方というのがあるのでしょう。

ところがですよ、サミットの初日、冒頭で首脳だけが8人で集まったときに、「皆さん、私はヤスというのですよ」と(笑)。「昔、ヤスという人がいま したが、別のヤスなんですよ、どうぞヤスと呼んでください」なんて言って、「それじゃあ、ゴードン」と言うわけですよ。そうすると、ゴードン・ブラウン首 相も圧倒されて、「それでは、ヤス」と言って話を続ける。17時間の議論はすべてファーストネームで総理はやられました。「どうですか、ニコラ?」「どう ですか、スティーブン?」「アンゲラ、もう少し言ったらどう?」「ちょっとニコラ、話が長いからもう少し短く」とか、こういう感じです。