記事・レポート
「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」
BIZセミナーその他
更新日 : 2008年09月26日
(金)
第10章 社会の変化についていけない日本の政治
ジェラルド・カーティス: 「どうして日本の政治は遅れているのだと思いますか?」と、昔からマスコミによく質問されます。私は、その質問が大嫌いです。日本のマスコミの人がそういう質問をするということは、私に「日本にお説教をしてください」ということでしょう?私がまだ30歳そこそこのときに、そういう立場にさせられるのは嫌でしたし、そもそも私はそのとき、60~70年代の日本の政治が遅れているとは思っていませんでした。
派閥政治などはありましたが、それは結局、日本の社会のニーズに応えるという政治だったのです。自民党も、それこそ道路財源をつくって、田中角栄が日本海の貧しいところに、そのお金を持っていって公共事業をやって、そのときの日本の社会のニーズに応えたわけです。日本社会党も、とにかく「憲法改正反対、平和主義を守る」ということで必死になってやりました。日本の社会のニーズに上手に応えているんだから、「遅れている」という考え方そのものがおかしい。
ですから、その質問をされるたびに、「私は日本の政治は遅れているとは思いません」とずっと返事をしてきました。けれど5、6年ぐらい前、90年代の後半かこの世紀に入ったばかりの頃、東京のどこかで講演をしたとき、自分の口から「日本の政治は遅れています」という言葉が出たのです。
「あれっ?」と、自分でもびっくりしました。日本にあまり長くいるせいか、日本の並みの評論家と同じような見方になってしまったかと(笑)、ちょっと憂鬱になったのですが、「日本の政治が遅れているとは思わない」とずっと言ってきた私が、なぜ「遅れている」と言ってしまったのか。家に帰って考えたら理由が分かりました。
日本人が「なぜ日本の政治は遅れていると思うか?」と聞くのは、「なぜ、ほかの国よりも遅れているか?」「なぜアメリカよりも遅れているのか、アメリカ人さん、説明してください」ということでしょう。
私が「日本の政治は遅れている」と言ったのは、外国との比較ではなくて、「日本の政治が日本の社会よりも遅れるようになった」ということだったのです。90年代、日本は大きく変わりました。「失われた10年」といいますが、経済よりも、人間の価値観が変わった時代だったのです。日本の近代史の中の大きな分水嶺で、あまりにも変化が大きかった。
日本の女性は、90年代になってからなかなか結婚しなくなりました。結婚しても遅く結婚して、子どもは産んでも1人。嫌だったら離婚する。今の日本人の離婚率は、アメリカにはおよびませんが、西ヨーロッパの平均よりちょっと高くなっています。90年より前は非常に少なかった離婚が、今、普通になっているのです。
短大を出て、会社に入って、お茶をくんで、そこで好きな男性と出会って社内結婚をして、仕事をやめて、郊外に住んで、子どもを2人産んで主婦をする——これは今の若い女性の夢でしょうか?そういう夢を持っている人もいるかもしれませんけれど、少ないと思うのです。それよりも、キャリアを積んで、プロフェッショナルになって、この六本木ヒルズに住んで、結婚するとしても30歳過ぎてもいいと。これは大きな変化です。
男性も10年も15年も一流の大企業で働いて、そのまま静かにしていれば絶対に出世コースでいくのにやめてしまう。これはやはり、90年代の大きな変化です。
はいっぱいつくられたのに、今でも特別財源がある。54年に、田中角栄さんが議員のときにつくられた制度を今でもやろうとしているのは、社会が変わったのに政治が変わらないからで、これが日本の現状だと思います。
昔だったら派閥政治や非公式的な調整をするところですが、これも日本人の価値観が変わったから、そういうやり方では反感を呼ぶのです。今の日本の政治は創造的破壊の段階にあります。破壊しつつあるのです。
要するに、日本の伝統的な自民党の集票マシンが崩れているわけです。ですから、この前の参議院選挙で自民党が地方であんなに負けた。今度の総選挙がなかなかないのは、やれば自民党が負けるからで、多分来年までやらないと思います。集票マシンが崩壊して、票をまとめる力がなくなっている。ですから破壊、destructionがあるのです。
有名な経済学者シュンペーターが言ったように、「経済の発展はcreative destruction」、創造的破壊です。今のJapanese politicsもcreative destructionの段階のはずなのですが、ただ問題はcreativeなところが全く見えない。creativeなことを考える政治家がほとんどいないのです。でも、そのうち出てきます。だから、今は大きなターニングポイントです。
派閥政治などはありましたが、それは結局、日本の社会のニーズに応えるという政治だったのです。自民党も、それこそ道路財源をつくって、田中角栄が日本海の貧しいところに、そのお金を持っていって公共事業をやって、そのときの日本の社会のニーズに応えたわけです。日本社会党も、とにかく「憲法改正反対、平和主義を守る」ということで必死になってやりました。日本の社会のニーズに上手に応えているんだから、「遅れている」という考え方そのものがおかしい。
ですから、その質問をされるたびに、「私は日本の政治は遅れているとは思いません」とずっと返事をしてきました。けれど5、6年ぐらい前、90年代の後半かこの世紀に入ったばかりの頃、東京のどこかで講演をしたとき、自分の口から「日本の政治は遅れています」という言葉が出たのです。
「あれっ?」と、自分でもびっくりしました。日本にあまり長くいるせいか、日本の並みの評論家と同じような見方になってしまったかと(笑)、ちょっと憂鬱になったのですが、「日本の政治が遅れているとは思わない」とずっと言ってきた私が、なぜ「遅れている」と言ってしまったのか。家に帰って考えたら理由が分かりました。
日本人が「なぜ日本の政治は遅れていると思うか?」と聞くのは、「なぜ、ほかの国よりも遅れているか?」「なぜアメリカよりも遅れているのか、アメリカ人さん、説明してください」ということでしょう。
私が「日本の政治は遅れている」と言ったのは、外国との比較ではなくて、「日本の政治が日本の社会よりも遅れるようになった」ということだったのです。90年代、日本は大きく変わりました。「失われた10年」といいますが、経済よりも、人間の価値観が変わった時代だったのです。日本の近代史の中の大きな分水嶺で、あまりにも変化が大きかった。
日本の女性は、90年代になってからなかなか結婚しなくなりました。結婚しても遅く結婚して、子どもは産んでも1人。嫌だったら離婚する。今の日本人の離婚率は、アメリカにはおよびませんが、西ヨーロッパの平均よりちょっと高くなっています。90年より前は非常に少なかった離婚が、今、普通になっているのです。
短大を出て、会社に入って、お茶をくんで、そこで好きな男性と出会って社内結婚をして、仕事をやめて、郊外に住んで、子どもを2人産んで主婦をする——これは今の若い女性の夢でしょうか?そういう夢を持っている人もいるかもしれませんけれど、少ないと思うのです。それよりも、キャリアを積んで、プロフェッショナルになって、この六本木ヒルズに住んで、結婚するとしても30歳過ぎてもいいと。これは大きな変化です。
男性も10年も15年も一流の大企業で働いて、そのまま静かにしていれば絶対に出世コースでいくのにやめてしまう。これはやはり、90年代の大きな変化です。
はいっぱいつくられたのに、今でも特別財源がある。54年に、田中角栄さんが議員のときにつくられた制度を今でもやろうとしているのは、社会が変わったのに政治が変わらないからで、これが日本の現状だと思います。
昔だったら派閥政治や非公式的な調整をするところですが、これも日本人の価値観が変わったから、そういうやり方では反感を呼ぶのです。今の日本の政治は創造的破壊の段階にあります。破壊しつつあるのです。
要するに、日本の伝統的な自民党の集票マシンが崩れているわけです。ですから、この前の参議院選挙で自民党が地方であんなに負けた。今度の総選挙がなかなかないのは、やれば自民党が負けるからで、多分来年までやらないと思います。集票マシンが崩壊して、票をまとめる力がなくなっている。ですから破壊、destructionがあるのです。
有名な経済学者シュンペーターが言ったように、「経済の発展はcreative destruction」、創造的破壊です。今のJapanese politicsもcreative destructionの段階のはずなのですが、ただ問題はcreativeなところが全く見えない。creativeなことを考える政治家がほとんどいないのです。でも、そのうち出てきます。だから、今は大きなターニングポイントです。
「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」 インデックス
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第1章 本を日本語で書いたのは、日本語でしか考えられないことがあるから
2008年06月25日 (水)
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第2章 日本を勉強して45年。変化し続ける日本はおもしろい
2008年07月03日 (木)
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第3章 アメリカ社会の強さは、「遅咲き」を許す力にある
2008年07月17日 (木)
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第4章 深刻な頭脳流出
2008年07月25日 (金)
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第5章 防衛にはハード面の軍事ではなく、ソフト面の交流が必要
2008年08月04日 (月)
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第6章 日本語には音楽のようなリズムがある
2008年08月14日 (木)
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第7章 「難しい」日本語。No.と言わずにNo.と言う価値観
2008年08月25日 (月)
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第8章 カタカナをやめれば、英語の発音は良くなる
2008年09月02日 (火)
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第9章 だめなのは若者ではなく、若者の夢を実現できない社会構造
2008年09月12日 (金)
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第10章 社会の変化についていけない日本の政治
2008年09月26日 (金)
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第11章 フィールドワークで、日本の政治家が代議士になるまでを追う
2008年10月06日 (月)
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第12章 「お流れちょうだいします」はもう通じない、自民党の危機
2008年10月20日 (月)
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第13章 かつての自民党の集票マシンの仕組み
2008年10月31日 (金)
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第14章 ボスが全てを握る時代は終わった
2008年11月11日 (火)
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