記事・レポート
「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」
更新日 : 2008年06月25日
(水)
第1章 本を日本語で書いたのは、日本語でしか考えられないことがあるから
ジェラルド・カーティス: この本『政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年』はタイトルからして、ちょっと変わった本だなと、みなさんお思いではないでしょうか。この本には、政治学者として40数年前から日本のことを観察して勉強した話を書いている面と、昔のことを思い出しながら書いている面があります。
23歳のときに初めて日本に来て、西荻窪の四畳半のお風呂のない部屋に住んで、毎日銭湯に通って、近くの大衆食堂で食事をしました。夫婦でやっていたその食堂に行くたびに、マスターが「今日はこれを食べなさい」と言って何か出してくれるのです。何を出されているのか分からなかったのですが、ただ、おいしかった。それが「秋刀魚」であったとか、そういう昔のことを書いていたりしています。それが、本のタイトルの意味なのです。昔のことを思い出すと、不思議なほどに食べ物ばかりを思い出します。
本を書くというプロセスは非常に面白いのですが、私が書くのは大抵、日本の選挙や政治のことなど非常に硬派な学問書で、その場合はテーゼがあって、いろいろなことを調べて、資料を使って書いていきます。専門家しか手に取らないような本をたくさん書いてきたのです。
この本はそういう学術論文ではなくて自伝的日本人論の要素が強くて、プロセスが非常に自分にとっても面白かった。これは、初めて日本語で書きました。結構苦しいこともありましたが、大変面白い経験でした。なぜ日本語で書いたかというと、日本語で書かないと考えられないようなことがいっぱいあったからです。
膝の上にコンピュータを置いて日本語で書いているうちに、何か指が自然に動いて本を書いているような感じでした。その中で、どうも食べ物の話が多くなったのです。
1つは食生活が非常に変わったということがあります。西荻窪に住んでいたころ、ある大衆食堂によく行っていたのですが、ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの私にとっては、子どものころから親しんできた食事はやはりビーフステーキとポテトでした。
当時、東京で「肉を食べる」といえば鯨だったですが、どうも鯨はあまりおいしいと思えなくて。ある日「肉」が食べたくて、お肉屋さんにビーフステーキを買いに行きました。アメリカだったら重さの単位はパウンドですが、日本ではキロ。1パウンドはだいたい450グラムだと分かったので、「ビーフステーキを450グラムください」と頼みました。すると「何枚ですか?」と聞かれたので「1枚です」と言ったら、相手がびっくりしていました(笑)。
そのころの私の御飯は1パウンドのビーフステーキと焼き芋でした。今考えると、とても食べられないのですが、今の若い日本人はビーフステーキを食べる人がいっぱいいますね。逆に私は秋刀魚、焼き魚、煮魚を食べるというように、食生活が劇的に変わりました。
この本の序文にそのような昔の西荻窪の話を書いているので、読んだ友だちから「『三丁目の夕日』という映画にちょっと似ている」と言われたのですが、日本の昔を懐かしく思う人たちとは違って、こういうことを経験していない若い人たちが興味を示してくれたということが、私にとっては意外でした。
23歳のときに初めて日本に来て、西荻窪の四畳半のお風呂のない部屋に住んで、毎日銭湯に通って、近くの大衆食堂で食事をしました。夫婦でやっていたその食堂に行くたびに、マスターが「今日はこれを食べなさい」と言って何か出してくれるのです。何を出されているのか分からなかったのですが、ただ、おいしかった。それが「秋刀魚」であったとか、そういう昔のことを書いていたりしています。それが、本のタイトルの意味なのです。昔のことを思い出すと、不思議なほどに食べ物ばかりを思い出します。
本を書くというプロセスは非常に面白いのですが、私が書くのは大抵、日本の選挙や政治のことなど非常に硬派な学問書で、その場合はテーゼがあって、いろいろなことを調べて、資料を使って書いていきます。専門家しか手に取らないような本をたくさん書いてきたのです。
この本はそういう学術論文ではなくて自伝的日本人論の要素が強くて、プロセスが非常に自分にとっても面白かった。これは、初めて日本語で書きました。結構苦しいこともありましたが、大変面白い経験でした。なぜ日本語で書いたかというと、日本語で書かないと考えられないようなことがいっぱいあったからです。
膝の上にコンピュータを置いて日本語で書いているうちに、何か指が自然に動いて本を書いているような感じでした。その中で、どうも食べ物の話が多くなったのです。
1つは食生活が非常に変わったということがあります。西荻窪に住んでいたころ、ある大衆食堂によく行っていたのですが、ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの私にとっては、子どものころから親しんできた食事はやはりビーフステーキとポテトでした。
当時、東京で「肉を食べる」といえば鯨だったですが、どうも鯨はあまりおいしいと思えなくて。ある日「肉」が食べたくて、お肉屋さんにビーフステーキを買いに行きました。アメリカだったら重さの単位はパウンドですが、日本ではキロ。1パウンドはだいたい450グラムだと分かったので、「ビーフステーキを450グラムください」と頼みました。すると「何枚ですか?」と聞かれたので「1枚です」と言ったら、相手がびっくりしていました(笑)。
そのころの私の御飯は1パウンドのビーフステーキと焼き芋でした。今考えると、とても食べられないのですが、今の若い日本人はビーフステーキを食べる人がいっぱいいますね。逆に私は秋刀魚、焼き魚、煮魚を食べるというように、食生活が劇的に変わりました。
この本の序文にそのような昔の西荻窪の話を書いているので、読んだ友だちから「『三丁目の夕日』という映画にちょっと似ている」と言われたのですが、日本の昔を懐かしく思う人たちとは違って、こういうことを経験していない若い人たちが興味を示してくれたということが、私にとっては意外でした。
関連書籍
政治と秋刀魚—日本と暮らして四五年
カーティス,ジェラルド日経BP社
「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」 インデックス
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第1章 本を日本語で書いたのは、日本語でしか考えられないことがあるから
2008年06月25日 (水)
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第2章 日本を勉強して45年。変化し続ける日本はおもしろい
2008年07月03日 (木)
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第3章 アメリカ社会の強さは、「遅咲き」を許す力にある
2008年07月17日 (木)
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第4章 深刻な頭脳流出
2008年07月25日 (金)
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第5章 防衛にはハード面の軍事ではなく、ソフト面の交流が必要
2008年08月04日 (月)
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第6章 日本語には音楽のようなリズムがある
2008年08月14日 (木)
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第7章 「難しい」日本語。No.と言わずにNo.と言う価値観
2008年08月25日 (月)
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第8章 カタカナをやめれば、英語の発音は良くなる
2008年09月02日 (火)
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第9章 だめなのは若者ではなく、若者の夢を実現できない社会構造
2008年09月12日 (金)
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第10章 社会の変化についていけない日本の政治
2008年09月26日 (金)
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第11章 フィールドワークで、日本の政治家が代議士になるまでを追う
2008年10月06日 (月)
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第12章 「お流れちょうだいします」はもう通じない、自民党の危機
2008年10月20日 (月)
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第13章 かつての自民党の集票マシンの仕組み
2008年10月31日 (金)
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第14章 ボスが全てを握る時代は終わった
2008年11月11日 (火)
該当講座
Gerald L.Curtis (コロンビア大学政治学名誉教授)
1964年に初来日して以来、アメリカと日本を行ったり来たりする生活を四五年続けてこられたカーティス氏は、広い国際政治の視野を背景に、日本の政治システムや政策決定プロセスなどに精通した稀有な政治学者であり、多くの日本人政治家の友人、知人を有する傑出した知日派として世界に知られています。 カーティス氏....
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