記事・レポート
六本木アートカレッジ・オープニングセッション
アートとスポーツの不思議な関係
競争の向こう側にあるもの:為末大×竹中平蔵
更新日 : 2015年08月05日
(水)
第8章 為末大のセカンドキャリア論
「目的と手段」で考える
会場からの質問(1): 東京オリンピック・パラリンピックに向けて、為末さんのお考えとして、「目利き文化」の他にも何かあれば教えてください。
為末大: 大会における最大の「表現者」は選手かもしれませんが、僕は国民一人ひとりが表現者になることも重要だと考えています。ソーシャルメディアが登場して変わったことは、従来の受信する娯楽に、発信する娯楽が加わったこと。現在は、手軽に文字や映像を発信できるツールがたくさんあります。一人ひとりが表現者として積極的にスポーツの素晴らしさ、美しさについて発信していけば、1億総参加型のオリンピック・パラリンピックになります。そうなれば、史上初のユニークな大会となるでしょうし、スポーツ文化もいま以上に深く根づいていくと思います。
会場からの質問(2): スポーツ選手にとって、「第二の人生」の選択は非常に難しいと思います。為末さんも大変悩まれたそうですが、現時点でのお考えをうかがえますか?
為末大: 今後、その問題はますます増えいくと考えています。2020年まではどの競技も強化費が多く投じられるため、オリンピックには出場できなくても、従来以上に長く現役を続けられる選手もたくさん出てくるはず。そうなると、セカンドキャリアについて悩む選手も多くなるでしょう。
責任の半分は、選手側にあると思います。人生の長さを考えれば、練習や試合だけでなく、セカンドキャリアの準備に時間を投資することも大切だからです。残り半分は、社会の責任だと思います。特に日本では、強化指定を受けているような選手がスポーツだけに集中していないことは、社会的に良しとされない風潮があります。そうした意味では、現役中に並行して引退後の準備を行うのは、かなりハードルが高いことも事実です。
セカンドキャリアの考え方として、僕は講演などで現役選手に伝えていることがあります。それは、僕にとって陸上競技は、自分の目標や目的を達成するための「手段」だったということ。僕は現役の終盤、「なぜ、自分は走るのか? それを通じて、自分は何を成し遂げたかったのか?」という問いと徹底的に向き合いました。僕の答えは、自分の走りで「人々を驚かせたい、喜ばせたい」でした。それが分かった時、この目的を実現する方法は、陸上競技だけではなく、無限にあるように感じられました。こうした問いかけが、引退後の人生をイメージするきっかけになると思います。
金メダルや優勝こそが自分にとっての“山頂”だと考えていたものが、実は人生という視点から見れば、まだ中腹あたりだった。もっと先にある本当の山頂をどうやって見つけるのか? アスリートである前に、ひとりの人間として考えることが大切だと思います。
竹中平蔵: ありがとうございました。アートの場合は引退という考え方がないと思いますが、スポーツはそのあたりが非常に難しいですね。為末さんは最近、義足アスリートのトレーニングにも協力されているそうですね。
為末大: 今回の六本木アートカレッジでも講演するエンジニア・遠藤謙さんと一緒に、株式会社Xiborgという会社を立ち上げ、競技用義足の開発や実用化を進めています。僕達の目標は、2020年に1種目でも、パラリンピアンがオリンピアンに勝つことです。
実はいま、競技用義足の世界ではすごいことが起きています。2014年のドイツ選手権走り幅跳びで、義足をつけた選手が8m24cmを跳び、優勝しました。これはロンドンオリンピックの銀メダルに相当する記録です。現在、オリンピック100m走の世界記録は9秒58、パラリンピック100m走の世界記録は10秒57です。約1秒もの差がありますが、近いうちにこの差が埋まる、もしくは逆転する可能性が大いにあると考えています。
そうなった時、「何が、健常者と障がい者を分け隔てるのか?」という、画期的な問いが生まれるはずです。その問いこそ、一人ひとりの個性に目が向くきっかけになるのではないか。そのように期待しながら、開発に取り組んでいます。
竹中平蔵: 2020年に向けて、はやくも為末さんはアクションを起こされています。ぜひ、我々も為末さんのような柔軟な思考を持ちながら、アートとスポーツのより良い未来に向けてアクションを起こしていきましょう!(了)
為末大: 今回の六本木アートカレッジでも講演するエンジニア・遠藤謙さんと一緒に、株式会社Xiborgという会社を立ち上げ、競技用義足の開発や実用化を進めています。僕達の目標は、2020年に1種目でも、パラリンピアンがオリンピアンに勝つことです。
実はいま、競技用義足の世界ではすごいことが起きています。2014年のドイツ選手権走り幅跳びで、義足をつけた選手が8m24cmを跳び、優勝しました。これはロンドンオリンピックの銀メダルに相当する記録です。現在、オリンピック100m走の世界記録は9秒58、パラリンピック100m走の世界記録は10秒57です。約1秒もの差がありますが、近いうちにこの差が埋まる、もしくは逆転する可能性が大いにあると考えています。
そうなった時、「何が、健常者と障がい者を分け隔てるのか?」という、画期的な問いが生まれるはずです。その問いこそ、一人ひとりの個性に目が向くきっかけになるのではないか。そのように期待しながら、開発に取り組んでいます。
竹中平蔵: 2020年に向けて、はやくも為末さんはアクションを起こされています。ぜひ、我々も為末さんのような柔軟な思考を持ちながら、アートとスポーツのより良い未来に向けてアクションを起こしていきましょう!(了)
気づきポイント
●スポーツとアートの境目は、実は結構曖昧なもの。むしろ、共通する点がたくさんある。
●日本のスポーツ、アートには、隠れた才能を「見抜く」「育てる」「広める」ためのシステムが必要。
●「引く」という発想を持つことが、本質的な強み、本当に残すべきものを知るきっかけになる。
●日本のスポーツ、アートには、隠れた才能を「見抜く」「育てる」「広める」ためのシステムが必要。
●「引く」という発想を持つことが、本質的な強み、本当に残すべきものを知るきっかけになる。
該当講座
六本木アートカレッジ 【オープニングトーク】 スポーツはアートか? ~“美しく走る”ということ~
スポーツには、勝敗が付きものですが、芸術性も重要な要素です。
「競争」と「美しさ」は共存するのか?今までとは違う視点でスポーツと
アートを読み解きます。
六本木アートカレッジ・オープニングセッション
アートとスポーツの不思議な関係 インデックス
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第1章 スポーツとは何か? アートとは何か?
2015年07月22日 (水)
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第2章 「のど自慢」はスポーツか?
2015年07月22日 (水)
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第3章 アートとスポーツに共通する問い
2015年07月22日 (水)
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第4章 アートとスポーツにまつわる楽しさと自由さ
2015年07月29日 (水)
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第5章 スポーツ、アートとお金の関係
2015年07月29日 (水)
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第6章 スポーツにも「目利き」の文化を
2015年07月29日 (水)
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第7章 足していくよりも、引くほうが難しい
2015年08月05日 (水)
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第8章 為末大のセカンドキャリア論
2015年08月05日 (水)
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