記事・レポート

六本木アートカレッジ・オープニングセッション
アートとスポーツの不思議な関係

競争の向こう側にあるもの:為末大×竹中平蔵

更新日 : 2015年07月22日 (水)

第1章 スポーツとは何か? アートとは何か?

陸上スプリント種目の世界大会で日本人初の銅メダルを獲得するなど、400mハードル選手として活躍した為末大氏。引退後は、スポーツを軸としつつ、分野や業界にとらわれない活動で注目を集めています。社会一般の「ものさし」(価値を測る基準)だけで判断せず、自分自身の「ものさし」で物事をとらえることの重要性を語る為末氏と、竹中平蔵・アカデミーヒルズ理事長が、独自の視点からアートとスポーツにまつわる不思議な関係をひもといていきます。

スピーカー:為末大(元プロ陸上選手)
モデレーター:竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学総合政策学部教授 グローバルセキュリティ研究所所長)

為末大(元プロ陸上選手)
為末大(元プロ陸上選手)

 
アートは生きる力になる

竹中平蔵: 未曾有の大災害となった3.11が起きた直後、とあるジャーナリストが被災地を訪れ、混沌とした状況の中、出会う人に「いま、何がほしいですか?」と尋ねました。1人目は「水がほしい」と、2人目は「食べ物がほしい」と答えたそうです。インフラが断絶した状況では、当然の答えだと思います。しかし、3人目は「歌がほしい」と答えたそうです。「歌がほしい、人間らしく生きたい」と。

生物である人間は、水や食べ物がなければ生きてはいけません。しかしながら、ニーチェは語っています。「アートとは最高のものである。人間を人間として生かすための原動力である」。つまり、アートは人間にとって生きる力になる。ある人にとっては歌や音楽であり、ある人にとっては絵画、写真であるかもしれません。先の被災地のエピソードを通じて、私はニーチェの言葉の意味をあらためて理解しました。

アートとは、なかなかとらえ所がなく、定義しにくいものです。私自身は、アートとは何かしらの表現を通して「感動」を生み出すものだと感じています。同時にそれは、時間と空間にも深く関わっています。時代が変わり、場所が変われば、作品が与える感動は以前とは異なるものになるからです。

このセッションは、トップアスリートとして世界で活躍し、引退後も既存の枠にとらわれない幅広い活動で注目を集める為末大さんをお迎えしています。とらえ所のないアートについて、為末さん独特の視点からどのようなお話が飛び出すのか、とても楽しみにしています。
自分なりの「ものさし」で考える

為末大: 僕はスポーツの人間で、正直な所、アートはほぼ分かりません。それでは、なぜ僕がここに呼ばれたのか?

実は2年前、ここアカデミーヒルズで「自分軸のつくりかた」というテーマで、竹中先生と対談を行いました。当時は引退直後で、僕は人に出会うたびに「将来、何をやればいいですか?」と質問していました。竹中先生に質問すると、「あなたは、あるものとあるものを組み合わせて、新たな『コンセプト』を立てる人になれるのではないか?」と答えていただきました。

そこで今回は、僕なりの「ものさし」を通じて、スポーツとアートを組み合わせながら様々なコンセプトを立て、そこで生まれた問いについて皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

まずは、スポーツの「範囲」について考えてみましょう。いきなりですが、果たして、のど自慢はスポーツでしょうか?


該当講座


六本木アートカレッジ 【オープニングトーク】 スポーツはアートか? ~“美しく走る”ということ~
六本木アートカレッジ 【オープニングトーク】 スポーツはアートか? ~“美しく走る”ということ~

スポーツには、勝敗が付きものですが、芸術性も重要な要素です。
「競争」と「美しさ」は共存するのか?今までとは違う視点でスポーツと
アートを読み解きます。


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