記事・レポート
石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより
時代を超えるビジョンが、独創未来を創る
キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月28日
(火)
第12章 イノベーションのエネルギー
制約はデザインの友
会場からの質問: 「制約自由」という言葉が出ていましたが、日本の企業はいま、自ら作り上げた制約に縛られ、不自由になっているように感じています。
石井裕: 少し文脈は異なるかもしれませんが、たとえば、無限の自由があれば、本当に優れたデザインができるのか。お金がない、時間がない、リソースがない……こうした様々な制約をネガティブに捉えるのではなく、制約を「友達」にする。人生のデザインにおいても大切なことだと思います。
【制約】はデザインの友。「無限自由」はむしろ創造を減速する。意味のある制約を積極的に取り込み、それをデザイン哲学へと昇華させること。あるいは哲学を極め、それを現実解を導く制約へと翻訳適用すること。「不自由」は創造の源泉。RT @_anohito: 制約がなければ工夫は生まれない.
— Hiroshi Ishii 石井裕 (@ishii_mit) 2013, 1月 5
会場からの質問: 情報弱者は未来で活躍できる場があるのか? をお聞きしたいです。たとえば、知的障害者を持つ方のなかには、突出した能力を持った方もたくさんいます。他方で、情報を咀嚼して発信するというコミュニケーションが難しい方もいます。未来の世界では、こうした方々が活躍できる場は生まれるのでしょうか?
石井裕: 当然、イエスです。なぜかと言えば、そもそも私たちが暮らす世界は、多様性に満ちあふれているからです。多様性が世界をエキサイティングかつ面白いものにしています。ときには大きな問題も生みますが。この広い世界を支えているのは、多様な価値観、多様な知見を持った人々です。それぞれが、自分の貢献できる場所を見つけ、活躍しています。
私の同僚にヒュー・ヘアという、メカトロニクスの研究者がいます。彼は10代の頃から世界的なクライマーでしたが、登山中の事故で両足の膝から下を失いました。それでも彼は、山に戻りたいと願い、義足の研究を始めました。彼の作った義足の優れている点は、岩壁の状況や雪山の状態に合わせ、長さや先についたモジュールが変えられる。健常者では難しい場所にまで登ることができる点です。
彼が語ったビジョンがあります。「最新技術を活用することで、この世の中からハンディキャップという概念をなくし、機能を補うのではなく、それをバージョン2.0へアップグレードする素晴らしいチャンスへと変えること」。何かに頼らざるを得ない状況をネガティブに捉えるのではなく、健常者がたどり着けない世界にまで到達できるチャンスと捉えている。彼はすでにそのビジョンを実現し始めています。私も、彼が思い描く未来の到来を信じています。
会場からの質問: 今後は団体や組織に所属するのではなく、個々人の目的に合わせて都度チームを作り、行動する。そうした社会になると考えていますが、その観点から団体や組織の存在意義について、どのようにお考えですか?
石井裕: 大きな企業や団体でなければ、社会のために成し得ないことはたくさんあります。いっぽうで、縦割りの凝り固まった組織や存続すること自体が目的となった組織には、隠蔽など弊害が生じます。今後、ディスラプティブなイノベーションを起こそうとしていく場合、最も強烈なエネルギーとなるのは、組織ではなく突出した個です。突出した個が新しい動きを作り、強い磁場を作り出し、たくさんの人が集まってくる。
多様性は社会に存在するものではなく、まず個人個人の頭の中に持つべきものです。頭の中に、テクノロジー好きの自分、アートを愛する自分……といったエージェントを多数住まわせ、常に議論を行う。さらに、頭の中に多数のエージェントを持つ人々との他流試合を通じて、切磋琢磨する。共通のビジョンについて熱く語り合いながらベータ版を作り、世の中にリリースし、世界から学び(リアクション)を得ることで、よりよいものを創りあげていく。
世界には、とんでもない才能がごまんと存在しています。そしていまは、遠く離れていても簡単につながることが、とても軽やかにできる時代です。ぜひ、時代のリズムで呼吸して、たくさんの面白い仕事を手掛けてください。(了)
<気づきポイント>
●未来創造への第一歩は、200年後も生き続ける普遍的なプリンシプル、価値観をつかみとること。
●ラディカル・アトムズを通して、仮想世界と物理世界をつなぐ新しい情報表現と操作が可能になる。
●優れたビジョンは、あらゆる分野の言語に翻訳でき、それらすべてで十二分に戦うことができる。
石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより インデックス
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第1章 MITメディアラボのプリンシプル
2014年01月08日 (水)
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第2章 本質は情報生態系のなかにある
2014年01月09日 (木)
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第3章 タンジブル・ビットの原点
2014年01月10日 (金)
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第4章 情報を“気配”として表現する
2014年01月14日 (火)
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第5章 インスパイアの連鎖反応を起こす
2014年01月16日 (木)
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第6章 タンジブル・ビットからラディカル・アトムズへ
2014年01月17日 (金)
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第7章 18年かけてたどり着いたビジョン
2014年01月20日 (月)
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第8章 新しい未来をつくる、3つのパッション
2014年01月21日 (火)
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第9章 MITメディアラボは深いアイデアやビジョンを作り出す場
2014年01月23日 (木)
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第10章 自分を信じて、突き抜ける
2014年01月24日 (金)
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第11章 未踏峰連山を目指す君に3つのフォースを
2014年01月27日 (月)
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第12章 イノベーションのエネルギー
2014年01月28日 (火)
該当講座
理念駆動:タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
Vision-Driven: From Tangible Bits Towards Radical Atoms
石井裕 (MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)
林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。
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