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石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより

時代を超えるビジョンが、独創未来を創る

キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月21日 (火)

第8章 新しい未来をつくる、3つのパッション

石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts

 
ヒーローが遺した言葉

石井裕: テクノロジーはあくまでも手段に過ぎません。「これほど優れたテクノロジーなら、絶対に素晴らしいアプリケーションがあるだろう」だけでは、翌年にはゴミ処理場へと行ってしまう可能性が高い。なぜかと言えば、テクノロジーもアプリケーションも、あっという間に次のものへと置き換わってしまうからです。いっぽうで、優れたビジョンは10年後、100年後、200年後も形を変えず、受け継がれていきます。

私のヒーローであるダグラス・エンゲルバートは、1950年代に「社会全体が一致団結して立ち向かわなければならない問題が起きたときに、世界から知を集めるためのメディアとなるために、コンピュータとコミュニケーションのテクノロジーは存在するのだ」と言い切りました。当時のコンピュータはとてつもなく大きく、情報処理のスピードも遅く、ミサイルの弾道計算すらきちんとできなかった。エンゲルバートは、そうした時代に来るべきネット社会の未来の姿を見抜いていた、とんでもない天才です。マウスの開発者として一般には知られていますが、集合知(Collective Intelligence)こそ、彼の示した最高のビジョンです。

テクノロジーも、ユーザーニーズも大切です。しかし、もっとその先のことを考えてみましょう。Vision-Driven、Envision & Embody、Invent & Inspire。これが新しい未来、エキサイティングな未来を作る上で、とても重要なパッションになると思います。

2200年の世界への責任

石井裕: 2050年、私はもうこの世に存在しません。2100年になれば、みなさんも同じです。メメント・モリ(死を想え)。しかしながら、私たちの死の先にも、この世界は存在を続け、未来に向けて進んでいきます。2200年の未来、そこには我々の子孫たちが生きているわけです。

私が自分自身、そして学生たちに問い続けていることがあります。「2200年を生きる未来の人々に何を残すのか、どのような形で思い出されたいのか」。未来に対して、いまを生きる私たちは大きな責任を負っています。よりよい100年後、200年後に向けて、どのようなビジョンを残せるのか。それを問い続けながら、私は今後も研究を続けていきたいと思っています。



石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
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該当講座

理念駆動:タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ

Vision-Driven: From Tangible Bits Towards Radical Atoms

理念駆動:タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
石井裕 (MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)
林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)

石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。


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