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井上慎一CEOが語る日本初・本格的LCC「ピーチ」の戦略

アジアの空を、もっと近く、面白く

日本元気塾経営戦略キャリア・人
更新日 : 2013年11月01日 (金)

第7章 低コスト化の「種」はあらゆる場所にある


 
わずか20万円の宣伝費で4,000人が集まった

井上慎一: 低価格運賃を実現するためには、何より企業そのものを低コスト体質にしなければなりません。そのために安全性以外のあらゆる面で、常識にとらわれない活動に取り組んでいます。

ピーチでは、宣伝活動に膨大なコストをかけてはいません。例えば、第1回目の客室乗務員の募集時の予算は、わずか20万円でした。新聞・雑誌広告など、とても出せない金額ですが、私たちは「20万円でやり切るのがピーチ流だ!」と考え、知恵を絞りました。その結果、会社名と採用サイトのアドレスを記載したピンク色のうちわを5,000枚作りました。

うちわを持ち、社員総出で向かったのは、大阪の難波駅や心斎橋でした。私たちは「客室乗務員募集」のタスキを掛け、道行く人にピンク色のうちわを手渡しました。航空会社としては前代未聞の募集方法です。瞬く間にマスコミの注目が集まり、夕方のニュース番組で一斉に取り上げられました。それが思わぬ宣伝効果を生み、90人の募集に対して4,000人もの応募を集めることができたのです。リソースが限られているなら、ピーチらしい方法で工夫すればいい。こうしたことが、低コスト化に関する学びの第一歩となりました。

また、就航した2012年3月から10月までは、関西国際空港(関空)にLCCの専用ターミナルはなく、関空側から勧められたのは、メインターミナル。賃料(平米単価)は銀座並でした。そこで、我々が選んだのは、大手デパートが撤退した後のスペースでした。この空きスペースを活用し、ターミナルとして使うことにしたのです。賃料は格段に安く、しかもLCC専用ターミナルができるまでの暫定使用であるため、すぐに撤退できるよう、設備も必要最低限に抑えました。

ジャパンクオリティーへのこだわり

井上慎一: プロダクトの低コスト化にも積極的に取り組んでします。ピーチでは、チェックインはすべて自動チェックイン機で行います。ネット予約の際に印刷した予約確認書を持って空港に行き、自動チェックイン機のスキャナーにバーコードをかざす。これだけで搭乗手続きが完了し、座席が記載されたレシートが発券されます。非常にシンプルです。

こうしたことを「シンプルな機能から始まる、イノベーションスパイラル」と呼んでいます。余計なアクションをなくし、操作時間を短縮すれば、長蛇の列にもなりません。設置台数も削減でき、ハードウェアのコストが下がるのと同時に、機器を設置するスペースの賃料も抑えることができます。また、操作の簡便性が向上すれば、飛行機を利用するお客様の心理的なハードルも下がります。実は、自動チェックイン機は、シニアの方に非常に喜ばれています。このように、機能をシンプルにすることで、イノベーションスパイラルが生まれるのです。

イノベーションの実践は低コスト化だけではありません。「ジャパンクオリティー」と銘打ち、ピーチならではの方法で、新たな価値創造に取り組んでいます。

例えば、機体には「フューシャピンク」という洗練されたピンクを使用し、座席はパープルとダークブルーを交互に組み合わせた総革張り仕様にしました。色づかいや内装は、潜在需要の中心と想定する女性層を意識した品のあるデザインでまとめており、実際に多くのお客様から高い評価をいただいています。客室乗務員の制服もフューシャピンクを基調としていますが、こだわったのは、日本ならではの美的センスである「艶やかさ」です。カジュアルさの中に、プロフェッショナルならではの気品を感じさせるデザイン。一度見れば「ピーチの客室乗務員だ」と覚えていただくことができます。

このほかにも、おもてなしの心を体現した機内サービス、クリンネスへのきめ細かな配慮など、あらゆる場面において「ジャパンクオリティー」の品質やデザインにこだわり、他社との差別化を図っています。


該当講座

アジアの空を、もっと近く、面白く

~日本初・本格的LCC Peach の戦略~

アジアの空を、もっと近く、面白く
井上慎一 (Peach Aviation 株式会社 代表取締役CEO)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

井上慎一(Peach Aviation㈱代表取締役CEO)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
日本初の本格的LCC(Low Cost Carrier)として、2012年3月就航したピーチ。これまでの航空業界と異なるやり方で、安定的な低コストを実現させ、かつ可愛らしく、気軽に利用できるブランドイメージで、順調に顧客を広げています。人々のライフスタイルを変えるイノベーションの本質と、今後のアジアでの事業展開・戦略に迫ります。


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