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井上慎一CEOが語る日本初・本格的LCC「ピーチ」の戦略

アジアの空を、もっと近く、面白く

日本元気塾経営戦略キャリア・人
更新日 : 2013年10月31日 (木)

第6章 イノベーションの前に安全なフライトありき


 
新しい飛行機が安全を担保する

井上慎一: イノベーションを実践する上での大前提は、安全なフライトを担保することです。そのために、安全推進委員会の活動はもちろん、全社員を対象に毎月行う研修などを通して、全社的な安全推進体制を構築しています。

使用する飛行機は、すべて新造機をリース導入しています。中古機は一切使いません。当社が使用するエアバスA320は、世界の航空会社で数千機以上導入されているベストセラー機です。したがって、故障となる要素はほぼ出尽くし、すでに解消されている機種と言えます。

ピーチは現在、所有する8機で国内7路線、海外4路線を展開しています。限られた台数を効率よく活用し、かつ安全性を担保するためには、故障率を最小限にすることが大切です。新造機を使うことで、機体の劣化や不具合による欠航を極小化でき、すべて同一機種に揃えることで、整備も省力化・短時間化できます。また、一定期間で新造機に更新することで、常に機体年齢の若さも保っています。

なお、エアバスA320の機体は横に広い楕円形であるため、従来のLCCの機体に比べ、シート幅が少しだけ広くなります。また、上部のトレーに荷物を入れる際、横ではなく縦にすっぽりと入るため、非常に乗せやすく、取り出しやすいのです。狭いながらも、様々な面で快適性に優れていることも、エアバスA320を選んだ理由です。

一人称で安全を語れ

井上慎一: さらに、安全運航については、豊富な経験とノウハウを持つ全日空と有償契約を結び、指導を受けています。なぜ、有償なのかと言えば、ピーチは全日空から完全に独立した航空会社だからです。当社の出資比率は、全日空ホールディングス38.67%、官民出資の投資ファンドである産業革新機構28%、香港の投資会社ファースト・イースタン・インベストメントグループ33.33%となっています。

実は、LCCビジネスには、経営的な失敗事例が山ほどあります。そうした失敗事例を分析し、私なりに出した結論が、連結子会社はうまくいかない、です。連結子会社では、意思決定を柔軟に行うことが難しく、従来の航空会社の慣習や常識にも影響されやすいため、真の意味でLCCになりきれないのです。

独立した意思決定ができることは、安全性の向上を図っていく上でも重要なポイントとなります。私としては、日本ではまだ馴染みの薄いLCCだからこそ、大手航空会社を上回る安全品質を達成したい。だからこそ、しがらみにとらわれない柔軟な発想で、安全性についてもイノベーションを起こしていく必要があるのです。私がよく口にするのは、「一人称で安全を語れ」。日頃からそれを、すべての社員に語りかけています。

※就航路線はセミナー開催時2013年5月現在のものです。


該当講座

アジアの空を、もっと近く、面白く

~日本初・本格的LCC Peach の戦略~

アジアの空を、もっと近く、面白く
井上慎一 (Peach Aviation 株式会社 代表取締役CEO)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

井上慎一(Peach Aviation㈱代表取締役CEO)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
日本初の本格的LCC(Low Cost Carrier)として、2012年3月就航したピーチ。これまでの航空業界と異なるやり方で、安定的な低コストを実現させ、かつ可愛らしく、気軽に利用できるブランドイメージで、順調に顧客を広げています。人々のライフスタイルを変えるイノベーションの本質と、今後のアジアでの事業展開・戦略に迫ります。


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