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「世界の都市総合ランキング 2011」で4位だった東京の将来性は?

~東京の磁力を回復し、優秀な人材や企業を惹きつけろ~

東京政治・経済・国際経営戦略
更新日 : 2012年04月10日 (火)

第5章 日本はグローバル競争に対する危機感が足りない

グレン・S・フクシマ氏

グレン・S・フクシマ:  私は1990年まで米国通商代表部で働いていたので、アメリカのワシントンに住んでいました。その後東京に移りましたが、今も月に1~4回は海外出張に出ています。ですから私は、日本や東京を外からみている人間としてお話ししたいと思います。

私は東京が大変好きですが、海外に出て戻ってくると、いつも危機感を感じます。今、世界は大競争の時代で、企業間、国家間、都市間で激しい競争が繰り広げられています。東京は安全だし、清潔だし、交通機関は時間どおりに動くし、文化施設も3つ星レストランも豊富で居心地がいいのですが、外の競争に関する危機感が足りないと思います。

1つ例を挙げると、シンガポールのEDB(Economic Development Board=経済開発庁)のナンバー2が「将来的に人口は600万人に増やす。そのうち外国国籍の人は150万人を想定している。高学歴、高所得の魅力的な人材を惹きつけるために、優秀な企業と一流大学を誘致する」と、シンガポールの将来像を2009年の時点で明確に語っていました。実際に「法人税を引き下げてインセンティブを与えることで、P&Gのアジア拠点を神戸からシンガポールに引っ張ることに成功した」とも言っていました。香港、ソウル、あるいはドイツの都市市長も、同様の戦略を口にしていました。

外国人から東京を見た場合、組織人か個人かで印象が違ってきます。東京の物価は非常に高いのですが、組織人、つまり企業や政府の代表として来る場合は組織が負担してくれるので、東京は魅力的な面が多いと思います。しかし個人が日本に住もうと思うと、物価の高さだけでなく言葉の問題もあって、魅力が激減すると思います。今回の震災の影響も心配です。日本への投資や、留学生の数、日本での国際会議の開催数が減るのではないかなど、いろいろな懸念材料があります。

危機的なデータもあります。毎年ロンドンのコンサルティング会社が、企業の財務担当者に「これからどの国に投資する予定か」「どの国で今後ビジネスを最も拡大する可能性があるか」というアンケート調査を行っているのですが、2011年の結果では、18カ国の中で日本は下から2番目でした。ちなみに一番下はイタリアです。上位は中国、アメリカ、ドイツ、インドの順でした。これは震災前の調査なので、震災後の日本、あるいは東京の魅力はさらに低下している可能性があります。

東京には大変魅力的な面があるし、底力もあるので、政策的に競争力を高めようとすれば、私は今の4位より上のランクを獲得できると思います。しかしこれは、相当な危機感を持って努力しなければ達成できないと思います。

竹中平蔵: 先ほどのアンケート調査で、東京の現在(2011年)のランキングについて「高すぎる」「低すぎる」「妥当」のどれを選ばれましたか?

グレン・S・フクシマ: 「高すぎる」です。

竹中平蔵: 猪瀬さんは「低すぎる」でしたから、反対ですね。では来年(2012年)の評価は「上がる」「下がる」「同じ」のどれですか?

グレン・S・フクシマ: 「下がる」です。

竹中平蔵: 「下がる」というのは一致していますね。市川さんはどれを選択されましたか?

市川宏雄: 現在の4位は「妥当」、来年は「同じ」を選びました。

竹中平蔵:  私は、現在の4位は「妥当」、来年は「下がる」を選びました。この4人の中では、来年のランキングは「下がる」を選んだ方が多いですね。

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該当講座

東京の磁力を回復する

~「世界の都市総合力ランキングGPCI-2011」からみた東京の未来展望~

東京の磁力を回復する
猪瀬直樹 (東京都副知事・作家)
GLEN S. FUKUSHIMA (エアバス・ジャパン株式会社 取締役会長 元在日米国商工会議所会頭 )
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )

猪瀬 直樹(東京都副知事)グレン・S・フクシマ(エアバス・ジャパン㈱取締役会長)竹中平蔵(慶應義塾大学教授)市川 宏雄(明治大学専門職大学院長)
東京」の磁力を回復させ世界から人々を呼び込むために、何が課題で、何をすべきかを明確にすることは、日本全体の未来を考えるうえで、必須命題ではないでしょうか。『都市総合力ランキング』という客観的データを基に、多面的な視点からの意見を交わし、日本そしてグローバル・シティ「東京」が緊急に解決すべき課題を明らかにします。


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