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宇宙は何でできているのか ~宇宙の果ての向こう~

暗黒物質や暗黒エネルギーなど最新宇宙論を、村山斉が解説

教養文化
更新日 : 2012年01月16日 (月)

第4章 宇宙の果てはどうなっているのか

村山斉氏
村山斉: 宇宙には銀河がたくさんある場所とぜんぜんない場所があります。このムラはどうしてできたのでしょうか? 実はこれにも暗黒物質が関わっているのです。順を追って説明しましょう。

遠くの宇宙を見るということは、時間をさかのぼって宇宙の始まりを見るということです。これは「私たちが目にしている太陽は8分前の姿である」という先ほどの話と同じです。遠くの銀河を見つけることは世界で競争になっていて、日本のすばる望遠鏡を使ったチームがギネス記録の更新をしばらく続けていましたが、最近ハッブル宇宙望遠鏡に抜かれてしまいました。ハッブルが見つけたのは、132億光年離れた銀河です。

この132億光年離れた銀河もそうですが、遠くの銀河は赤く見えます。このことから「宇宙はどんどん大きくなっている」ということがわかります。なぜそんなことがわかるのかというと、皆さんご存知のドップラー効果と同じです。救急車が近づいてくるときはサイレンの音が高く聞こえますが、遠ざかっていくときには低く聞こえますよね。音の場合は遠ざかっていくと低くなりますが、光の場合は赤くなるのです。ですから遠くの銀河が赤く見えるということは、遠ざかっているということです。

「遠ざかっている」と言うと、まるで私たちの銀河系が宇宙の中心にあって、周りの銀河が逃げていっているように感じるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。宇宙自身が大きくなっているのです。宇宙を碁盤の目のように考えるとわかります。目の上に乗っている一つひとつの銀河は、みんな止まっていて動いていません。でもこの碁盤がゴムでできていて、ビヨーンと引き伸ばしたら、宇宙自身が大きくなりますよね。

このときAという銀河からBという銀河を見ていたとすると、Bはさっきよりも遠くに見えます。Bにとっても同じで、Aがさっきよりも遠くに見えます。当の銀河はそれぞれ「自分は止まっている」と思っているのですが、宇宙自身が大きくなっているので、どの銀河からどの銀河を見ても、どんどん遠くなっているように見えるのです。

宇宙は膨張していて、だんだん冷えてきています。ということは、昔の宇宙は小さくて熱かったはずです。これがビッグバンです。遠くを見ると、昔が見えるわけですから、ずっとずっと遠くを見ると、ビッグバンの光が見えます。その光は少しまだらになっています。このムラが、やがて銀河のムラになったと考えられています。この発見で、カリフォルニア大学バークレー校の私の同僚のジョージ・スムートと、NASAのジョン・マザーは、2006年にノーベル物理学を受賞しました。


 
Seven Year Microwave Sky

Credit: NASA / the WMAP Science Team

ビッグバンの光を観測した画像は、137億光年向こうにある「壁」です。それ以上向こうは決して見ることができません。なぜなら、これ以上昔は宇宙がものすごく小さくて熱いので、原子を構成している原子核と、その周りを回っている電子がバラバラになっているからです。これがバラバラになった状態では、光が電子にゴツンゴツンとぶつかって真っすぐ進むことができません。だからどんなに一所懸命見ようとしても、言ってみれば濃い霧の中に入ったみたいなもので、よく見えないんです。ですので137億光年向こうが、私たちが見ることのできる宇宙の果てということになります。

光がまっすぐに進めるようになったのは、宇宙が約38万歳になったときです。ですのでビッグバンの光の壁は、38万歳のときの宇宙の様子です。

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関連書籍

『宇宙は何でできているのか』

村山斉
幻冬舎

『宇宙は本当にひとつなのか』

村山斉
講談社



該当講座

宇宙は何でできているのか 

~宇宙の果ての向こう~

宇宙は何でできているのか 
村山斉 (東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)

村山斉(東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)ベストセラー『宇宙は何でできているのか -素粒子物理学で解く宇宙の謎-』の著者である村山斉氏に、最新の観測・研究からわかった宇宙のはじまり についてお話いただきます。 セミナー終了後は、観望会を予定しております。


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