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宇宙は何でできているのか ~宇宙の果ての向こう~

暗黒物質や暗黒エネルギーなど最新宇宙論を、村山斉が解説

教養文化
更新日 : 2012年01月19日 (木)

第6章 宇宙の本当の始まりは、物理学者の悩みの種

村山斉氏

村山斉: 仮に暗黒物質の正体がわかって、ビッグバンから100億分の1秒後の宇宙までわかったとしても「その前、宇宙の本当の始まりはどうなっているんだ?」というのが、当然気になります。しかし、これを考えるのはなかなか難しいことなのです。

宇宙が原子1個よりも小さかった時代があるということは、わかっています。さらに本当の最初にさかのぼっていくと、グシャッとつぶれて点になってしまうのでしょうか? ところがグシャッと点につぶれていると、宇宙の中にある全エネルギーがそこにつまっていることになるので、中のエネルギーが無限大になってしまいます。こうなると物理学者の手に負えなくなるんです。「特異点」といって、今わかっている物理法則が全部使えない特別な場所——物理学者にとっては嫌な場所——ということになります。

「ビッグバンで宇宙が始まったとすると、時間にも始まりがあるのだろうか?」ということも気になってきます。ホーキング博士が唱えた「無境界仮説」によると、宇宙の最初は「時間と空間に区別がなかった」「宇宙の始まりでは、時間は前にも後ろにも行けた」のです。

今の私たちの宇宙では、時間は前に進むけれど戻れませんよね。前と後ろには違いがあります。これに対して空間は右にも左にも行けるので、時間と空間はすごく違うように思えます。時間が前にも後ろにも行けたというのは変ですよね。これをホーキング博士はどう説明したかというと「時間はそのとき虚数だったんだ」——訳がわからないですよね(笑)。虚数というのは絶対にあり得ない数なので、だからこそ「虚数」という名前がついているわけですが、彼は「時間は虚数だった」と言っているんです。「その虚数が実数になった瞬間に、時間に前と後ろの区別ができて、どんどん大きくなる宇宙になったんだ」というのが彼の説です。

はっきり言って、何のことか私もよくわからないのですが(笑)、はっきりしていることは「宇宙の本当の始め」については、まだまだわからないことがたくさんあるということです。

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関連書籍

『宇宙は何でできているのか』

村山斉
幻冬舎

『宇宙は本当にひとつなのか』

村山斉
講談社



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~宇宙の果ての向こう~

宇宙は何でできているのか 
村山斉 (東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)

村山斉(東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)ベストセラー『宇宙は何でできているのか -素粒子物理学で解く宇宙の謎-』の著者である村山斉氏に、最新の観測・研究からわかった宇宙のはじまり についてお話いただきます。 セミナー終了後は、観望会を予定しております。


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