記事・レポート
若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方
~『告白』『悪人』『東のエデン』はこうして生まれた~
BIZセミナーキャリア・人文化
更新日 : 2011年12月12日
(月)
第9章 ネット時代だからこそ、リアルなイベントが大事
石井朋彦: 『攻穀機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』では、神山監督のイベントを30回ぐらいやりました。先日の試写会では、新宿バルト9を借り切って、全スクリーンでオールナイト上映しました。このイベントは1,600人の定員に対して8,000人の方が応募してくださり、新宿バルト9が深夜にすし詰め状態になりました。
ついついそれで満足しがちですが、我々の目的は公開したら劇場に数万人、十数万人のお客さんに来ていただくことです。ですのでプロデューサーは「これはあくまでもここだけの出来事だ」と冷静にならないといけません。しかしPRのためには、ここでの出来事が全国規模で起きていることのように“見せかける”ことも大事です。全国の人たちに「すごいことになっていますよ。見ないと乗り遅れちゃいますよ」とアピールするのです。
そのためにどうしたかというと、お客さんにツイッターやブログなどのSNSで拡散していただけるように、記者会見の様子も本編も「撮影OK」にしました。普通は禁止されていることがOKになると、お客さんはすごく喜んでくださいます。試写会にいらした1,600人の方に「なかなか面白いことをやるじゃん」と思っていただければ、ネットでツイートしてもらえて、それが16,000人に広がり、160,000人に広がるわけです。だからリアルなイベントに来てくださるお客さんの力を大事にすることが、これからの映画制作・宣伝では非常に大事になります。
最後に若干宣伝になってしまいますが、神山監督と出資して博報堂さんらと共にSTEVE N' STEVEN(スティーブンスティーブン)という会社を立ち上げました。「アニメの監督がとうとう金に走ったか」「石井は独立したのか」と誤解されましたが、目的はシンプルです。先ほどもお話ししましたが、今、アニメーション業界ではお金の流れが大きく変わってきています。作品そのものにお金を払ってくれるお客さんは減っていますが、周辺ビジネスは拡大しているのです。でも僕らは制作会社ですので、フィギュアなどの商品をつくることを前提に作品をつくることが得意ではありません。一方、企業はテレビの力が弱くなっているために、どこにお金を出して宣伝すればいいのか非常に迷っています。そこをつなぐための会社です。
実はアニメーションは、企業にとってお金の出しどころとして敷居が低いんです。しかもアニメのお客さんは一度ファンになったらずっとファンでいてくださいますし、キャラクターはスキャンダルもないし歳もとりません(笑)。こうした企業にとってのメリットと我々が作品をつくるメリットを、言葉を通じて合致させて一緒にプロジェクトをやるための会社です。
具体的には、例えば今なら(※2011年6月現在)全国のワーナーマイカル系の劇場で、神山監督がつくった「ペプシネックス」と「サイボーグ009」のコラボ3DCMを上映しています。これはサイボーグ009が床に置いてあるペプシを投げて、飛び散ったペプシを目にも止まらぬ速さで再びビンの中に戻すという、飲むシーンが1回もないCMです。実は「床に置く・投げる・飛び散る」は本来飲料の宣伝としてはやってはいけないことなのですが、サントリーさんには大変喜んでいただけました。従来のように「いかに美味しそうに飲むか」ではなく、アニメーションのスローモーションを使って画面全体をペプシのしずくで満たすことで、見た人がついつい飲みたくなってしまうようになっていたからです。
もし我々とサントリーさんの間に代理店の方がいらしたら「これは絶対NGです」「ペプシが弾けるなんてとんでもない!」となっていた。そこをSTEVE N' STEVENがクリエイティブ・コントロールしつつ、企業メリットもちゃんとキープしながら一番いい状態に企画を持っていくのです。だから、作品をつくる中心の神山健治監督が取締役になっています。
僕らは日々コツコツと絵を描くスタッフと一緒に映画をつくっています。けれどそれを世に出すために言葉を共有するという意味では、皆さまといつでもご一緒できる業界だと思いますので、お声を掛けていただければ幸いです。(終)
ついついそれで満足しがちですが、我々の目的は公開したら劇場に数万人、十数万人のお客さんに来ていただくことです。ですのでプロデューサーは「これはあくまでもここだけの出来事だ」と冷静にならないといけません。しかしPRのためには、ここでの出来事が全国規模で起きていることのように“見せかける”ことも大事です。全国の人たちに「すごいことになっていますよ。見ないと乗り遅れちゃいますよ」とアピールするのです。
そのためにどうしたかというと、お客さんにツイッターやブログなどのSNSで拡散していただけるように、記者会見の様子も本編も「撮影OK」にしました。普通は禁止されていることがOKになると、お客さんはすごく喜んでくださいます。試写会にいらした1,600人の方に「なかなか面白いことをやるじゃん」と思っていただければ、ネットでツイートしてもらえて、それが16,000人に広がり、160,000人に広がるわけです。だからリアルなイベントに来てくださるお客さんの力を大事にすることが、これからの映画制作・宣伝では非常に大事になります。
最後に若干宣伝になってしまいますが、神山監督と出資して博報堂さんらと共にSTEVE N' STEVEN(スティーブンスティーブン)という会社を立ち上げました。「アニメの監督がとうとう金に走ったか」「石井は独立したのか」と誤解されましたが、目的はシンプルです。先ほどもお話ししましたが、今、アニメーション業界ではお金の流れが大きく変わってきています。作品そのものにお金を払ってくれるお客さんは減っていますが、周辺ビジネスは拡大しているのです。でも僕らは制作会社ですので、フィギュアなどの商品をつくることを前提に作品をつくることが得意ではありません。一方、企業はテレビの力が弱くなっているために、どこにお金を出して宣伝すればいいのか非常に迷っています。そこをつなぐための会社です。
実はアニメーションは、企業にとってお金の出しどころとして敷居が低いんです。しかもアニメのお客さんは一度ファンになったらずっとファンでいてくださいますし、キャラクターはスキャンダルもないし歳もとりません(笑)。こうした企業にとってのメリットと我々が作品をつくるメリットを、言葉を通じて合致させて一緒にプロジェクトをやるための会社です。
具体的には、例えば今なら(※2011年6月現在)全国のワーナーマイカル系の劇場で、神山監督がつくった「ペプシネックス」と「サイボーグ009」のコラボ3DCMを上映しています。これはサイボーグ009が床に置いてあるペプシを投げて、飛び散ったペプシを目にも止まらぬ速さで再びビンの中に戻すという、飲むシーンが1回もないCMです。実は「床に置く・投げる・飛び散る」は本来飲料の宣伝としてはやってはいけないことなのですが、サントリーさんには大変喜んでいただけました。従来のように「いかに美味しそうに飲むか」ではなく、アニメーションのスローモーションを使って画面全体をペプシのしずくで満たすことで、見た人がついつい飲みたくなってしまうようになっていたからです。
もし我々とサントリーさんの間に代理店の方がいらしたら「これは絶対NGです」「ペプシが弾けるなんてとんでもない!」となっていた。そこをSTEVE N' STEVENがクリエイティブ・コントロールしつつ、企業メリットもちゃんとキープしながら一番いい状態に企画を持っていくのです。だから、作品をつくる中心の神山健治監督が取締役になっています。
僕らは日々コツコツと絵を描くスタッフと一緒に映画をつくっています。けれどそれを世に出すために言葉を共有するという意味では、皆さまといつでもご一緒できる業界だと思いますので、お声を掛けていただければ幸いです。(終)
若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方 インデックス
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第1章 映画プロデューサーの仕事とは?
2011年11月28日 (月)
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第2章 流行っているものではなく、流行るものを見つける
2011年11月29日 (火)
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第3章 映画『告白』大ヒットの舞台裏
2011年12月01日 (木)
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第4章 上手に生きられない人間を描き続けたい
2011年12月02日 (金)
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第5章 アニメは日本を救う? コンテンツ・ビジネスの内情
2011年12月05日 (月)
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第6章 今、何を描くべきか。それをお客さんにどう届けるか
2011年12月06日 (火)
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第7章 キャッチコピーは戦略的に
2011年12月08日 (木)
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第8章 たった1つの言葉が映画の成否を分ける
2011年12月09日 (金)
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第9章 ネット時代だからこそ、リアルなイベントが大事
2011年12月12日 (月)
該当講座
若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方
~『告白』『悪人』『東のエデン』はこうして生まれた~
川村元気 (東宝株式会社 映画企画部 プロデューサー)
石井朋彦 (プロダクション・アイジー プロデューサー)
各界で活躍するイノベーティブな人物をゲストにお招きする『東洋経済インタラクティブセミナーシリーズ』。今回は、『告白』『悪人』『東のエデン』など次々にヒットを生み出し、日本映画界を代表する若手プロデューサーとして注目のお二人にお話を伺います。
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