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若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方

~『告白』『悪人』『東のエデン』はこうして生まれた~

BIZセミナーキャリア・人文化
更新日 : 2011年12月08日 (木)

第7章 キャッチコピーは戦略的に

石井朋彦氏

石井朋彦: 2つ目の具体例として『攻穀機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』という作品をご紹介します。この作品は4年前にオリジナル・ビデオ・アニメーションとして(2D版)が既に世の中に出ていました。つまり、レンタルビデオ屋さんで借りられるわけです。ですので「作品の内容を伝えるのは後にする」という戦略で始めました。

この作品は何が一番面白いかというと、当然3Dです。世の中には「『アバター』はすごかったけれど、その後出てきた3Dはあまりよくなかったよね」という空気がありました。その理由は単純です。人間は平面のスクリーンの中に自分の脳がダイブしていって空間を認識するので、例えばラブストーリーで男の子が女の子にこれから告白しようというときにキャラクターが飛び出ていたら、この世のものではなくなってしまう。日本のアニメーションは基本的に平面ですから、どんなにアバターばりに立体化しても、しょせん書き割り(※建物や景色を描いた張り物)にすぎません。

でも『攻穀機動隊』には3Dでアドバンテージとなる特徴がありました。それは、サイボーグがネットワークに結線されていて、目の前に情報が表示されるということです。例えば「あそこにいるのは森ビルのスタッフだ」とか「あれは指名手配されている人物だ」とか、情報が目の前に表示されるんです。これを飛び出させることで、見ている人がまるで自分がサイボーグになったかのように感じるようにする。それが、神山監督が発明した、日本のアニメーションならではの3Dでした。

そこでコピーライターと一緒に「見る人を電脳化する」という言葉を考えました。ほかには、今回オープニングを完全につくり直したので「オープニング完全新作」、さらに3Dメガネで見るために全カット色調整をしたので「神山監督自ら、全カットフルグレーディング」というコピーもつくりました。

実は3つ目の「神山監督自ら、全カットフルグレーディング」という言葉には戦略もありました。『攻穀機動隊』はどうしても押井守監督の色が強いのですが、DVDは神山健治監督の『攻穀機動隊S.A.C.』のほうが売れています。僕は両監督とつき合いがありますが「ファンの世代交代は確実に進んでいる」と思っていたんです。だから“神山健治”を連呼して、「『攻穀機動隊』は新しい監督の手にもう渡っているんだ」「神山健治という優れたアニメーションの監督が新たに生まれようとしているんだ」ということを強調したのです。

それと同時に「押井守監督」「ウォシャウスキー兄弟」「ハリウッドに影響を与えた」という言葉はすべて封じました。押井監督の『攻殻機動隊』がハリウッドで評価されたのはもう20年近く前の話ですし、皆さんどこかで聞いたことがある話だと思います。そこには川村さんが説明された「珍しきこと」がなかったからです。


該当講座

若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方

~『告白』『悪人』『東のエデン』はこうして生まれた~

若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方
川村元気 (小説家)
石井朋彦 (プロダクション・アイジー プロデューサー)
佐々木紀彦 (PIVOT CEO)

川村元気 (東宝株式会社 映画企画部 プロデューサー)
石井朋彦 (プロダクション・アイジー プロデューサー)
各界で活躍するイノベーティブな人物をゲストにお招きする『東洋経済インタラクティブセミナーシリーズ』。今回は、『告白』『悪人』『東のエデン』など次々にヒットを生み出し、日本映画界を代表する若手プロデューサーとして注目のお二人にお話を伺います。


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