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若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方

~『告白』『悪人』『東のエデン』はこうして生まれた~

BIZセミナーキャリア・人文化
更新日 : 2011年11月29日 (火)

第2章 流行っているものではなく、流行るものを見つける

川村元気氏

川村元気: 『告白』のプリプロダクションにおいては、原作が重要なファクターでした。僕は本がベストセラーになる前に偶然書店で見かけ、初版を読んで原作元に連絡を入れていました。難しい題材だったのですが、後に本屋大賞をとってベストセラーになったので、映画化に対してはポジティブな動きができました。

僕は『電車男』や『デトロイト・メタル・シティ』も手掛けているので、よく「ベストセラーの映画化をされていますね」と言われるのですが、売れてから取りに行っているのではなく、基本的に早い段階でアプローチしていました。「のちのち世の人たちのハートをつかむんじゃないか」というものにアプローチすることに意味があると思っています。それに、僕はまだ32歳ですし、先輩方に比べたら経験も馬力もないので、いいクリエイターや原作にタッチしたければ、人より早く行くしかないと思っています。

『告白』の原作を押さえた数週間後、プロット(構想)を練っていたとき、「ある監督から出版社の双葉社に映画化したいという連絡が入った」と聞きました。それが中島哲也監督でした。中島監督は日本一の映像派の監督であるとともに、脚本家としても天才なんです。監督が手掛けた『下妻物語』も『嫌われ松子の一生』も本当に素晴らしい脚本でしたので、「中島監督がこの小説を脚本化し、そして映像化するならすごいものになる!」ということで、すぐにプロジェクトがスタートしました。

脚本づくりやキャスティングの際に重要なのは、どういうコンセプトでこの題材に向かうかということと、企画の方向性を固めることです。『告白』は非常にダークな話でしたので、これをエンターテインメントとしてどう映画にするか、非常に難しい題材でした。この作品は、最初に「アンハッピーエンドに振り切る」と決めました。何かと救いをつける映画が多いのですが、中島監督と最初に打合せをしたとき「人生の素晴らしさを歌い上げるだけがエンターテインメントじゃないだろう」と言われ、それが憲法のように脚本の軸となりました。

それから「映画の中で結論を出すのではなく、観客にゆだねる」ことにしました。映画館を出てご飯を食べながら、あるいは次の日に学校や会社で「あれはこうだったよね、ああだよね」と話しをする中で、その人なりの結論が出る映画にチャレンジしようと決めたのです。これまでのエンターテインメントは笑って、泣けて、ハッピーエンドが主流でしたが、そうじゃない映画を提案したい、「この観終わり感で勝負する!」という振り切った作戦を立てました。

『告白』が映画として成功したのは、早い段階で面白い原作を取れたこと、中島哲也監督という才能に出会えたこと、悪意のエンターテインメントという新しいコンセプトを見つけられたこと。つまり原作とクリエイターとコンセプトがうまく組み上がった結果だと思います。このうちどれか1つでもずれると、多分うまくいかないんです。それが映画の難しいところで、これを組み上げることが企画の仕事だと思います。

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該当講座

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若き映画プロデューサーが語る、面白いストーリーの作り方
川村元気 (小説家)
石井朋彦 (プロダクション・アイジー プロデューサー)
佐々木紀彦 (PIVOT CEO)

川村元気 (東宝株式会社 映画企画部 プロデューサー)
石井朋彦 (プロダクション・アイジー プロデューサー)
各界で活躍するイノベーティブな人物をゲストにお招きする『東洋経済インタラクティブセミナーシリーズ』。今回は、『告白』『悪人』『東のエデン』など次々にヒットを生み出し、日本映画界を代表する若手プロデューサーとして注目のお二人にお話を伺います。


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