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グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた

辻野晃一郎氏が語る「真のグローバル企業」とは?

アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2011年10月21日 (金)

第4章 今、日本人に必要なのは「モルモット精神」

辻野晃一郎氏

辻野晃一郎: ソニーを一番端的に表す言葉は「モルモット精神」です。私は今この時代にこそ、もう一度日本人一人ひとりがモルモット精神を取り戻すべきだと思っています。モルモット精神とは何かというと、評論家の大宅壮一さんが週刊誌に書いたのですが、ソニーが他に先駆けてつくったものがうまくいきそうになると、他の会社が似た商品をつくってビジネスをゴッソリもっていってしまうことを揶揄した言葉です。井深さんは「けしからん!」と最初は憤慨したそうですが、後に「いや、これはソニーに対する最大の賛辞だ。モルモットこそ、ソニーのあるべき姿だ」と思い直したそうです。

つまり「モルモット精神」というのは、人がやらないことを先んじてやるということです。イノベーションを起こすためには、リスクをとらなければいけません。だからチャレンジ精神が要るんです。人がやらないこと、嫌がることを真っ先にやる。人が考えても実行しないようなことを最初にやる。そういうリスクをとって、我先に難問にチャレンジして克服していくということなんです。これがもともとのソニー・スピリットでした。

実際、このモルモット精神で、ソニーはブラウン管テレビでシャドーマスク型がスタンダードだったとき、トリニトロンを開発したのです。これはクロマトロンという軍事用のディスプレー技術に井深さんが目をつけて、ソニーがまだ小さい会社のときにつぶれそうになるまで投資して、最後はものにして、まったく新しいブラウン管をつくったのです。トランジスタラジオにしても、ウォークマンにしても、家庭用ビデオにしても、プレイステーションにしても、人がやらないことを真っ先にやってきたのがソニーでした。

盛田さんが亡くなった数日後、アップルの新商品発表イベントがあったのですが、その冒頭でスティーブ・ジョブズは哀悼の言葉を述べました。ジョブズは心の底から盛田さんのことを尊敬していて、いつの日かああいう経営者になりたい、アップルをソニーのような会社にしたいと思っていたのだと思います。Googleではエリック・シュミットが「ソニーは素晴らしい会社だ」と大絶賛していました。(共同設立の)ラリー・ペイジやサーゲイ・ブリンも、みんなソニー製品が大好きです。

今の若い人たちは、ソニーのことなんか全然知らないでiPhoneやiPadを喜んで使い、Googleの技術を当たり前のように使っています。でも、そういう素晴らしい企業に大きな影響を与えた日本企業があったということを、我々は忘れてはいけないと思うのです。スティーブ・ジョブズやラリーやサーゲイといったすぐれた起業家に負けないどころか、彼らのリファレンスにすらなった起業家が日本にいたのです。

こういう人たちを日本は生み出し続けていなければいけないのですが、ソニーの創業までさかのぼらなければいけないところに、今の日本が置かれている本質的な問題があるような気がします。

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辻野晃一郎 (アレックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)

辻野 晃一郎(アレックス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)
ソニーとグーグルという時代を象徴する2つの企業において、「アナログからデジタルへ」、「ウォークマンからiPodへ」、「マイクロソフトからグーグルへ」という多くのパラダイムシフトが起きた時代の変化の渦中を駆け抜けてきた辻野氏に、真のグローバル企業にとって必要なことは何かを伺います。


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