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料理を「花嫁修行」から「趣味」へと変えた ABC Cooking Studio

~創立者が見つけた「食を学ぶ」本当の楽しさとは~

BIZセミナーマーケティング・PR経営戦略キャリア・人
更新日 : 2011年04月01日 (金)

第3章 講師には過酷な教室運営の仕組み

アカデミーヒルズセミナー会場の様子

志村なるみ: 次に、社内で議論を繰り返し、生徒さんにヒヤリングを重ねて作り上げてきたABC Cooking Studioの事業の特徴についてお話します。まずは「通いやすさの工夫」です。生徒さんはメンバーズカードを持っていれば、全国どこのスタジオにでも通えます。しかも、365日、朝10時から夜10時までフル回転で「毎日開講」しています。店舗統括や店長といったスタッフたちにとっては大変なことですが、これを実現させるために、彼らはとても知恵を使い、体を使っています。

続いて「5人までの少人数制」。20年前の料理教室と言えば、生徒さんが20人、講師が1人、アシスタントが1人といった形が一般的でしたが、私たちはよりアットホームなスタイルを大事にしたいと考え、この形にしました。少人数制なので講師と生徒さんとの距離が近く、気軽に質問できる点が売りになっています。しかしこれは、人件費との戦いという側面もあります。

講師と生徒さんの関係で言えば、ABC Cooking Studioを一気に飛躍させた「講師を選べる指名制度」があります。社内でも過酷な制度として有名です。「この先生に習いたい」、もしくは逆に「この先生には習いたくない」という生徒さんの希望を実現させる制度です。これには社内でも賛否両論ありまして、賛同を得られなかった講師たちが辞めてしまったこともありました。しかし、生徒さんの満足度を高めるためには仕方のないことと決断し、導入に踏み切ったのです。

とはいえ導入後に生徒全員が講師を指名しているかというと、実際にはそうでもありません。通いたい時間と曜日を優先する生徒さんが半分、もう半分が「この先生がいい」とか「この3人の先生の中から誰か」というように講師を選ぶタイプといったところです。もちろん、中にはキャンセル待ちが何百人もいるカリスマ講師もいます。反対に生徒さんが予約を入れない講師はだんだん授業のコマが減り、授業に出られなくなってしまいます。大変厳しい仕組みです。

しかし、自分の授業を予約してもらえないとき、講師たちは「もっとエンターテイナーになろう」「知識を増やそう」とがんばり、成長することができます。私としては、自分の持ち味や個性を授業にぞんぶんに反映して、楽しい授業をしてほしいのです。

また、ABC Cooking Studioは100以上の教室を展開しているので、すぐ近くに別の教室がある場合もあります。生徒さんは通う教室や講師を自由に選べますから、店長たちはしのぎを削ってサービスをよくしなければなりません。となると、サービス強化策として一番効くのが講師の配属です。人を惹きつける、魅力のある講師を生徒さんが通いやすい時間帯に配属させる、これが集客の最大のコツです。

現在、生徒さんの多くは独身の女性ですが、かつてのように花嫁修業として料理を習いに来ているわけではありません。趣味を充実させ、日々の生活を豊かにするためにいらっしゃっています。しかも、学んだ後はおいしく食べることができ、友達もできる。ABC Cooking Studioはそういう場所になりました。一石二鳥どころではなく、一石何鳥とも言えるものです。私はいつも「一石一鳥では集客できない。一石何鳥でないと、人は集められない!」と、口を酸っぱくして言っています。

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該当講座

料理を「花嫁修行」から「趣味」へと変えた ABC Cooking Studio

~創業者が見つけた「食を学ぶ」本当の楽しさとは~

料理を「花嫁修行」から「趣味」へと変えた ABC Cooking Studio
志村なるみ (株式会社ABC Holdings 取締役/株式会社ABC Cooking Studio 創立者)
田中洋 (中央大学大学院ビジネススクール 教授 )

志村 なるみ(㈱ABC Holdings 取締役)
田中 洋(中央大学大学院ビジネススクール教授)
成熟市場において新たな価値を提案することでブランディングの成功を果たした企業からゲスト講師をお迎えする2回シリーズ。第1回目の本講座では、ポップなカラーに全面ガラス張りのスタジオに象徴されるABC Cooking Stduio の創立者、志村なるみ氏をお招きします。既にある市場の中で新たな女性向けのビジネスを拡大してきたプロセスについて伺うことで、成熟した市場においてブランドを構築する思考法について学びます。


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