記事・レポート
福原義春氏が語る「未来をつくるイノベーションのための文化資本」
VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar
BIZセミナー文化教養
更新日 : 2011年02月22日
(火)
第7章 日本に必要なのはリノベーションではなく、イノベーション
福原義春: グローバル化の流れを止めることはできませんし、止める必要もありません。しかし、グローバル社会の中で平均値を目指すならば、アイデンティティのしっかりした、文化というソフトパワーのある国にすべきであると考えます。そのためには、グローバル化する前に、会社にしても、国にしても、個人にしても、まずその国でのアイデンティティを高めること、「型」を見つけることが大切なのです。
今のところ、この国には国としての長期的戦略はほとんどありません。しかし、サントリー、あるいは資生堂といった企業には、経済の文化化を実現してきたという歴史があります。また、創業は新しいのですがベネッセホールディングスは、情報産業に文化性を加味し、直島での活動など岡山の地域性を重視する一方、世界性を獲得するためにベルリッツを傘下に入れるなど、ドメスティック&グローバルな事業展開をしています。グループを牽引する福武会長は「経済は文化のしもべである」とおっしゃっています。
こうした企業は、「改良、コスト減、効率性の増大」に重きを置いて成長してきた日本の産業社会では、かなり例外的な存在であると思いますが、こうした存在が増えていくことで、日本のアイデンティティ自体が強まるのではないかと思います。
改良や改善というのは、既存の価値を効率よく生み出す「リノベーション」に過ぎません。本当の創造的な活動、クリエイティブな活動というのは、既存の価値の延長線上にはないのです。私たちはリノベーションではなく、「イノベーション」して新たなステージの文化的な絶対価値を創造しなければいけないのです。そうしないと、世界にアピールすることはとてもできないと私は考えています。
国の文化力というのは、究極的には国民一人ひとりの文化力の総体です。ですから、今、政府が唱えている「首都をどうする」「メガシティをどうする」といった政策はすぐに頭打ちになります。アンドレ・マルローが構想したような、人々を力づけ、誇りと勇気を与えるような文化の地域分権が大切です。国のどこであろうと、人間力を結集した独自のものを創造することが必要なのです。
そのためには、まずヨーロッパの創造都市(クリエイティブ・シティ)に学ぶ必要があるでしょう。例えばイタリアのボローニャやミラノ、スペインのバルセロナやビルバオ、イギリスのグラスゴーやマンチェスター、フランスのリヨンやナント。これらの都市は、かつての繁栄による古い文化と、のちに何らかの理由で抑圧され、衰退した歴史を持ちます。そういう歴史がバネになり、クリエイティブな働きが非常に強くなったのです。
グローバル化すると均質化になってしまいがちです。どこに行っても朝食はパンとコーンフレークというような均質化と、アイデンティティを求める個別化をどのような関係に保つのか。そして個別化の結果を文化や文明のレベルに高めることはできないか、ということを考えなければいけないと思うのです。
では、改めて日本文化は一体どうしたらいいのでしょうか。これは日本文化ばかりではなく現在の会社も全く同じですが、ヨーロッパのクリエイティブ・シティのように「繁栄と衰退のよじれをバネとして、創造力を再生すること」です。
今、金融危機という大きなよじれが起きています。この現象の裏では、政治や企業組織の劣化、リーダーの劣化、さらには雇用劣化など、あらゆることが劣化している深刻な事態が起きているのです。しかし、この事態を直視せず、小さな改善(リノベーション)で表面を取り繕って事を収めてしまっては、根本的なイノベーションは生まれないのです。
グローバル競争の中で、日本の競争力が確実に低落傾向にあるということは、言うまでもありません。その現実を直視せず、企業が雇用調整などで見かけの利益を捻出して、低めの安定で安住してしまっては、日本全体の絶対的価値や魅力は失われ、国際競争力はますます低下しますし、個人の幸福度も決して増えません。それどころかマイナスのスパイラルになっていくだけです。
今のところ、この国には国としての長期的戦略はほとんどありません。しかし、サントリー、あるいは資生堂といった企業には、経済の文化化を実現してきたという歴史があります。また、創業は新しいのですがベネッセホールディングスは、情報産業に文化性を加味し、直島での活動など岡山の地域性を重視する一方、世界性を獲得するためにベルリッツを傘下に入れるなど、ドメスティック&グローバルな事業展開をしています。グループを牽引する福武会長は「経済は文化のしもべである」とおっしゃっています。
こうした企業は、「改良、コスト減、効率性の増大」に重きを置いて成長してきた日本の産業社会では、かなり例外的な存在であると思いますが、こうした存在が増えていくことで、日本のアイデンティティ自体が強まるのではないかと思います。
改良や改善というのは、既存の価値を効率よく生み出す「リノベーション」に過ぎません。本当の創造的な活動、クリエイティブな活動というのは、既存の価値の延長線上にはないのです。私たちはリノベーションではなく、「イノベーション」して新たなステージの文化的な絶対価値を創造しなければいけないのです。そうしないと、世界にアピールすることはとてもできないと私は考えています。
国の文化力というのは、究極的には国民一人ひとりの文化力の総体です。ですから、今、政府が唱えている「首都をどうする」「メガシティをどうする」といった政策はすぐに頭打ちになります。アンドレ・マルローが構想したような、人々を力づけ、誇りと勇気を与えるような文化の地域分権が大切です。国のどこであろうと、人間力を結集した独自のものを創造することが必要なのです。
そのためには、まずヨーロッパの創造都市(クリエイティブ・シティ)に学ぶ必要があるでしょう。例えばイタリアのボローニャやミラノ、スペインのバルセロナやビルバオ、イギリスのグラスゴーやマンチェスター、フランスのリヨンやナント。これらの都市は、かつての繁栄による古い文化と、のちに何らかの理由で抑圧され、衰退した歴史を持ちます。そういう歴史がバネになり、クリエイティブな働きが非常に強くなったのです。
グローバル化すると均質化になってしまいがちです。どこに行っても朝食はパンとコーンフレークというような均質化と、アイデンティティを求める個別化をどのような関係に保つのか。そして個別化の結果を文化や文明のレベルに高めることはできないか、ということを考えなければいけないと思うのです。
では、改めて日本文化は一体どうしたらいいのでしょうか。これは日本文化ばかりではなく現在の会社も全く同じですが、ヨーロッパのクリエイティブ・シティのように「繁栄と衰退のよじれをバネとして、創造力を再生すること」です。
今、金融危機という大きなよじれが起きています。この現象の裏では、政治や企業組織の劣化、リーダーの劣化、さらには雇用劣化など、あらゆることが劣化している深刻な事態が起きているのです。しかし、この事態を直視せず、小さな改善(リノベーション)で表面を取り繕って事を収めてしまっては、根本的なイノベーションは生まれないのです。
グローバル競争の中で、日本の競争力が確実に低落傾向にあるということは、言うまでもありません。その現実を直視せず、企業が雇用調整などで見かけの利益を捻出して、低めの安定で安住してしまっては、日本全体の絶対的価値や魅力は失われ、国際競争力はますます低下しますし、個人の幸福度も決して増えません。それどころかマイナスのスパイラルになっていくだけです。
福原義春氏が語る「未来をつくるイノベーションのための文化資本」 インデックス
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第1章 一度途絶えた文化は元には戻らない
2011年02月14日 (月)
-
第2章 なぜ企業に文化が必要なのか
2011年02月15日 (火)
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第3章 カネやモノだけでは、心は満たされない
2011年02月16日 (水)
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第4章 経済一辺倒の日本の優位性は失われた
2011年02月17日 (木)
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第5章 これからの日本の文化政策に求められるもの
2011年02月18日 (金)
-
第6章 日本は外国文化の衝撃を新たな力に変えて発展した
2011年02月21日 (月)
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第7章 日本に必要なのはリノベーションではなく、イノベーション
2011年02月22日 (火)
-
第8章 その土地に暮らす人々が楽しんでいるもの、それこそが文化
2011年02月23日 (水)
-
第9章 再び、誇りと自信のある国になるために
2011年02月24日 (木)
該当講座
福原義春 (株式会社資生堂 名誉会長)
福原義春(㈱資生堂 名誉会長)
未来の日本創造になくてはならないこと、イノベーションのために私達が一度立ち止まって考え抜かなくてはならない、私達の文化資本の本質についてお話いただきます。
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