記事・レポート

時代を読み、世界を俯瞰して、フロンティアを拓く場へ

シナリオはない。人と場が相互に働きかけ、共に進化する。
ー平河町ライブラリー 開館記念座談会よりー

更新日 : 2011年01月17日 (月)

第8章 自由を拘束するものから解放する

竹中平蔵氏

袖川芳之: 僕は「豊かな社会」における幸福感や働き方に関心があります。ライブラリーはそれに対してどんな役割を果たしうるのでしょうか。

竹中平蔵: 袖川さんが最初におっしゃった「幸福度と豊かさの相関」はすごく面白くて重要です。「年俸が2万ドルを超えると、幸福度と(経済的)豊かさの相関関係が非常に弱くなる」という指摘も事実だと思います。

では、豊かな社会になるとなにが幸福感に作用してくるのか。また、なにがそれを阻んでいるのか。先ほど私は「自由が大事だ」と言いました。自由の裏側には「拘束」があります。自由を拘束するのはサンクコスト(sunk cost:埋没費用)です。

たとえば、やりたいことがあるけれど、それを実現するには会社を辞めなければならない。生涯所得を失ってしまう。それがサンクコストです。あるいは忙しすぎて何もできない。これも一種のサンクコストと言えるでしょう。

ライブラリーはそうしたものから人間をリリースし、エンカレッジして、スパイキィな世界に挑戦するための重要なメカニズムではないかと思います。

高橋潤二郎: もうひとつ付け加えるとすれば、日本は高学歴で能力の高い人がいても、その能力を有効に使えない職業構造になっている。職種や職位とのミスマッチが起こっています。ライブラリーに来ている人のなかにもそうした人が結構いる。

竹中平蔵: 逆に言えば、だからここには尖れるチャンスがある人が多いと言えるのかもしれません。

高橋潤二郎: そうですね。

袖川芳之: 高い給料をもらっていても手応えがない。自分の仕事がどんな価値を生み出し、どうやってお金に転嫁されているかが見えにくい社会になっています。だから「仕事以外のなにか」にやりがいを見つけようと迷っているんだと思います。

米倉誠一郎: かつてのモーレツ社員も何のために働いているか、よくわかってなかったんじゃないかな。

竹中平蔵: ただ、先ほどのサンクコストに関して言うならば、現在の大部分のサラリーマンが生産性以上の給料をもらっている。だから辞められない。自分で起業するコストもものすごく高い。やはり社会が歪んでいるんですよ。そこを突破するには、そうした人間をエンカレッジメントするシステムがいる。

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