記事・レポート

時代を読み、世界を俯瞰して、フロンティアを拓く場へ

シナリオはない。人と場が相互に働きかけ、共に進化する。
ー平河町ライブラリー 開館記念座談会よりー

更新日 : 2011年01月07日 (金)

第3章 トレンドやシナリオより「生の体験」を

米倉誠一郎氏

米倉誠一郎: 僕も同感ですね。スパイキィな世界に挑む人たちが世の中を変えていく。我々の学問領域でも「逸脱」や「不規則性」のほうが「規則性」より面白いし、触発される。一般的なトレンドに解を求めると縮小均衡してしまうんじゃないかなと思います。

これまでも、「敗戦で日本はもうダメだ」というなかで、「トランジスタ、面白いかもしれない」とか、「自転車にパタパタつけたらバイクになる」とか、「ルマンに行くぞ」と言って尖っていた人たちが未来を拓いてきたわけです。

アカデミーヒルズで「日本元気塾」というカリキュラムのない授業をやってみたのですが、手ごたえを感じました。

塾生のなかに「海外青年協力隊でアフリカの最貧国に行くぞ」と、会社を突然休職してマラウイ共和国に行った人間もいます。そうすると仲間のなかに「こいつを1人では行かせない」というコンセプトができ上がる。困ったことがあれば、仲間が日本からバックアップするという形が出来上がったわけです。

袖川さんの挙げた「つながり」というキーワードで言えば、ひとりが逸脱をすることによってつながりが強くなった。つながりの希薄な社会の中で、ひとり逸脱した人間が出ることによって自発的につながりができていったのです。最初からつながりを目的としてつくろうとしたわけじゃなくね。

そこで「平河町ライブラリーをどういう場にしていくか」ということですが、僕は誰にもわかりやすいシナリオをつくる必要はないと思う。世の中は元来わけがわからないものです。だから、わけのわからないまま体感してもらう場にしたほうがいい。

いま、日本人に必要なのは「わけのわからないことを、わけのわからないまま体験する訓練」ではないでしょうか。

高橋潤二郎: エクスペリエンス(経験)はエクスペリメント(実験)と同じで、「試みる」から来ています。

私たちは六本木ライブラリーで、非常に質の高いインターネットカフェをつくった。蔵書数、検索機能、調査相談という意味では、伝統的な「ライブラリー」ではないのです。その代わり高速インターネットの設備を入れた。これは受信者が発信者になった時代の新しい場づくりの試みです。それに対してメンバーが価値を見出し、きちんと対応してくれたから成功したのだと思います。

ただし、単なるネットカフェであったら彼らは来なかったでしょう。独特な雰囲気と機会があるから集まって来たのです。体験がマーケティングの対象になったのは1990年代の終わり頃からですが、このタイミングがぴったりと合っていたことも大きかったと思います。

Clip to Evernote