記事・レポート

内田和成の『論点思考』
~問題設定の技術~

東洋経済提携講座より

ビジネススキルキャリア・人
更新日 : 2010年11月01日 (月)

第10章 視点を変える方法を学べれば、気付かない問題が目に入る

内田和成氏

内田和成: 日常生活の中にもヒントがあると思っています。例えば、消費者の購買行動や活動は、ものすごく変わってきていますね。有名な例で言えば、昔はまずお店に行って、商品を勉強してから買うか買わないかを決めていました。車で言えばショールーム、電気製品で言えばヨドバシカメラなどに行く。ほかの商品で言えばスーパーやデパートに行って見て、店員さんの説明を聞いたり、現物を見たり、あるいはパンフレットをもらって帰っていました。しかし今は、まずほとんどの方が先にネットで調べてから出掛けます。そうなると購買行動は明らかに変わります。昔はどちらかというと企業側がたくさん情報を持っていて、消費者はあまり情報が無いという前提でした。今は消費者の方がよく知っている。すると、消費者をよく観察することによって、今までのやり方ではない方法が見えてきたり、今抱えている問題が浮かび上がってきたりする可能性が高くなるのです。

やはり、経営者や経営企画の人間というのはどうしても上から目線になってしまいます。鳥の目です。一方で支店の方、営業所の方、生産現場にいる方は毎日現場で働いていますので、地をはう虫の目視点を持っています。これは複眼か単眼かという話ではなくて、目線の話です。ですから私は経営者や経営企画の方には、やはり時々は現場に行って、現場の目線でものを見た方がいいとお伝えします。逆に現場の方には、一回上から俯瞰し見てみたら、その話がどう見えるのか考えてみるといいですよとお話します。いずれも視点を変えることのヒントです。ほかにもいろいろあると思いますし、人によって得意不得意があると思いますが、視点を変える方法を学ぶことができれば、気付かない問題が目に入ります。あるいは人と違ったものの見方ができるようになるのではないかと思います。

時間がまいりましたので、今日申し上げたかったことを別の言葉でお伝えしようかと思います。それは、「作業ができる人間ではなくて、仕事ができる人間になってほしい」ということです。仕事というのは、解決すべき課題に答えを出すことです。もちろん、課題が与えられた場合に、その答えを出すという問題解決力は大事ですが、企業でも、個人でも今求められているのは、解決すべき課題は何かという、解くべき課題を見つけ出す能力ではないでしょうか。

多くの人々は、作業をやっていると、仕事をやっているように勘違いしてしまいます。私もそうです。しかし、日々の作業に追われて仕事をやっている気になっていると、いつまで経っても問題発見できるようにはなれません。ぜひ、皆さんにはより高い視点を持っていただきたいと思います。高いというのは偉そうなという意味ではなくて、ちょっと違った視点でものを見ることです。そして自分の問題解決が間違いなく行われるように。あるいは正しい問題、解くべき問題を、設定して取り組むことができるように。そんなビジネスパーソンになっていただきたいと思います。

最後になりますが、私が大好きな言葉で締めくくりをさせていただきたいと思います。フランスの文学者・哲学者のマルセル・プルーストという人の言葉です。「本当の発見の旅とは、新しい土地を探すことではなく、新しい目で見ることだ」。(終)
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該当講座

内田和成の『論点思考』

~BCG流 問題設定の技術~

内田和成の『論点思考』
内田和成 (早稲田大学 名誉教授)

内田 和成(早稲田大学ビジネススクール教授)
今回講師としてお越しいただく内田氏は、ボストンコンサルティンググループの前日本代表であり、「世界でもっとも有力なコンサルタントのトップ25人」(米コンサルティング・マガジン)に選出されるなど、世界を舞台に活躍されています。
話題の近著『論点思考』を元に、内田氏から直接、実践的な「問題設定の技術」について学びます。


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