記事・レポート

内田和成の『論点思考』
~問題設定の技術~

東洋経済提携講座より

ビジネススキルキャリア・人
更新日 : 2010年10月21日 (木)

第3章 「問題」「論点」の違いとは何か

内田和成氏

内田和成: 実は、三つ目の「問題設定のできる人」という要素は、二番目の「問題解決ができる人」の要素にも、非常に大きくかかわってきます。別の言い方をすれば、問題設定が上手な人は問題解決も上手で早い。つまり、どんな人にとっても論点を設定することは大事な能力ではないかと思います。

ここで今、私は「問題」「論点」という二つの言葉を混ぜてお話をしました。では問題と論点は、何が違うのでしょうか。この辺りが私のいい加減なところでして、そんなに違いは無いのです。ただ、なぜ論点という言葉を敢えて使ったかというと、二つの理由があります。一つは、世の中で問題、問題と言われていることが、私から見ると本当の問題ではないように感じているので、問題という言葉を使うと少し誤解されてしまうのではということ。もう一つは、コンサル会社で問題解決を図るときには、実はイシューや論点という言葉をすごく大事にしているということ。「この会社の論点は何か」と、ほぼ毎日のように言っています。分かりやすく言えば、解決すべき課題、あるいは一番最優先で取り組むべき課題、あるいは根本の課題という意味で使っています。「問題」「論点」には厳密な言語上の定義の差があるわけではないのですが、問題を非常に広い概念だとすると、論点というのはその中で絶対解かなければいけない問題。つまり、最優先で取り組むべき問題のことを、論点と考えていただくと分かりやすいかと思います。

その違いについて、事例を挙げてご説明しましょう。例えば、皆さんの会社に泥棒が入ってしまったという事件が起きたとします。熊本の営業所に泥棒が入って、コピー用紙が500枚盗まれてしまった。我が社に泥棒が入ったというと、皆さん「これは問題だ」と言うのですが、私はそれは単なる「現象である」と言います。泥棒が入ったことによって何が引き起こされるのか、あるいは引き起こされたのか。コピー用紙500枚と申しましたが、仮に1000万円が盗まれてしまったとします。総売上が年間5000万円の会社だとしたら、これはもうえらいご負担です。ところが年商一兆円の会社で500枚のコピー用紙が盗まれたら、これはたぶん屁でもない話なわけです。つまり、盗まれたということ自体が問題ではなくて、何が盗まれたのか、それが会社にとってどれぐらいの影響力のある話かということをきちんと考えなければいけません。

具体的に何が論点になるのか、あるいは解決すべき問題になるのかということにもう少し踏み込んでみましょう。例えば泥棒に入られたのが、実は今日が初めてではなくて、ここ2~3カ月で3回も4回も入られてしまったとします。これは相当防犯体制が甘いということですね。会社全体の体制に問題がある可能性が高いということです。あるいはそうではなくて、実は熊本の営業所に泥棒が入ったという話を、東京本社の社長が新聞で初めて知ったという話だとすると、これは泥棒に入ったか入られたかというよりは、会社の中の報告体制に問題があるということになります。その熊本の泥棒自体はどうでもいいことかもしれませんが、もしかしたら会社の中でお客さんとトラブルが起きたとか、消費者に対して何か問題のあることをしてしまったという報告が、きちんと本社に入ってこないような仕組みになっていることが、実は問題かもしれません。
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内田和成の『論点思考』

~BCG流 問題設定の技術~

内田和成の『論点思考』
内田和成 (早稲田大学 名誉教授)

内田 和成(早稲田大学ビジネススクール教授)
今回講師としてお越しいただく内田氏は、ボストンコンサルティンググループの前日本代表であり、「世界でもっとも有力なコンサルタントのトップ25人」(米コンサルティング・マガジン)に選出されるなど、世界を舞台に活躍されています。
話題の近著『論点思考』を元に、内田氏から直接、実践的な「問題設定の技術」について学びます。


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