記事・レポート

ロボットクリエイター高橋智隆氏が描くサイエンスの可能性

夢のゴールは掃除ロボットや介護ロボット……じゃない!?

更新日 : 2010年09月15日 (水)

第8章 ロボットを携帯電話のように“大きな市場”にする方法

渡辺大樹氏

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高橋智隆: いろいろなメディアで「人間型のロボットが掃除や洗濯をしてくれる」とか、「ロボットが登場することで少子高齢化の時代が乗り切れる」と言われていますが、そんなものじゃないと私は思っています。現時点で思いつくような用途というのは、大したことのない用途です。

今思いつく使い方というのは、おそらく将来のメーンストリームではありません。私が紹介した家電製品との間に入るというのも、ひょっとすると主立った使い方ではなくなるかもしれません。携帯電話やパソコンが開発者が考えた使い方とは違う使い方を今の我々がしているように、ロボットもそうなると思うんです。

介護用ロボットとかレスキューロボット、原子力発電所の中に入るロボットなどがたくさん開発されています。そういうロボットは必要ですし、これからも開発されていきます。しかし、そういうものがメーンストリームで、それによって“大きな市場”になるというのは間違いだと思います。

なぜかというと、例えばロボット車いすができたところで、今の車いすの市場のせいぜい何倍かの市場にしかならないはずです。“大きな市場”というのは、一家に一台、普通の人の普通の暮らしの中にあるものです。

では、それを実現するためにはどうしたらいいのかというと、過去の製品と比べてみたらいいんです。例えば車やパソコン、携帯電話や薄型テレビは、登場した当初はものすごく高価なものでした。それを新し物好きの富裕層に売るのです。すると彼らは高価な割にはプリミティブな性能であっても、文句を言わずに使って、買ったことをほかの金持ち友達に自慢します。そうなると、商品は広まっていくんです。携帯電話って、昔は「ショルダーホン」という大きなものを肩から提げて飲み歩いていたおじさんたちがいたんです。でもその人たちのおかげで、我々は今、携帯電話を持てているのです。

ロボットも同じで、ホームシアターやオーディオルームを持っているような方が、新しくて面白いということで購入して、それをホームパーティで自慢すると普及が進んでいくのではないでしょうか。

つまり、今、ロボットを切実に必要としている人に提供してもダメなんです。「ロボットがフリーズしたから、おじいちゃん、死んじゃった」とか、「給付金の2万円はたいたのに、2万円分働いてくれなかったから家計が破綻した」みたいなことではダメなんです。そういうクリティカルな人に売るのではなく、「3千万円したけれど、面白いからまあいいや」ぐらい余裕がある人に売らないといけないんです。本当にロボットを必要とする人に最終的に届けるためには、上流から攻めていかないといけないということです。

「ロボットは価格が高いから普及しない」という話がありますが、安くするという考え方も間違いです。初期の自動車は、今の価値でいうとおそらく1億円以上しましたよね。最初にいかに高い価値をつけられるかに、その後、盛り込める機能や、日本でつくっていけるかどうかなどがかかってきます。ロボットが3万円でスタートしてしまうと、3万円に盛り込める機能なんてたかが知れています。コスト的にもすぐに日本で生産できなくなってしまいます。

ロボットに価値を与え、ロボットのいる生活というものをうまく演出し、世界のお金持ちに買ってもらう。そうすることでだんだん性能が上がり、値段が下がり、我々も買えるようになって、一家に一台ロボットがやって来て、介護用のロボットなどが応用型の特別仕様として開発されるようになる——そんなステップでロボットが浸透していくと考えています。

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単3電池2本でアメリカのグランドキャニオンを登り、過酷なル・マン24時間レースに挑戦した「エボルタ」の開発者である高橋智隆氏に、ロボット製作までの経緯や、今後のサイエンスの可能性についてお話いただきます。


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