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鹿島茂の「近代文学を創り上げた編集力」

~あなたは文学をここまで読み解けますか?

更新日 : 2010年02月02日 (火)

第8章 編集こそがイノベーション

竹中平蔵氏

竹中平蔵: きょう、ナポレオンの話や第一次世界大戦の話を伺い、なるほど2015年はなかなか大変な年になりそうだと思いました。その年、私は65歳で高齢者の仲間入りをするのですが、団塊の世代の一番下の方ですから、団塊の世代が高齢者人口に全部入ってしまうという、日本にとっては大きな変化を迎える象徴的な年になると思うのです。

もう1つ、おそらく2010年代の半ばになると、中国とインドの合計GDPがアメリカを超えるでしょう。これは考えてみたら、近代化が始まる前の世界の状況に戻るということなんですね。その意味では本当に近代というものが新しい局面に入っていくということを象徴する年になるかもしれません。

安藤礼二: 最後の質問になりますが、この現代、鹿島さんが実践されてきたことでもあるのですが、現代の新しい編集術とはどういう形が望ましいのでしょうか。

鹿島茂: 一言で言うと、すでにあるものを使って、今ないものをつくり出すことが編集の究極なんだと思います。編集的な才能というものがこれからは非常に幅を利かせてくると思います。すべてのことは、なされてしまっているわけです。しかし、なされてしまったものを組み合わせれば、まだなされていないものはいくらでもつくれるのではないでしょうか。

竹中平蔵: 同感です。20世紀を代表するヨゼフ・シュンペーター(1883~1950)という経済学者は、「革新こそが世の中を動かす原動力である」ということを言いました。イノベーションという言葉はもともと直訳すると「新結合」で、今あるものを組み合わせることです。編集というのはまさにそういうものだと思いますし、編集こそがイノベーション、イノベーションこそは編集であるという言い方もできるのではないかと思います。

安藤礼二: 歴史を分析し、膨大な文献を読まれている鹿島さんが、最近小説に進まれています。私は鹿島さんの小説を拝読し、「あっ、これ、編集だな」と感じました。歴史の材料を組み合わせて、未知の世界を描く、過去の世界を扱いながら未来的なビジョンをつくられているように思います。

鹿島茂: 僕が小説を書きたいと思ったのは、SFのパラレルワールド物が大好きだったからです。歴史のある時点でうそと本当をうまくブレンドして、読む人が読んだら丸ごと信じてしまうようなものを書きたいと思っているのです。歴史研究だとそんなことはできないのですが、小説なら「うそつきの快楽」というものを味わえますから。

安藤礼二: きょうは本当に興味のつきないお話をどうもありがとうございました。(終)

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