記事・レポート
鹿島茂の「近代文学を創り上げた編集力」
~あなたは文学をここまで読み解けますか?
更新日 : 2010年01月05日
(火)
第5章 これまでの経済学は人間の欲望を無視していた
安藤礼二: 実は、私は鹿島さんの元編集者で、編集者時代にもう1人よく伺ったのがフーリエという人についてでした。
鹿島茂: サン=シモン主義というのは、テクノクラートをレギュレーターとして使うという考え方ですが限界もありまして、「一人ひとりの欲望が全体の欲望と調整できるだろうか」という一番の難所をサン=シモン主義ではうまく説明できないのです。
ところがシャルル・フーリエ(1772~1837)という人は天才でした。「一人ひとりの欲望が社会全体の欲望で、一人ひとりにとってよかれと思うものが、社会にとってもよいものでなければならない」というのが彼の考え方です。人間のさまざまな欲望や情念を組み合わせて共同体をつくったらうまくいく、というのがフーリエ主義です。実際にフーリエ主義者はその共同体を実現しました。結局はうまくいかなかったんですけれどね。
安藤礼二: さらにフーリエは「情念というのは人間だけじゃなくて、いろいろなところに力が働いているから、人間が楽しく働いていていると土地も豊かになる」と言うのです。さらに「土地が豊かになると暖かくなるから、地球の緯度や経度が変わってくる」。そして「緯度・経度が変わってくると、北極の水が海に溶け出してくる。そうすると氷と塩水が重なり合って、すべての海がレモネードのような香りになってくる。そういった社会に住みたい」というようなことを1800年代の初頭にフーリエは言うのです。
エンゲルスは、サン=シモンとフーリエのことを、「空想社会主義者の代表」として取り上げたのですが、今のフーリエの話を重ね合わせて、竹中さん、何か一言。
竹中平蔵: 我々が社会全体の問題を考えようとするときは、「人の欲望は十人十色だから分析できない」と前提するんです。そこをシンプリファイ(単純化)するわけです。経済学でいえばホモ・エコノミクスです。高いものは安いもののようには買われない。それは全体としてはおそらく間違っていません。
ところが今、「シンプリファイできないことが世の中にはたくさんあるだろう」ということで、行動経済学という分野で心理学と絡めて分析しようとしているわけです。鹿島さんのお話は、もっと直接心臓をえぐるように、文学を通して欲望そのものを分析なさっていて新鮮に感じました。
それから、最初の人口動態のお話は、「余剰生産物が出てくるメカニズム」というものを人口爆発と引っ掛けて説明してくださいました。経済学というのは「オイコス・ノモス」というギリシア語が語源で、共同体のあり方、世の中のあり方、社会のあり方に由来します。ですから本当は説明してくださったようなことをすべて含んで初めて分析が可能になるのですが、今の経済学は19世紀から20世紀の物理学者がつくったものなので、どうしても欲望の部分を捨象していたと思います。私にとって目から鱗が落ちる思いです。
鹿島茂: サン=シモン主義というのは、テクノクラートをレギュレーターとして使うという考え方ですが限界もありまして、「一人ひとりの欲望が全体の欲望と調整できるだろうか」という一番の難所をサン=シモン主義ではうまく説明できないのです。
ところがシャルル・フーリエ(1772~1837)という人は天才でした。「一人ひとりの欲望が社会全体の欲望で、一人ひとりにとってよかれと思うものが、社会にとってもよいものでなければならない」というのが彼の考え方です。人間のさまざまな欲望や情念を組み合わせて共同体をつくったらうまくいく、というのがフーリエ主義です。実際にフーリエ主義者はその共同体を実現しました。結局はうまくいかなかったんですけれどね。
安藤礼二: さらにフーリエは「情念というのは人間だけじゃなくて、いろいろなところに力が働いているから、人間が楽しく働いていていると土地も豊かになる」と言うのです。さらに「土地が豊かになると暖かくなるから、地球の緯度や経度が変わってくる」。そして「緯度・経度が変わってくると、北極の水が海に溶け出してくる。そうすると氷と塩水が重なり合って、すべての海がレモネードのような香りになってくる。そういった社会に住みたい」というようなことを1800年代の初頭にフーリエは言うのです。
エンゲルスは、サン=シモンとフーリエのことを、「空想社会主義者の代表」として取り上げたのですが、今のフーリエの話を重ね合わせて、竹中さん、何か一言。
竹中平蔵: 我々が社会全体の問題を考えようとするときは、「人の欲望は十人十色だから分析できない」と前提するんです。そこをシンプリファイ(単純化)するわけです。経済学でいえばホモ・エコノミクスです。高いものは安いもののようには買われない。それは全体としてはおそらく間違っていません。
ところが今、「シンプリファイできないことが世の中にはたくさんあるだろう」ということで、行動経済学という分野で心理学と絡めて分析しようとしているわけです。鹿島さんのお話は、もっと直接心臓をえぐるように、文学を通して欲望そのものを分析なさっていて新鮮に感じました。
それから、最初の人口動態のお話は、「余剰生産物が出てくるメカニズム」というものを人口爆発と引っ掛けて説明してくださいました。経済学というのは「オイコス・ノモス」というギリシア語が語源で、共同体のあり方、世の中のあり方、社会のあり方に由来します。ですから本当は説明してくださったようなことをすべて含んで初めて分析が可能になるのですが、今の経済学は19世紀から20世紀の物理学者がつくったものなので、どうしても欲望の部分を捨象していたと思います。私にとって目から鱗が落ちる思いです。
関連書籍
パリの王様たち—ユゴー・デュマ・バルザック三大文豪大物くらべ
鹿島 茂文芸春秋
新聞王ジラルダン
鹿島 茂筑摩書房
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第4章 為政者は人間の欲望をどう扱うべきか
2009年12月18日 (金)
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第5章 これまでの経済学は人間の欲望を無視していた
2010年01月05日 (火)
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第6章 技術の進歩に必要な条件とは何か
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第7章 社会変動が起きるとき、相反する2つの力が働く
2010年01月22日 (金)
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第8章 編集こそがイノベーション
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