記事・レポート
鹿島茂の「近代文学を創り上げた編集力」
~あなたは文学をここまで読み解けますか?
更新日 : 2009年11月18日
(水)
第1章 2015年に大きな社会変動が起きるのではないか
近代社会の成立と文学の関係を、19世紀のフランス文学を専門とする鹿島茂氏が意外な角度から紐解きます。歴史的事実を組み合わせて未来のビジョンを描く氏の編集力は、既にあるモノを使って今ないモノを生み出す“イノベーション”そのもの。鹿島茂氏、安藤礼二氏、竹中平蔵氏による、目から鱗が落ちる鼎談です。
ゲスト:鹿島 茂(明治大学教授 / フランス文学者)
モデレーター:安藤 礼二(評論家/多摩美術大学准教授)
パネリスト:竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶応義塾大学教授)
安藤礼二: 鹿島茂さんは19世紀フランスの社会・小説を専門とし、現在は明治大学国際日本学部教授を務めているフランス文学者で、100冊を超える著作をお持ちです。近代というのは、まさに世界が1つになった歴史の始まりと考えることができると思います。つまり、今からちょうど200年から150年ぐらい前にかけて起こったことが現代社会を一番深いところから規定しているのではないか、そういったことが鹿島さんの著作を貫く大きなテーマです。
現代と密接に関連している歴史や文学は、社会を成り立たせている仕組みや世界に広がったネットワークの起源でもあります。当時の人間がどういう形で情報を編集して自分なりのテクストをつくっていったのかは、恐らく現代の我々が世界にあふれている情報をどう編集してテクストにまとめていくのか、といったことと重なり合ってくると思います。
近代というのはメインカルチャーだけではなく、サブカルチャーも生み出しました。両方の起源である時代を主題的に論じられている鹿島さんに、ぜひお話を伺いたいと思います。
鹿島茂: 僕は「世紀15年間ずれ込み説」を唱えています。20世紀は1914年に第一次世界大戦が始まったことで世界が変わりました。モダニティというものがそこから始まったのです。その前の1815年はナポレオンの没落、その前の1715年はルイ14世が崩御、その前の1610年はアンリ4世が暗殺された年です。さらにその前の1515年は、フランソワ1世という近代的なルネッサンスを起こした王様が即位をした年です。
このようにヨーロッパは100年単位で何か思考したり、行動したりすることがあるのですが、1つの世紀を総括にするのに大体15年ぐらいかかっていて、いつの間にか大きく変わってきてしまうのです。だから僕は「大体2010年から2015年ぐらいに世界を変えるような大変な変動が起こる」と考えています。
社会変動の要因というのはさまざまな点から考えなければなりませんが、ここでは絶対主義の崩壊の序曲となった1715年、ルイ14世の崩御を起点にしたいと思います。ルイ14世が死んだときに摂政になったオルレアン公は大変有能でしたが無道徳な人だったので、それまでの厳しかった世界から一転して、そのあたりから「人間の欲望を全開して構わないんだ」という思想が生まれてきます。
もうひとつの社会変動要因は、家族構成です。エマニュエル・トッド(1951~)が、盛んに進めている「人口動態学」という学問がありますが、これを読むと驚くべきことが書いてあります。世界の流れは人口の統計、特にその中の識字率で読めてしまうというのです。さらにトッドは、「人口のマクロ統計のほかに家族構成を見ろ」といいます。家族構成は地域ごとに違っていて、そのことが大きな社会変動要因になるというのです。
例えばフランス革命がなぜ起こったか、トッドの説明を僕なりに要約すると、フランスは1730年から40年にかけて人口が爆発的に増加しました。農業経済が発展して生産力が飛躍的に増えました。一般に食糧が2倍になると、人口は3倍になるといわれています。それまで死んでいた人間が生き延びられるようになったのです。
フランスは従来、次男は坊さんにする、三男は軍人にするということで人口調節を行ってきました。ところが人口爆発すると、あふれる人間が都市に流れ込んで来て、新しい職業、例えば公証人や弁護士になる。トッドに言わせると、「これが最大の社会撹乱要因になった」ということなのです。
つまり、それまでは知的なキャリアにアクセスできなかった人たちがアクセスできるようになり、欲望が今までの規模とは違う形で膨らんで、社会に用意されていた従来のポストではまかない切れなくなった。これが最終的にフランス革命を導いたのではないか、というのがトッドの考え方です。
実際にフランス革命が起こります。しかしナポレオンが支配権を握ると、戦争を何度も起こします。それまでは貴族が多国籍の傭兵、多くはスイス人傭兵を雇っていましたが、フランス革命が起こって国民皆兵になりました。すると兵隊にいろいろなことを伝えなければならないために識字率が上がり、下層の中産階級も知的なキャリアへのアクセスが可能になったのです。
最後の人口爆発期は1800年をはさんだあたりです。ところが、ナポレオンは失脚して1815年にセントヘレナに流されました。すると欲望を膨らませていた人たちは、2階に上ってはしごを外された格好になってしまったのです。軍人としては出世できない、じゃあ坊さんの道があるかというと、それはあまり人気がなかったのです。
現代と密接に関連している歴史や文学は、社会を成り立たせている仕組みや世界に広がったネットワークの起源でもあります。当時の人間がどういう形で情報を編集して自分なりのテクストをつくっていったのかは、恐らく現代の我々が世界にあふれている情報をどう編集してテクストにまとめていくのか、といったことと重なり合ってくると思います。
近代というのはメインカルチャーだけではなく、サブカルチャーも生み出しました。両方の起源である時代を主題的に論じられている鹿島さんに、ぜひお話を伺いたいと思います。
鹿島茂: 僕は「世紀15年間ずれ込み説」を唱えています。20世紀は1914年に第一次世界大戦が始まったことで世界が変わりました。モダニティというものがそこから始まったのです。その前の1815年はナポレオンの没落、その前の1715年はルイ14世が崩御、その前の1610年はアンリ4世が暗殺された年です。さらにその前の1515年は、フランソワ1世という近代的なルネッサンスを起こした王様が即位をした年です。
このようにヨーロッパは100年単位で何か思考したり、行動したりすることがあるのですが、1つの世紀を総括にするのに大体15年ぐらいかかっていて、いつの間にか大きく変わってきてしまうのです。だから僕は「大体2010年から2015年ぐらいに世界を変えるような大変な変動が起こる」と考えています。
社会変動の要因というのはさまざまな点から考えなければなりませんが、ここでは絶対主義の崩壊の序曲となった1715年、ルイ14世の崩御を起点にしたいと思います。ルイ14世が死んだときに摂政になったオルレアン公は大変有能でしたが無道徳な人だったので、それまでの厳しかった世界から一転して、そのあたりから「人間の欲望を全開して構わないんだ」という思想が生まれてきます。
もうひとつの社会変動要因は、家族構成です。エマニュエル・トッド(1951~)が、盛んに進めている「人口動態学」という学問がありますが、これを読むと驚くべきことが書いてあります。世界の流れは人口の統計、特にその中の識字率で読めてしまうというのです。さらにトッドは、「人口のマクロ統計のほかに家族構成を見ろ」といいます。家族構成は地域ごとに違っていて、そのことが大きな社会変動要因になるというのです。
例えばフランス革命がなぜ起こったか、トッドの説明を僕なりに要約すると、フランスは1730年から40年にかけて人口が爆発的に増加しました。農業経済が発展して生産力が飛躍的に増えました。一般に食糧が2倍になると、人口は3倍になるといわれています。それまで死んでいた人間が生き延びられるようになったのです。
フランスは従来、次男は坊さんにする、三男は軍人にするということで人口調節を行ってきました。ところが人口爆発すると、あふれる人間が都市に流れ込んで来て、新しい職業、例えば公証人や弁護士になる。トッドに言わせると、「これが最大の社会撹乱要因になった」ということなのです。
つまり、それまでは知的なキャリアにアクセスできなかった人たちがアクセスできるようになり、欲望が今までの規模とは違う形で膨らんで、社会に用意されていた従来のポストではまかない切れなくなった。これが最終的にフランス革命を導いたのではないか、というのがトッドの考え方です。
実際にフランス革命が起こります。しかしナポレオンが支配権を握ると、戦争を何度も起こします。それまでは貴族が多国籍の傭兵、多くはスイス人傭兵を雇っていましたが、フランス革命が起こって国民皆兵になりました。すると兵隊にいろいろなことを伝えなければならないために識字率が上がり、下層の中産階級も知的なキャリアへのアクセスが可能になったのです。
最後の人口爆発期は1800年をはさんだあたりです。ところが、ナポレオンは失脚して1815年にセントヘレナに流されました。すると欲望を膨らませていた人たちは、2階に上ってはしごを外された格好になってしまったのです。軍人としては出世できない、じゃあ坊さんの道があるかというと、それはあまり人気がなかったのです。
関連書籍
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鹿島 茂文芸春秋
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第1章 2015年に大きな社会変動が起きるのではないか
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第2章 文学はその社会を雄弁に語る
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第7章 社会変動が起きるとき、相反する2つの力が働く
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