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鹿島茂の「近代文学を創り上げた編集力」

~あなたは文学をここまで読み解けますか?

更新日 : 2010年01月22日 (金)

第7章 社会変動が起きるとき、相反する2つの力が働く

竹中平蔵氏(左)鹿島茂氏(中央)安藤礼二(右)

安藤礼二: 鹿島さんが最初におっしゃった「世紀はちょっと遅れて変わってくる」というお話のなかで、いろいろなものが、きょう非常にクリアに見えてきました。では、2015年の変革というのは、一体どういったようなものになるとお考えですか。

鹿島茂: それは本当に難しいのです。ヴァルター・ベンヤミン(1892~1940)が考えたパサージュ論というものがあるのですが、それは、どうしてモダニティ、つまり20世紀的なものが生まれてきたのかということを徹底的に考えたものです。

彼が言うには、テクノロジーの進化というものが片一方にある、しかしもう片一方にはテクノロジーの進化を恥じる、それを外側から覆い隠そうとする装飾性というものがある。要するに機能性優先と装飾性重視ですね。流行なり何なりすべての面は、その2つのせめぎ合いであるということです。

ベンヤミンには、もう1つ、マルクスとフロイトの理論を合わせた面があって、そこのところでフロイトの「抑圧理論」を使っています。つまり、人間には原始的な欲望というものが存在しているけれど、それが表に出ようとすると、検閲などさまざまな形で抑圧しようとする働きがある。その抑圧を何とかかいくぐって出てきたのが人間の夢であり、文学作品であり、さまざまな建築物である。つまり、抑圧された欲望をカモフラージュしようとするものが強く働いたがために、テクノロジーの機能性の論理というものが、瞬間的には出てこなかったと言っているのです。

しかし、ついにその機能性の論理というものが出てこざるを得なくなったのは、第一次大戦があったからです。それまでの大砲には装飾模様があったりしたのですが、そういうものが一切なく、ただ敵を能率的に殺すものになったのは第一次世界大戦からです。モダニティという概念は、第一次世界大戦を境にして出てきたのです。

もう1つ面白いのは、アール・ヌーボーというのは、鉄やガラスといった可塑性の素材を使って芸術をつくってしまった。なぜこういうものが生まれたかというと、ベンヤミンは「我々人間が目覚めようとしたときに、目覚めさせまいという力が働いて、私たちは目が覚めた夢を見ることがある。アール・ヌーボーはまさに目が覚めた夢であり、必ず世紀というものには、自分の世紀を延長しようとする変な働きがある」ということを言っています。

今は21世紀的なアール・ヌーボーのせめぎ合いを抑圧しようとしている働きと、どうしようもない強固な論理がせめぎ合っている時代でしょうか。環境のこともあるし、もう1回戦争が起こる可能性もないわけではないですからね。

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