記事・レポート
環境とビジネスは両立するか?
~答えはYes。具体策を提示します~
更新日 : 2010年02月08日
(月)
第9章 「2050年までに温暖化ガス半減」は難しいことではない
竹中平蔵: 例えば太陽エネルギーについて、多額の補助金を日本が出すかどうか、これはやはり国家戦略の問題だと思います。日本はそういう観点からすると、明示的な戦略は持っていませんでした。
1973年の石油危機のときに、石油の値段が相対価格として一番上がった国は実は日本だったのです。ドイツはあまり上がりませんでした。それは国内に石炭があったからです。日本は丸裸で石油危機にさらされたので、エネルギーの価格が一番上がったのです。
「これは大変だ」ということで、強力な省エネ投資を実施して省エネ技術を開発したため、結果的に今、日本はすごく競争力があるエネルギー効率の高い国になったのです。これは国家の意思によるものではなく、すさまじい風が吹いたので、民間が努力した結果によるものです。
では、太陽光発電について国は補助金政策をやるべきかどうか。もし三橋さんが環境担当の首相補佐官だったならば、国家戦略としてどういうことを進言なさいますか。
三橋規宏: 太陽光発電については、補助金よりも市場メカニズムを活用するドイツ方式の固定価格買取制度が好ましいと思います。ただ日本の場合は、補助金でやってきたため、補助金と固定価格買取制度を連動させれば、ドイツを上回るような大きな効果が期待できます。
今度の景気対策との兼ね合いでいうと、やはり産業的に思い切ってテコ入れをすべきは、1つは「太陽光発電」だと思います。もう1つは「電気自動車」、そして第3が「ヒートポンプ」です。ヒートポンプというのは大気の温度差や水の温度差などを使ってお湯を沸かすなど、熱関係で使えるエネルギーです。この分野に人・モノ・金を思い切って特化することで、突破口を開いていくべきだと思います。
太陽光パネルは発電量ではドイツに抜かれてしまったのですが、技術的には日本が優位な部分がまだ多い。太陽のエネルギーを何%電気に変えられるかという変換効率には「20%の壁」があるので、30%ぐらいのものができれば大変な競争力を持つことになります。その可能性を持っているのは日本ではないかと思います。日本で欠けているのは技術ではなく、普及させるための制度設計です。
車については「ガソリン車はけしからん」といって、自動車をなくすわけにはいきません。自動車には利便性があるわけですから、ガソリンを一切使わない電気自動車に切り換えれば、相当普及すると思います。
リチウムイオン電池は、日本の技術が最高だといわれています。これは今のハイブリッド車に使われている電池と比べ、小さくて効率は2倍以上という電池です。しかし、「リチウム電池イオンシステムというのは、自動車本体と同じぐらいの価格になる」と言う人もいます。だからその部分をリースにして、利用者の使った電気代がガソリン代と同じぐらいの価格になれば、その価格で電気自動車を得ることができるということを計画しているメーカーもあります。そうすると、電気自動車の時代というのが一気に来るのではないかと私は思います。
したがって、その分野の投資も積極的に支援していく必要があると思います。メーカーに支援するというより、購入者に対して50万円なり70万円の補助金を出すとか、そういう初期需要の考えが必要だと思います。
竹中平蔵: 最後に、2050年までに温暖化ガスの排出量を半減するという政策の実現可能性、あるいは実現するための道筋について、専門家としての三橋さんのご見解をぜひ伺いたいのですが、いかがでしょうか。
三橋規宏: 2050年に世界のCO2を半減する場合、日本では恐らく70%ぐらい減らさなければいけないと思いますが、それほど難しいことだとは思いません。
理由の1つは、人口減少が非常に効いてくるからです。日本の人口のピークは2004年で、2005年から人口は減少に転じています。「国立社会保障・人口問題研究所」の将来推計人口によると、2004年に約1億2,780万人だったのが、2050年には約9,500万人まで減る、2030年以降は年率1%ずつ減少するとなっています。
仮にCO2を90年比で70%削減するとなると、人口減少だけでそのうちの4割近くのCO2が需要面から減るわけです。またその頃には経済成長率がマイナスになる可能性もあります。残りの6割は、先ほど申し上げた新エネルギーや省資源型の技術革新によって十分埋めることができると思います。その中には制度設計として環境税の導入なども入ります。
人口減少で70%のうちの4割近くが削減できるのですから、これがいいか悪いかは別として、そこだけは神風が吹いています。
竹中平蔵: 大変興味深いご指摘をありがとうございました。きょうの三橋さんのお話の中にたくさんのヒントがありました。今後この問題をぜひ皆さん自身の問題として考えていただきたいと思います。本日はありがとうございました。(了)
1973年の石油危機のときに、石油の値段が相対価格として一番上がった国は実は日本だったのです。ドイツはあまり上がりませんでした。それは国内に石炭があったからです。日本は丸裸で石油危機にさらされたので、エネルギーの価格が一番上がったのです。
「これは大変だ」ということで、強力な省エネ投資を実施して省エネ技術を開発したため、結果的に今、日本はすごく競争力があるエネルギー効率の高い国になったのです。これは国家の意思によるものではなく、すさまじい風が吹いたので、民間が努力した結果によるものです。
では、太陽光発電について国は補助金政策をやるべきかどうか。もし三橋さんが環境担当の首相補佐官だったならば、国家戦略としてどういうことを進言なさいますか。
三橋規宏: 太陽光発電については、補助金よりも市場メカニズムを活用するドイツ方式の固定価格買取制度が好ましいと思います。ただ日本の場合は、補助金でやってきたため、補助金と固定価格買取制度を連動させれば、ドイツを上回るような大きな効果が期待できます。
今度の景気対策との兼ね合いでいうと、やはり産業的に思い切ってテコ入れをすべきは、1つは「太陽光発電」だと思います。もう1つは「電気自動車」、そして第3が「ヒートポンプ」です。ヒートポンプというのは大気の温度差や水の温度差などを使ってお湯を沸かすなど、熱関係で使えるエネルギーです。この分野に人・モノ・金を思い切って特化することで、突破口を開いていくべきだと思います。
太陽光パネルは発電量ではドイツに抜かれてしまったのですが、技術的には日本が優位な部分がまだ多い。太陽のエネルギーを何%電気に変えられるかという変換効率には「20%の壁」があるので、30%ぐらいのものができれば大変な競争力を持つことになります。その可能性を持っているのは日本ではないかと思います。日本で欠けているのは技術ではなく、普及させるための制度設計です。
車については「ガソリン車はけしからん」といって、自動車をなくすわけにはいきません。自動車には利便性があるわけですから、ガソリンを一切使わない電気自動車に切り換えれば、相当普及すると思います。
リチウムイオン電池は、日本の技術が最高だといわれています。これは今のハイブリッド車に使われている電池と比べ、小さくて効率は2倍以上という電池です。しかし、「リチウム電池イオンシステムというのは、自動車本体と同じぐらいの価格になる」と言う人もいます。だからその部分をリースにして、利用者の使った電気代がガソリン代と同じぐらいの価格になれば、その価格で電気自動車を得ることができるということを計画しているメーカーもあります。そうすると、電気自動車の時代というのが一気に来るのではないかと私は思います。
したがって、その分野の投資も積極的に支援していく必要があると思います。メーカーに支援するというより、購入者に対して50万円なり70万円の補助金を出すとか、そういう初期需要の考えが必要だと思います。
竹中平蔵: 最後に、2050年までに温暖化ガスの排出量を半減するという政策の実現可能性、あるいは実現するための道筋について、専門家としての三橋さんのご見解をぜひ伺いたいのですが、いかがでしょうか。
三橋規宏: 2050年に世界のCO2を半減する場合、日本では恐らく70%ぐらい減らさなければいけないと思いますが、それほど難しいことだとは思いません。
理由の1つは、人口減少が非常に効いてくるからです。日本の人口のピークは2004年で、2005年から人口は減少に転じています。「国立社会保障・人口問題研究所」の将来推計人口によると、2004年に約1億2,780万人だったのが、2050年には約9,500万人まで減る、2030年以降は年率1%ずつ減少するとなっています。
仮にCO2を90年比で70%削減するとなると、人口減少だけでそのうちの4割近くのCO2が需要面から減るわけです。またその頃には経済成長率がマイナスになる可能性もあります。残りの6割は、先ほど申し上げた新エネルギーや省資源型の技術革新によって十分埋めることができると思います。その中には制度設計として環境税の導入なども入ります。
人口減少で70%のうちの4割近くが削減できるのですから、これがいいか悪いかは別として、そこだけは神風が吹いています。
竹中平蔵: 大変興味深いご指摘をありがとうございました。きょうの三橋さんのお話の中にたくさんのヒントがありました。今後この問題をぜひ皆さん自身の問題として考えていただきたいと思います。本日はありがとうございました。(了)
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