記事・レポート
日本政治の行方
ジェラルド・カーティス教授による、日本の政治シリーズ 第3回
更新日 : 2009年08月26日
(水)
第6章 必要なのは「官僚改革」。「脱官僚」ではない
ジェラルド・カーティス: 官僚に対して抜本的な改革をやるのはとても大事なことだと思います。ただ、「脱官僚」というのは、官僚バッシングに聞こえる表現で、非常によくないと思います。今度の政権が上手くいくかいかないかは、官僚のモラルを高められるか、官僚を上手に使いこなせるかどうかにかかっています。官僚をダメにして日本がよくなるということは絶対にありません。どこの国でも、官僚を使わなければ何もできません。
日本では、「アメリカは政治家が全部やっている」と思われているようですが、それは大間違いで、アメリカの国会議員も官僚組織の上に立ってやっているんです。でもアメリカの場合、下院議員は政府のお金で秘書を18人雇えます。上院議員は人数制限がないので1人当たり50~60人雇っています。どちらもすべて国のスタッフです。日本は3人しか公設秘書を雇えません。ですから、官僚を上手に使うことが大事になるんです。若い官僚の中には、改革を望んでいる人もたくさんいます。
問題は、日本はほかの議院内閣制の民主主義国とは全く異なった制度になっているということです。日本では「与党」と言いますが、与党という言葉は英語にはありません。英語では「government party」=政権党です。民主党が政権をとったら与党という言葉は使わないで、「我々は政権党である」という発想の転換が必要です。
日本の民主主義はマッカーサーと占領軍が持ってきたのではなく、「大正デモクラシー」という日本語があるように、大正時代に民主主義の方向に歩き始めたのです。1930年代に軍国主義になってダメになったんですが、20年代にできたシステム、その延長線にあるのが戦後の自民党です。
衆議院の第一党のリーダーが総理大臣になるということが慣習になったのは、1918年、原敬という政友会の党首が総理大臣になったときからです。26年の政友会の幹事長は鳩山さんのおじいさんの鳩山一郎さんで、政友会の分裂後は自民党の初代総裁になっています。政友会の組織がそのまま自民党組織の構造になったのです。
戦前は高級官僚というのは天皇陛下が直接任命していました。そのため、官僚の責任は国家に対してではなく、天皇陛下に対してあったのです。これは明治憲法の最大の問題点で、天皇に対して責任があるというのは「国民に対する責任はない」という意味なんです。
「与党」というのは衆議院で第一党の意味ですが、官僚が与党と一緒に政権をつくるのが大正時代のシステムでした。だから「政権党」とはいえなかったのです。政権は、官僚と与党の政治家が一緒にやる共同作業だったのです。
それは今の日本も全く同じです。だから今でも「政府与党連絡会議」が開かれるのです。日本の場合、政府と与党が違うのですが、こんな国は世界のほかにどこにもありません。与党=政権党、政権党の下で官僚が働く、これが世界の常識です。
先日、テレビで自民党の若手議員が「それは与党が言っていることであって、政府は必ずしもそう言っていない」ということを言っていました。自民党が政権を握っているなら、政府の言うことと、自民党の言うことは同じはずなんですが、日本の場合は大臣になると政府の代表だから官僚の代表になるんです。「官僚の代表だから、与党の人たちと違う意見を言うのは当然だ」という発想です。
もしこれが変わらないとしたら、いくら「官僚ではなく、国民のための、国民による政治をやる」「政治主導だ」と言っても上手くいきません。これを今度、民主党が発想を転換して官僚を使いこなす政治をやるとしたら、大正時代以来の革命的な変化になることでしょう。
私はこの話をよく若手議員にするのですが、「初めて知った」と言われるんです。なぜ、もっと自分の国の政治の歴史を勉強しないのかと言いたくなる……というか、言うんですけどね。歴史を知らない人は現在を知ることもないし、将来のことを考えることもできない。日本の政治家も評論家も日本の歴史を知らない、それでもってアメリカのモデルを美化して「ポリティカル・アポインティ(政治任用制)だ」「官僚ではなく政治主導だ」とか、変にアメリカのまねをする。
アメリカのやり方はいいところもあるけれど、絶対にまねてはいけないところもいっぱいあります。オバマさんが政権をとって半年も経っているのに、財務省のナンバー2以下は未だに指名されていません。もうシステムとして行き詰っているので、日本は日本なりのシステムをやるべきだと思います。
日本では、「アメリカは政治家が全部やっている」と思われているようですが、それは大間違いで、アメリカの国会議員も官僚組織の上に立ってやっているんです。でもアメリカの場合、下院議員は政府のお金で秘書を18人雇えます。上院議員は人数制限がないので1人当たり50~60人雇っています。どちらもすべて国のスタッフです。日本は3人しか公設秘書を雇えません。ですから、官僚を上手に使うことが大事になるんです。若い官僚の中には、改革を望んでいる人もたくさんいます。
問題は、日本はほかの議院内閣制の民主主義国とは全く異なった制度になっているということです。日本では「与党」と言いますが、与党という言葉は英語にはありません。英語では「government party」=政権党です。民主党が政権をとったら与党という言葉は使わないで、「我々は政権党である」という発想の転換が必要です。
日本の民主主義はマッカーサーと占領軍が持ってきたのではなく、「大正デモクラシー」という日本語があるように、大正時代に民主主義の方向に歩き始めたのです。1930年代に軍国主義になってダメになったんですが、20年代にできたシステム、その延長線にあるのが戦後の自民党です。
衆議院の第一党のリーダーが総理大臣になるということが慣習になったのは、1918年、原敬という政友会の党首が総理大臣になったときからです。26年の政友会の幹事長は鳩山さんのおじいさんの鳩山一郎さんで、政友会の分裂後は自民党の初代総裁になっています。政友会の組織がそのまま自民党組織の構造になったのです。
戦前は高級官僚というのは天皇陛下が直接任命していました。そのため、官僚の責任は国家に対してではなく、天皇陛下に対してあったのです。これは明治憲法の最大の問題点で、天皇に対して責任があるというのは「国民に対する責任はない」という意味なんです。
「与党」というのは衆議院で第一党の意味ですが、官僚が与党と一緒に政権をつくるのが大正時代のシステムでした。だから「政権党」とはいえなかったのです。政権は、官僚と与党の政治家が一緒にやる共同作業だったのです。
それは今の日本も全く同じです。だから今でも「政府与党連絡会議」が開かれるのです。日本の場合、政府と与党が違うのですが、こんな国は世界のほかにどこにもありません。与党=政権党、政権党の下で官僚が働く、これが世界の常識です。
先日、テレビで自民党の若手議員が「それは与党が言っていることであって、政府は必ずしもそう言っていない」ということを言っていました。自民党が政権を握っているなら、政府の言うことと、自民党の言うことは同じはずなんですが、日本の場合は大臣になると政府の代表だから官僚の代表になるんです。「官僚の代表だから、与党の人たちと違う意見を言うのは当然だ」という発想です。
もしこれが変わらないとしたら、いくら「官僚ではなく、国民のための、国民による政治をやる」「政治主導だ」と言っても上手くいきません。これを今度、民主党が発想を転換して官僚を使いこなす政治をやるとしたら、大正時代以来の革命的な変化になることでしょう。
私はこの話をよく若手議員にするのですが、「初めて知った」と言われるんです。なぜ、もっと自分の国の政治の歴史を勉強しないのかと言いたくなる……というか、言うんですけどね。歴史を知らない人は現在を知ることもないし、将来のことを考えることもできない。日本の政治家も評論家も日本の歴史を知らない、それでもってアメリカのモデルを美化して「ポリティカル・アポインティ(政治任用制)だ」「官僚ではなく政治主導だ」とか、変にアメリカのまねをする。
アメリカのやり方はいいところもあるけれど、絶対にまねてはいけないところもいっぱいあります。オバマさんが政権をとって半年も経っているのに、財務省のナンバー2以下は未だに指名されていません。もうシステムとして行き詰っているので、日本は日本なりのシステムをやるべきだと思います。
関連リンク
日本の政治シリーズ 第1回、第2回のレポートはこちらからご覧になれます。
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