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日本政治の行方

ジェラルド・カーティス教授による、日本の政治シリーズ 第3回

更新日 : 2009年08月26日 (水)

第1章 「自民の不人気・景気の悪化・民主の魅力」は政権交代の理由にならない

日本の政治研究学の第一人者、ジェラルド・カーティス教授(コロンビア大学)が、日本で政権交代が可能になりえる本当の理由と、日本政治の展望について語ります。小選挙区制に対する警鐘、官僚バッシングの罠、新総理恒例の“アメリカ詣で”への苦言など、目から鱗が落ちるレポートです。

ゲストスピーカー:ジェラルド・カーティス(コロンビア大学教授)

ジェラルド・カーティス(コロンビア大学教授)

ジェラルド・カーティス: 私は40年以上前から日本の選挙を分析していますが、今度の選挙(2009年8月30日の衆議院選挙)は一番歴史的意味のあるもので、本格的な政権交代が初めて起こり得る選挙ではないかと思います。しかし、50年以上もの間、ほとんど例外なく政権を維持してきた政党が簡単に政権を手離すとは考えにくいので、そう簡単にはいかないでしょう。しかも戦後最長の選挙期間ということで、何が起こるかわかりません。

きょうは2つに絞ってお話します。1つ目は、「『今度の選挙では本当に政権交代が起こる可能性がある』ということが、今、日本の常識になっている」ということについて。なぜ、今になって政権交代が起こり得るのが日本人の常識になったのか。今まではどうしてならなかったのか。どうしてこの時点になって、初めて政権交代があり得るのか。

2つ目は「選挙結果」について。どういう結果があり得るのか、その結果としてどういう展開が考えられるのか。民主党政権になったら、何を期待できるのか。要するに、何をする政権になるのか、日本の政治がどう変化していくのか、ということです。

マニフェストの比較は、テレビで評論家の話を聞けばわかるので、私はその話はしません。ただ、「マニフェスト通りにやるのが政治だ」という発想は非常におかしいと思います。これは官僚的な発想です。政治は絶えず動いていて、世の中何が起こるかわからない。それなのに「マニフェストにこう書いたから、この通りしなければならない」というのは政治家のとるべき態度ではないと思います。

マニフェストの話よりも、まず皆さんに考えていただきたいのは、「なぜ今、初めて政権交代があり得るようになったのか」です。

1つ考えられるのは、麻生太郎さんに人気がない、内閣支持率が10数%と低い(2009年7月時点)からというものです。でもよく考えてみれば、森喜朗さんが辞めるときの支持率は確か5%台でしたし、竹下登さんが消費税を導入して、リクルートスキャンダルがからんで辞めたときは3.9%でした。それに比べれば、麻生さんはまだ二桁です。

それに今までの自民党・日本の戦後を振り返ってみると、総理大臣の人気がなくなると、総理大臣は替わるけれど、政権は変わりませんでした。だから「麻生さんは嫌だ」と思う国民が多いのであれば、「総理は替えても、自民党政権はそのまま」となるはずです。だから麻生さんに人気がないからというのは、政権交代の説明になりません。

もう1つ考えられる理由は、日本の経済が非常に悪いから、というものです。でも、これも説明になりません。バブルが弾けて以降、90年代の日本はずっと経済が悪かったのですが、その間、8カ月続いた細川政権を別にすれば、ずっと自民党政権でした。70年代に二度あったオイルショックのときも、自民党は政権を失っていません。アメリカやヨーロッパの民主主義国であれば、経済が悪くなれば与党が政権を失うのが常識ですが、日本ではそうならないということです。経済が悪くなると、「この厳しいときに野党には任せられない。やはり自民党でないと」というのが戦後の日本人の意識だったのです。

つまり、「麻生さんは人気がない」「経済がよくない」というのは政権交代の説明になりません。であれば、もう1つ考えられるのは、「民主党という素晴らしい政党があって、カリスマ性のあるリーダーがいるから」ということになります。が、「民主党は素晴らしい政党で、鳩山さんはとても優れたリーダーだ」と言う人に、私は会ったことがありません。民主党に大きな期待があるから政権交代が起きるというのでもないようです。

だとしたら、さあ、私からの質問です。「麻生さんの不人気」「経済の悪化」「民主党の魅力」これらが理由でないとすれば、今度の選挙で政権交代が起こり得ると考えられる理由は何でしょうか?

関連リンク

カーティス教授の「日本の政治シリーズ」は2009年に全3回開催されました。
第1回、第2回のレポートはこちらからご覧になれます。

プロフィール

Gerald L.Curtis
Gerald L.Curtis

コロンビア大学政治学名誉教授