記事・レポート
未来を変える人たち
発展途上国に明るい光を投げかけるBRAC(バングラデシュ農村向上委員会)の活動
更新日 : 2009年07月30日
(木)
第2章 すべての家庭への徹底した公衆衛生教育
ファザル・H・アベド: 例えば、当時のバングラデシュでは、国民が家族計画を受け入れる率は5%以下でしたが、私たちの活動を通して、35%まで引き上げることができました。政府や他の人たちも、成功を遂げたこのプログラムを実行するだろうと思っていましたが、予想に反し誰も後に続こうとしなかったので、より広い地域で実行するには、自分たちの手で再現しなければなりませんでした。
1979年に、チャンスが訪れました。その年は、国際児童年でした。当時のバングラデシュでは、5歳未満の子どもの約4人に1人が5歳の誕生日を迎えることなく死亡していました。これには、何か手を打たなければならないと思いました。子どもの死亡率の問題を解決しない限り、国民全体の死亡率は減少しないと思ったからです。
亡くなった5歳未満の子どもの約半数は、下痢による死亡でした。これを半減させようと考え、10年後、私たちはそれを成功させました。私たちは、10年間、国内の家庭を訪問し、女性たちに下痢の原因および感染経路等を教育し続けました。また、経口補水塩療法という下痢の治療法を伝授するために、作り方や子どもへの飲ませ方を訓練しました。
目標は、バングラデシュ内のすべての家庭を訪問して、それを教えることでした。私たちは2,000人のスタッフを雇い、各家庭を訪問して、子を持つ女性たちに下痢に関する教育を行いました。
第一段階として、3万世帯に教育を施し、その後、教育内容の定着状況を見るために、各世帯に監視団を送りました。スタッフの給料は定額ではなく、訪問した家庭数、および各女性がどの程度教育内容を覚えることができたのかによって決まる、歩合制でした。
その結果、3万世帯のほとんどの女性が、経口補水液を正しく作れるという結果になりましたが、実際に経口補水液を利用していたのは、わずか6%の家庭だけだとわかったことは、私たちにとって、とてもショックなことでした。
なぜ、そのような事態になったのかを調査したところ、スタッフ自身が経口補水塩療法の効果に疑問を抱いていることが判明しました。これでは良さが伝わるはずがありません。そこで、スタッフをダッカの病院へ連れて行き、下痢に苦しんでいた子どもが、経口補水塩療法により素晴らしい回復を遂げたことを、彼ら自身の目で確かめさせたところ、スタッフの考えが一変しました。
自らが確信を持ったことにより、提供する教育の質が上がったのです。結果として、次に調査を実施したとき、経口補水塩療法を信じて利用している女性の割合は、18%まで上がっていました。
しかし、私たちはその結果に満足ではなかったので、村へ人類学者を派遣しました。「あなたの子どもが下痢している時、なぜ経口補水塩療法を利用しないのか」という質問をしたところ、「兄が時代遅れの治療法だと言って、薬局で別の薬を買って来た」「夫がこの治療法をあまり好んでいない」等の回答が返ってきました。このとき私たちは、それまで、男性のことは全く範疇になかったということに気付きました。
そこで、市場やモスク等の男性が集まる場所へ行き、経口補水塩療法の利用によって幼児死亡率が低下することを説明しました。一般的に、テレビで放送される内容は信頼される傾向にあるので、ラジオ局やテレビ局にも行きました。そうして、このプログラムを始めた初年度の終わりには、経口補水塩療法の利用率は60%まで上がったのです。
その後、全国規模で普及活動をし、1980年から1990年までの10年間で全国をほぼ網羅しました。1980年代の半ばには、政府はすべての子どもに予防接種を受けさせることを決定し、私たちがその半分の予防接種を担当することになりました。さらに、1990年代の終わり頃には、全世帯が経口補水液の作り方を覚えるまでに至り、経口補水塩療法は、バングラデシュ文化の一部のようにまでなりました。その結果、児童の死亡率は大きく減少したのです。
1979年に、チャンスが訪れました。その年は、国際児童年でした。当時のバングラデシュでは、5歳未満の子どもの約4人に1人が5歳の誕生日を迎えることなく死亡していました。これには、何か手を打たなければならないと思いました。子どもの死亡率の問題を解決しない限り、国民全体の死亡率は減少しないと思ったからです。
亡くなった5歳未満の子どもの約半数は、下痢による死亡でした。これを半減させようと考え、10年後、私たちはそれを成功させました。私たちは、10年間、国内の家庭を訪問し、女性たちに下痢の原因および感染経路等を教育し続けました。また、経口補水塩療法という下痢の治療法を伝授するために、作り方や子どもへの飲ませ方を訓練しました。
目標は、バングラデシュ内のすべての家庭を訪問して、それを教えることでした。私たちは2,000人のスタッフを雇い、各家庭を訪問して、子を持つ女性たちに下痢に関する教育を行いました。
第一段階として、3万世帯に教育を施し、その後、教育内容の定着状況を見るために、各世帯に監視団を送りました。スタッフの給料は定額ではなく、訪問した家庭数、および各女性がどの程度教育内容を覚えることができたのかによって決まる、歩合制でした。
その結果、3万世帯のほとんどの女性が、経口補水液を正しく作れるという結果になりましたが、実際に経口補水液を利用していたのは、わずか6%の家庭だけだとわかったことは、私たちにとって、とてもショックなことでした。
なぜ、そのような事態になったのかを調査したところ、スタッフ自身が経口補水塩療法の効果に疑問を抱いていることが判明しました。これでは良さが伝わるはずがありません。そこで、スタッフをダッカの病院へ連れて行き、下痢に苦しんでいた子どもが、経口補水塩療法により素晴らしい回復を遂げたことを、彼ら自身の目で確かめさせたところ、スタッフの考えが一変しました。
自らが確信を持ったことにより、提供する教育の質が上がったのです。結果として、次に調査を実施したとき、経口補水塩療法を信じて利用している女性の割合は、18%まで上がっていました。
しかし、私たちはその結果に満足ではなかったので、村へ人類学者を派遣しました。「あなたの子どもが下痢している時、なぜ経口補水塩療法を利用しないのか」という質問をしたところ、「兄が時代遅れの治療法だと言って、薬局で別の薬を買って来た」「夫がこの治療法をあまり好んでいない」等の回答が返ってきました。このとき私たちは、それまで、男性のことは全く範疇になかったということに気付きました。
そこで、市場やモスク等の男性が集まる場所へ行き、経口補水塩療法の利用によって幼児死亡率が低下することを説明しました。一般的に、テレビで放送される内容は信頼される傾向にあるので、ラジオ局やテレビ局にも行きました。そうして、このプログラムを始めた初年度の終わりには、経口補水塩療法の利用率は60%まで上がったのです。
その後、全国規模で普及活動をし、1980年から1990年までの10年間で全国をほぼ網羅しました。1980年代の半ばには、政府はすべての子どもに予防接種を受けさせることを決定し、私たちがその半分の予防接種を担当することになりました。さらに、1990年代の終わり頃には、全世帯が経口補水液の作り方を覚えるまでに至り、経口補水塩療法は、バングラデシュ文化の一部のようにまでなりました。その結果、児童の死亡率は大きく減少したのです。
未来を変える人たち インデックス
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第1章 バングラデッシュ独立運動から生活復興支援へ
2009年07月15日 (水)
-
第2章 すべての家庭への徹底した公衆衛生教育
2009年07月30日 (木)
-
第3章 社会開発のためのマイクロファイナンス事業
2009年08月12日 (水)
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第4章 すべての子どもたちのための高度な教育プログラム
2009年08月25日 (火)
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第5章 最貧困層から脱却するための支援策
2009年09月07日 (月)
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第6章 社会発展の鍵となる女性の力
2009年09月18日 (金)
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第7章 ビジネスは、貧しい人を助けることもできる
2009年10月06日 (火)
該当講座
いま、ダッカが熱い。「BRICs」に続く新興国「NEXT11」の一つであるバングラデシュ。かつては最貧国と言われたバングラデシュでは、近年5%成長という目覚しい発展が続き、この10年間で貧困層が10%以上減少したといいます。そこでは、まさに現代社会が直面する新しい資本主義の形が追求されているのです。....
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