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おもてなしの天才 
全米屈指のレストラン「ユニオン・スクエア・カフェ」の創業者が語るホスピタリティ・ビジネスの本質

更新日 : 2009年03月02日 (月)

第3章 私がそのクリーニング店を選んだ理由

ダニー・マイヤーさん

マイヤー:  我々はすべてのビジネスはホスピタリティ・ビジネスだと考えています。ホスピタリティとは、この世の中で最も力強い要素で、人がもう一度お客さまとして、自分のビジネスに戻ってくれるかどうかを決めるものだと考えています。ビジネスでは、まずお客さまに来ていただかないといけない。そして、再び来てもらわなければいけません。失敗するのは、この2つができていないからです。

「このレストランは僕の一番のお気に入りだ」という言葉は、最上の褒め言葉だということに気づくべきです。すごくいいだけではなく、「最高の気持ちを味わわせてくれる」ということを意味します。「一番好きだ」と言われること……それこそを指標として私はビジネスを展開していこうと思います。

15~20年前、私がまだ若いレストラン経営者だった頃、人からこう言われました。「ユニオン・スクエア・カフェは、私の一番大好きな店だ」と。私は「ありがとう」の後に続けて「どうしてですか? 何を気に入っていただけたのでしょうか?」と聞きました。

その頃は大多数の方が、例えば「ローストチキンが最高においしいからだ、ニューヨークで一番だ」、もしくは「予約をちゃんと守ってくれる店だから。『4名、8時に』と言えば、ちゃんと席をとっておいてくれるのは、ここだけだ」と言ってくださいました。

しかし、そういう答えはだんだん減っていきました。何年も経つと、「スタッフが最高だから」「従業員がとても僕をいい気分にさせてくれるから」と、ローストチキンのことは話題にならなくなったのです。私は心配しました。「もう食事はおいしくないのかな」と。でも、そうではなかったのです。

アカデミーヒルズで開催したダニー・マイヤー氏によるセミナーの様子
インターネットの時代に入り、最高の商品で競う、もしくは最高のアイディアで競う時代は終わったと思います。最高のモノを出しても、すぐに知られる。「知られる」だけではなく、まねされます。

我々のローストチキンが一番おいしいと誰かが思えば、「ユニオン・スクエア・カフェのチキン」と検索して、出ているレシピをもとに自分で料理します。予約に関しても、我々と同じコンピュータを導入すればいいだけです。

身近な例でお話ししましょう、我々は洋服をクリーニングに出しますよね。クリーニング店の質とサービスは何ですか? ちゃんとシミが落ちたかが質、「3日後に用意できます」と言ったら、3日後にちゃんと仕上がっていることがサービスです。昔であれば、一番お気に入りのクリーニング店は、ちゃんときれいに、早く洋服を仕上げてくれる、その2つで決まったのではないでしょうか。もちろん。価格も1つの要素でしょう。

私の住んでいる町では、4分以内に5つのドライクリーニング店に行けます。ほとんどサービスも価格も同じ場合、私はどこを選ぶと思いますか?

ある土曜日、私は息子をサッカーの試合に連れていく途中で、クリーニング店に立ち寄りました。3日後に取りに行くと、フロントの女性は私に仕上げたものを出してくれながら、「息子さん、そういえば試合に勝ったの?」と聞いてくれたのです。以降、私がまた足を運ぶのは、そのお店です。なぜなら、彼女はちゃんと私の側に立ってくれたからです。

彼女がそのコメントを言うのにお金がかかったでしょうか、いいえ。新しい機械を入れる必要があったでしょうか、いいえ。価格を下げる必要があったでしょうか、いいえ。彼女はちょっと考えて、ちょっと配慮してくれて、そして少し私の気持ちを考えればよかったのです。それがホスピタリティで、サービスではありません。

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全米屈指のレストラン『ユニオン・スクエア・カフェ』の創業者が語る
ホスピタリティ・ビジネスの本質
Danny Meyer (ユニオン・スクエア・ホスピタリティグループ(USHG)の最高経営責任者)

「ニューヨークで最も予約が取れないレストラン」として名を馳せるユニオン・スクエア・カフェの創業者ダニー・マイヤー氏は、27歳で起業して以来、ニューヨーカーを惹きつけて止まない数々のレストランビジネスを成功させてきました。 「おもてなしの心がもつ力を理解し、うまく活用したいという思いが、成功の鍵とな....


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