記事・レポート
ビジネスマンのための「経営力」養成講座
更新日 : 2008年12月16日
(火)
第6章 「強い会社」は、ビジョンや理念が確立している
小宮一慶:企業が戦略を立てるときにベースになるのは「ビジョン」や「理念」、考え方です。「ビジョン」というのは、目的、理想像です。「目的」と「目標」の違いはわかりますか? 「目的」というのは、最終的に行き着くところです。「目標」というのは、その通過点なのです。
自分の人生の目的というのは何か、これはときどき考えた方がいいですよ。
例えば、私の人生の目的の1つに「家族を幸せにする」というのがあります。次の夏休みに、どこか温泉に連れて行く、それは「目標」です。今までに5 回温泉に連れて行ったからといって、「目的」を達したか、そうではないです。「目的」というのは方向性かもしれない。言い方を変えると、私の存在意義です。だから皆さんにも皆さんの存在意義があって、企業にもそれぞれ企業の存在意義というのがあるわけです。
私が思う「強い会社」というのは、この「ビジョン」や「理念」が確立し、隅々にまで徹底している会社だと思います。
スタンフォード大学の先生だったコリンズ先生が書かれた『ビジョナリー・カンパニー』という本があります。アメリカでいろいろな業種から、ビジョン・理念がしっかりした会社を選んで、それを「ビジョナリー・カンパニー」と言っているのですが、ビジョン・理念がしっかりした会社の方が、利益ばかり求めている会社よりも長期的な投資収益が高く、実は利益もたくさん出ていたと書いてあります。
この本の中で私の好きな話があります。ビジョナリー・カンパニーとして選ばれている1社、ジョンソン・エンド・ジョンソンの話です。
1980年代の初頭にイリノイ州のシカゴで、ジョンソン・エンド・ジョンソンが当時一番売っていた薬、『タイレノール』という頭痛薬のカプセルに毒薬が混入されるという事件が起こって、瞬く間に何人かが亡くなりました。全米を震撼させた「タイレノール事件」です。ジョンソン・エンド・ジョンソンが、そのときどういう措置をとったかというと、一番売れている『タイレノール』を全米のドラッグストアから引き上げました。
しかし、こういう事件というのは模倣犯が出るもので、次にコロラド州のデンバーで事件が起きました。ブリストル・マイヤーズの『エキセドリン』という頭痛薬に毒薬が混入されたのです。
ブリストル・マイヤーズが、どういう対抗措置をとったかというと、コロラド州内のドラッグストアの棚から『エキセドリン』を引き上げました。そして直後に会長が記者会見をして、「投資家の皆さん、ご心配ありません。この事件がブリストル・マイヤーズの収益に与えるインパクトはそれほど大きくありません」と発表したのです。
事件が沈静化してから、両社ともカプセルをやめて、タブレットに替え、外から開けると分かるパッケージングにして、再度『タイレノール』と『エキセドリン』をドラッグストアの棚に戻しました。
消費者はどういう反応を示したか。『タイレノール』の売上が以前よりも増して上がったということです。消費者は敏感です。ジョンソン・エンド・ジョンソンという会社は「どんなことをしても必ず消費者を守る」という印象を与えたのです。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのビジョンの根幹は、「自社の医薬品を通じて、病気で苦しむ人たちの苦痛をやわらげる」という存在意義と規定しています。緊急の役員会で、即座に「全米の棚から商品を引き上げる」という結論を出したのは、「人々の苦痛をやわらげるべき医薬品が人を殺している」ということに彼らは耐えられず、事件の拡大を防ぐ一番いい方法は、自社の医薬品が市場から消えることだという判断を下したのです。
もちろん、すごくもうかっていたからやれるということもありますが、違う言い方をすると、あくまでもビジョンや理念を守り通しているから超高収益企業だということも言えるのです。
『ビジョナリー・カンパニー』の英語の原題は、『Built To Last』。Lastというのは最後という意味ではなくて、続くという意味です。つまりつくった会社を続ける、永続させるためにはどういうことをすればいいか、その結論は、ビジョンや理念を守り抜くことだということです。
『ビジョナリー・カンパニー2』の原題は、『Good to Great』です。つまりグッドな会社をグレートな会社にするためにはどうすればいいか。どちらもすごくいい本なので、ぜひお読みになられるといいと思います。
(その7に続く、全8回)
自分の人生の目的というのは何か、これはときどき考えた方がいいですよ。
例えば、私の人生の目的の1つに「家族を幸せにする」というのがあります。次の夏休みに、どこか温泉に連れて行く、それは「目標」です。今までに5 回温泉に連れて行ったからといって、「目的」を達したか、そうではないです。「目的」というのは方向性かもしれない。言い方を変えると、私の存在意義です。だから皆さんにも皆さんの存在意義があって、企業にもそれぞれ企業の存在意義というのがあるわけです。
私が思う「強い会社」というのは、この「ビジョン」や「理念」が確立し、隅々にまで徹底している会社だと思います。
スタンフォード大学の先生だったコリンズ先生が書かれた『ビジョナリー・カンパニー』という本があります。アメリカでいろいろな業種から、ビジョン・理念がしっかりした会社を選んで、それを「ビジョナリー・カンパニー」と言っているのですが、ビジョン・理念がしっかりした会社の方が、利益ばかり求めている会社よりも長期的な投資収益が高く、実は利益もたくさん出ていたと書いてあります。
この本の中で私の好きな話があります。ビジョナリー・カンパニーとして選ばれている1社、ジョンソン・エンド・ジョンソンの話です。
1980年代の初頭にイリノイ州のシカゴで、ジョンソン・エンド・ジョンソンが当時一番売っていた薬、『タイレノール』という頭痛薬のカプセルに毒薬が混入されるという事件が起こって、瞬く間に何人かが亡くなりました。全米を震撼させた「タイレノール事件」です。ジョンソン・エンド・ジョンソンが、そのときどういう措置をとったかというと、一番売れている『タイレノール』を全米のドラッグストアから引き上げました。
しかし、こういう事件というのは模倣犯が出るもので、次にコロラド州のデンバーで事件が起きました。ブリストル・マイヤーズの『エキセドリン』という頭痛薬に毒薬が混入されたのです。
ブリストル・マイヤーズが、どういう対抗措置をとったかというと、コロラド州内のドラッグストアの棚から『エキセドリン』を引き上げました。そして直後に会長が記者会見をして、「投資家の皆さん、ご心配ありません。この事件がブリストル・マイヤーズの収益に与えるインパクトはそれほど大きくありません」と発表したのです。
事件が沈静化してから、両社ともカプセルをやめて、タブレットに替え、外から開けると分かるパッケージングにして、再度『タイレノール』と『エキセドリン』をドラッグストアの棚に戻しました。
消費者はどういう反応を示したか。『タイレノール』の売上が以前よりも増して上がったということです。消費者は敏感です。ジョンソン・エンド・ジョンソンという会社は「どんなことをしても必ず消費者を守る」という印象を与えたのです。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのビジョンの根幹は、「自社の医薬品を通じて、病気で苦しむ人たちの苦痛をやわらげる」という存在意義と規定しています。緊急の役員会で、即座に「全米の棚から商品を引き上げる」という結論を出したのは、「人々の苦痛をやわらげるべき医薬品が人を殺している」ということに彼らは耐えられず、事件の拡大を防ぐ一番いい方法は、自社の医薬品が市場から消えることだという判断を下したのです。
もちろん、すごくもうかっていたからやれるということもありますが、違う言い方をすると、あくまでもビジョンや理念を守り通しているから超高収益企業だということも言えるのです。
『ビジョナリー・カンパニー』の英語の原題は、『Built To Last』。Lastというのは最後という意味ではなくて、続くという意味です。つまりつくった会社を続ける、永続させるためにはどういうことをすればいいか、その結論は、ビジョンや理念を守り抜くことだということです。
『ビジョナリー・カンパニー2』の原題は、『Good to Great』です。つまりグッドな会社をグレートな会社にするためにはどうすればいいか。どちらもすごくいい本なので、ぜひお読みになられるといいと思います。
(その7に続く、全8回)
※この原稿は、2008年7月8日にアカデミーヒルズで開催したRoppongi BIZセミナー『ビジネスマンのための「経営力」養成講座』を元に作成したものです。
ビジネスマンのための「経営力」養成講座 インデックス
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第1章 企業戦略に必要なのは、方向付けと他社との差別化
2008年10月22日 (水)
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第2章 経営の本質の1つ「企業の方向づけ」には、インプットと積み重ねが必要
2008年10月30日 (木)
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第3章 経営チェックに必要な9つのキーワード
2008年11月07日 (金)
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第4章 「この会社のために命を懸けてもいい」と、何人の社員が思ってくれるか
2008年11月20日 (木)
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第5章 肩書きや権威で動く人間は長続きしない
2008年12月04日 (木)
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第6章 「強い会社」は、ビジョンや理念が確立している
2008年12月16日 (火)
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第7章 現場のギャップへの対処法
2009年01月27日 (火)
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第8章 経営哲学の根幹は「人の幸せ」
2009年02月16日 (月)
該当講座
小宮一慶 (経営コンサルタント/株式会社小宮コンサルタンツ代表/明治大学大学院会計専門職研究科特任教授)
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