記事・レポート
カフェブレイク・ブックトーク『にじみ出る素養~「品格」を問う~』
更新日 : 2008年08月18日
(月)
第5章 品格の基礎は学ぶことで
澁川雅俊: この一節の中でいわれている「安楽」とは「幸福」、すなわち幸せな生活を送るという意味です。では智徳の進歩はいかにしてなしとげることができるのでしょうか。
ここで「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず……」で有名な『学問のすゝめ』(『福澤諭吉著作集第3巻』、02年慶應義塾大学出版会刊)におけるこの言説が意味をなします。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと云へり。されば天より人を生ずるには、萬人は萬人皆同じ位にして、生まれながら貴賤上下の差別なく、萬物の霊たる身と心の働を以て天地の間にあるよろづの物を資り、以て衣食住の用を達し、自由自在、互に人の妨をなさずして各安楽にこの世を渡らしめ給ふの趣意なり。」(1876年)
それは、人間誰もが全身全霊で天地の間にある万のものごとを活用し、それぞれの日常生活を充実させ、他の人びとに迷惑をかけることなく幸せな生活を願うという点で皆同じである、という意味です。
しかし現実に勝ち組負け組などの差異が生ずるのは何故でしょうか。福沢は端的にこう指摘しています。「学ぶと学ばざるによる」と。彼はそこでさらに、学ぶこと、すなわち学問の対象(日用の学問=実学)について論じ、その方法として、「或は人の言を聞き、或は自ら工夫を運らし、或は書物をも讀ざる可らず」と唱えることになります。「人の言を聞く」とは、人と議論をすることです。人の話を聞き放しということではありません。「工夫を運らす」とは考察することです。「書物をも読む」につてはいわずもがなでしょう。
ここで「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず……」で有名な『学問のすゝめ』(『福澤諭吉著作集第3巻』、02年慶應義塾大学出版会刊)におけるこの言説が意味をなします。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと云へり。されば天より人を生ずるには、萬人は萬人皆同じ位にして、生まれながら貴賤上下の差別なく、萬物の霊たる身と心の働を以て天地の間にあるよろづの物を資り、以て衣食住の用を達し、自由自在、互に人の妨をなさずして各安楽にこの世を渡らしめ給ふの趣意なり。」(1876年)
それは、人間誰もが全身全霊で天地の間にある万のものごとを活用し、それぞれの日常生活を充実させ、他の人びとに迷惑をかけることなく幸せな生活を願うという点で皆同じである、という意味です。
しかし現実に勝ち組負け組などの差異が生ずるのは何故でしょうか。福沢は端的にこう指摘しています。「学ぶと学ばざるによる」と。彼はそこでさらに、学ぶこと、すなわち学問の対象(日用の学問=実学)について論じ、その方法として、「或は人の言を聞き、或は自ら工夫を運らし、或は書物をも讀ざる可らず」と唱えることになります。「人の言を聞く」とは、人と議論をすることです。人の話を聞き放しということではありません。「工夫を運らす」とは考察することです。「書物をも読む」につてはいわずもがなでしょう。
●では何を読むべきか
福澤はいろいろな著述の中でのその言説を繰り返し繰り返し述べています。つまり学問の方法は、議論と考察と読書である、といっているわけですが、そこで問題になるのは、
1. 何を誰とどのように議論するか
2. 自分を取り巻く環境から何に注目し、それをどう観察・分析して、自らの見解をまとめるか
3. 何をどう読むか
です。
ブックトークですからここでは何をどう読むかに限定して話を進めますが、実はこの問題は読書論の問題なのです。そのことについては昨年11月(第3回)のブックトークで取りあげましたが、こと私たち人間の品格の問題についてはハウツー本などのような即時的実利性を求める場合に適している類の本では用をなさないでしょう。
品格は個々人の「素養」(普段から心掛けて身につけた知識。この「知識」は博覧強記的な知ではなく、いかなる状況の下でも適正にいうときに適正に行動できる力を意味する)がにじみ出るものですから、付け焼き刃ではいざというときに剥がれてしまいます。では素養とは何でしょうか。
1. 何を誰とどのように議論するか
2. 自分を取り巻く環境から何に注目し、それをどう観察・分析して、自らの見解をまとめるか
3. 何をどう読むか
です。
ブックトークですからここでは何をどう読むかに限定して話を進めますが、実はこの問題は読書論の問題なのです。そのことについては昨年11月(第3回)のブックトークで取りあげましたが、こと私たち人間の品格の問題についてはハウツー本などのような即時的実利性を求める場合に適している類の本では用をなさないでしょう。
品格は個々人の「素養」(普段から心掛けて身につけた知識。この「知識」は博覧強記的な知ではなく、いかなる状況の下でも適正にいうときに適正に行動できる力を意味する)がにじみ出るものですから、付け焼き刃ではいざというときに剥がれてしまいます。では素養とは何でしょうか。
●古典いろいろ
教養の同義語に「素養」ということばがあります。品格は深い素養からにじみでるものであり、それは、古来「古典を読む」ことによって叶えられるというのが通説です。先に挙げたシンポジウムのパネラーの何人かもそう指摘していました。では古典とは何かということになります。
例えば国家の品格というテーマであるならばプラトンの『国家〔上・下〕』(藤沢令夫訳、岩波文庫1979年刊)でしょうか。資本主義社会の品格というテーマならば、今後の経済成長の目的を明確にし人間の本当の幸せを追求した最近の書『アダム・スミス—『道徳感情論』と『国富論』の世界』(堂目卓生著、中公新書08年刊)が注目しているようにアダム・スミスの『国富論〔全4巻〕』(水田洋監訳、杉山忠平訳、岩波文庫2000-01年刊)だけでなく『道徳感情論〔上・下〕』(水田洋訳、岩波文庫03年刊)も読むべきであるとか。
企業の品格という点については、『商売繁盛大鑑』(宮本又次他監修、足立政男他編、1984-85年同朋社刊)、あるいは新刊の『渋沢栄一と〈義利〉思想』(于臣YuChen著、08年ぺりかん社刊)がいいとかいうことでしょうか。さらに人としての生き方ということであれば、『アランの幸福論』(齋藤慎子訳、07年ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)か、ヒルティの『幸福論〔全3巻〕』(岩波文庫、1993年刊)とかを掲げることでしょうか。
※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。
関連書籍
福澤諭吉著作集 〈第3巻〉 学問のすゝめ 小室正紀
福沢諭吉慶応義塾大学出版会
国家〈上〉
プラトン, 藤沢 令夫【訳】岩波書店
アダム・スミス—『道徳感情論』と『国富論』の世界
堂目 卓生中央公論新社
国富論〈1〉
スミス,アダム, 水田 洋【監訳】, 杉山 忠平【訳】岩波書店
道徳感情論〈下〉
スミス,アダム, 水田 洋【訳】岩波書店
渋沢栄一と“義利”思想—近代東アジアの実業と教育
于 臣 《ユ チェン》ぺりかん社
アランの幸福論
アラン, 齋藤 慎子【訳】ディスカヴァー・トゥエンティワン
幸福論 〈第1部〉 (改版)
カ−ル・ヒルティ, 草間平作岩波書店
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