記事・レポート
カフェブレイク・ブックトーク『にじみ出る素養~「品格」を問う~』
更新日 : 2008年07月09日
(水)
第1章 品格本ブームは、藤原正彦の『国家の品格』が火付け
澁川雅俊: 最近「○○の品格」などという書名を冠した本がたくさん出版されています。それらはみな「品格」を問い、「品位」を正し、「気品」の源泉を求めていますが、さてどのような議論が展開されているのでしょうか。
まず例によって流通本を調べてみました。218点(「品位」、「気品」を含む)ありました。「品格」ということば自体は、その同義語(品位、品性、気品など)と共に新語ではありませんが、こと本の書名に使われるようになったのはそれほど古くはないようです。2005年頃から急に増えています。
おそらくはこういうことなのでしょう。その年に『国家の品格』(藤原正彦著、05年新潮社刊)が出版され、それがミリオンセラー(48刷で263万部)となり、「国家の品格」が流行語大賞を獲得したからでしょう。それ以降それにあやかり、「○○の品格」が相次いで刊行されるという、ブームを生み出したのです。
新刊書データベースで今年の1~5月に出されたその種のものを探してみると、63点ありました。それらは決してランキング本ではないのですが、よく買われているようです。
まず例によって流通本を調べてみました。218点(「品位」、「気品」を含む)ありました。「品格」ということば自体は、その同義語(品位、品性、気品など)と共に新語ではありませんが、こと本の書名に使われるようになったのはそれほど古くはないようです。2005年頃から急に増えています。
おそらくはこういうことなのでしょう。その年に『国家の品格』(藤原正彦著、05年新潮社刊)が出版され、それがミリオンセラー(48刷で263万部)となり、「国家の品格」が流行語大賞を獲得したからでしょう。それ以降それにあやかり、「○○の品格」が相次いで刊行されるという、ブームを生み出したのです。
新刊書データベースで今年の1~5月に出されたその種のものを探してみると、63点ありました。それらは決してランキング本ではないのですが、よく買われているようです。
●月並みな内容のハウツーに、書店員もがっくり
まだまだそのブームが続きそうです。その63点についてよく見てみると、それが流行りだした05年以降07年までのものとほぼ同じような本が並んできます。まずそれらについての評判を調べてみましょう。
少し前(2004年)から年1回、全国の書店員がいま一番売りたい本、読者に薦めたい本を選びそれらに「本屋大賞」を与えるという催しが行われています。その大賞は全国の書店員に支えられています。書店員はよく本を読んでいるわけですが、その中のひとりがあるブログサイトに品格本について投稿しています。要約するとこうなります。
「品格本は総じて安っぽいハウツー本です。しかも指摘されている品格を上げる要点と要領は、しばしば週刊誌の埋め草で取りあげられる程度のもので、内容が実に軽いのです。そうした本がよく売れていることは書店員としてはありがたいのですが、一読者としては何か空虚な感じがしています。それにしてある出版社のものが多いのですが、「品格」なる大仰なタイトルを付けて、これでもかこれでもかと出し続ける販促戦略に、ある意味で商魂の逞しさを感じざるをえません」
少し前(2004年)から年1回、全国の書店員がいま一番売りたい本、読者に薦めたい本を選びそれらに「本屋大賞」を与えるという催しが行われています。その大賞は全国の書店員に支えられています。書店員はよく本を読んでいるわけですが、その中のひとりがあるブログサイトに品格本について投稿しています。要約するとこうなります。
「品格本は総じて安っぽいハウツー本です。しかも指摘されている品格を上げる要点と要領は、しばしば週刊誌の埋め草で取りあげられる程度のもので、内容が実に軽いのです。そうした本がよく売れていることは書店員としてはありがたいのですが、一読者としては何か空虚な感じがしています。それにしてある出版社のものが多いのですが、「品格」なる大仰なタイトルを付けて、これでもかこれでもかと出し続ける販促戦略に、ある意味で商魂の逞しさを感じざるをえません」
●本の書名は誰が付けるか
「ある意味で商魂の逞しさを……」という内容のコメントが意味深長です。
皆さんは本の書名を誰がどのように付けるのかご存知でしょうか。
私たち読者は普通こう考えます。本は、それがフィクションであれノンフィクションであれ、著者が書きたいことを書くのだから、その内容に相応しい書名(標題)は当然著者が付けるものと考えます。しかしことマスプロダクションに掛かる本はそうではないのです。
出版社は本を出し続けることによってその事業を継続します。そのためには本はコスト割れしないように売れる工夫をしなければなりません。したがって出版社は、世の人々が飛びついてくれるようなテーマを選んで、そのテーマについて詳しくて、しかも人気のある書き手を選んで、出版企画を立てます。つまり出す本は出版社が決め、著者に書かせるものなのです。ですからその企画段階で、たとえ仮題であるにしても、本の書名が決まっているのです。
書名はその本の内容を端的にかつ十全に表すべきものですが、読者を惹きつけるかどうかという観点からすれば、最初に目がいくところですから、大事です。表紙を本の顔に例えるならば、書名は目鼻立ちみたいなものです。読者は書店などでまずそれで読みたいものかどうか判断するからです。もっとも最近では最初にお化粧(かつては「装幀」であったが最近では「ブックデザイン」と呼ばれている)に惹かれて手を出すこともしばしばありますが、読者は書名とカバーを気に入った本を手に取り、次に帯解題を読むことになります。それら三点の決定は、普通は、出版編集者(エディター。最近ではプロデューサーなどともいう)の優先事項なのです。
ところが出版社にはそれよりも発言権を発揮する立場にある人たちがいるのです。それは販売員たちです。彼らは、本の目鼻立ちが整っているのはいいが、いつも「目元パッチリ鼻筋通っておちょぼ口」では飽きられてしまうので、たまには「引目鈎鼻」(ひきめかぎはな)(古い絵巻などの眉目秀麗な女性の顔かたちの描き方)で人目を引くことはできないものだろうか、などと考えています。そしてそれが受ければ、「柳の下のどぜう」を狙うことになります。先の書店員はそれを<品がない>と遠回しにいおうとしています。
皆さんは本の書名を誰がどのように付けるのかご存知でしょうか。
私たち読者は普通こう考えます。本は、それがフィクションであれノンフィクションであれ、著者が書きたいことを書くのだから、その内容に相応しい書名(標題)は当然著者が付けるものと考えます。しかしことマスプロダクションに掛かる本はそうではないのです。
出版社は本を出し続けることによってその事業を継続します。そのためには本はコスト割れしないように売れる工夫をしなければなりません。したがって出版社は、世の人々が飛びついてくれるようなテーマを選んで、そのテーマについて詳しくて、しかも人気のある書き手を選んで、出版企画を立てます。つまり出す本は出版社が決め、著者に書かせるものなのです。ですからその企画段階で、たとえ仮題であるにしても、本の書名が決まっているのです。
書名はその本の内容を端的にかつ十全に表すべきものですが、読者を惹きつけるかどうかという観点からすれば、最初に目がいくところですから、大事です。表紙を本の顔に例えるならば、書名は目鼻立ちみたいなものです。読者は書店などでまずそれで読みたいものかどうか判断するからです。もっとも最近では最初にお化粧(かつては「装幀」であったが最近では「ブックデザイン」と呼ばれている)に惹かれて手を出すこともしばしばありますが、読者は書名とカバーを気に入った本を手に取り、次に帯解題を読むことになります。それら三点の決定は、普通は、出版編集者(エディター。最近ではプロデューサーなどともいう)の優先事項なのです。
ところが出版社にはそれよりも発言権を発揮する立場にある人たちがいるのです。それは販売員たちです。彼らは、本の目鼻立ちが整っているのはいいが、いつも「目元パッチリ鼻筋通っておちょぼ口」では飽きられてしまうので、たまには「引目鈎鼻」(ひきめかぎはな)(古い絵巻などの眉目秀麗な女性の顔かたちの描き方)で人目を引くことはできないものだろうか、などと考えています。そしてそれが受ければ、「柳の下のどぜう」を狙うことになります。先の書店員はそれを<品がない>と遠回しにいおうとしています。
※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。
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