記事・レポート
多様な個性が育むナラティブパワー<イベントレポート>
更新日 : 2024年08月28日
(水)
【2章】これが好き、と人に伝えたい。その思いを大事にしたい
これが好き、と人に伝えたい。その思いを大事にしたい
竹内:一般社団法人アルバ・エデュ 代表理事、竹内明日香 と申します。子どもたちが「話す力」を携え、自分の未来を切り拓けるような教育プログラムの公教育導入を推進しています。また、大学生、高校生、小学生の母でもあります。
今日はナラティブというテーマではありますが、私たちは少し大きく「話す力」と捉えています。そもそも「話す力」とは何か?なぜ必要なのか?なぜそんなにも「話す力」が難しいのか?ということを、最初にお話させてください。まず、この会場のなかで、人の前で話すのが得意だ、という方はどのぐらいいらっしゃいますか?あ、いる!2名ほどいらっしゃいましたね。 実際に日本の大人2000人に、コミュニケーションについてアンケートを取ると、4人に3人は「複数の人の前で発表すること」に苦手意識があり、逆に4人に3人は「話を聞くこと」が得意という結果が出ました。
(竹内さんスライドより)
竹内:私たちは普段、幼小中高大と全学年にわたって教えていますが、小学校の中学年(小学3年生ぐらい)からこのような感じになっていきます。今年の春の大学入試では、総合型選抜と推薦入試(主に「話す力」が問われる面接入試)での合格者が全体の51%と過半数になりました。就活でコミュニケーション能力を最も重視すると言われるようになって20年以上経っています。しかしながら、この「話す力」は教育過程で体系的に学べていない。家庭の養育環境に規定されてしまうということが、とても理不尽だなと思い、この活動を10年続けています。
そもそも、何がきっかけで教育の世界に飛び込んだのかをお話しましょう。私はもともと日本興業銀行というところで銀行員をしていました。そこで海外の交渉の現場、ネゴシエーションの場で負けていて、「話す力」の差を感じ、ここが日本人のアキレス腱(弱み)なのではないかとずっと思っていました。あるプレゼン大会で、日本の名だたる企業の代表の方がことごとく負けているのを見て、帰りの飛行機の中で、これは子どもたちの教育からやらないと!と思いたち、知人という知人に連絡をし、翌月には近所の公民館で「話す力」のワークショップをしてみました。企業が賛同してくださり2年半程やったところで、ちょっと待て、一部の子しか来ていない、つまり保護者がこういった教育についてアンテナが立っているようなおうちの子しか来ないじゃないか、と気づきました。これは、こちらから届けるしかないんだなと、自治体など公的機関に100通ぐらい手紙を出しました。1年ぐらいかかって、ようやくいくつかの学校にプログラムを入れてもらえたのが、8年前です。そこから徐々に自治体単位でプログラムを入れられるようになりました。
この活動からわかったことは、スキルを教えればいいという簡単な問題ではなかった、ということです。なぜ話せないのか、そこに四層の呪縛があるのではないか。その中でも特に「教育政策」について、かなりの時間をかけて研究をいたしました。
(竹内さんスライドより)
竹内:日本の教育は、「読み書き」に偏重しています。「話す」時間は、「読み書き」のおよそ5分の1くらい。あと、国語の教科書で扱うテーマを、マニアックに調べられた元通産官僚の方がいらっしゃいまして、小学校の6学年分のテーマを比べてみると、例えばアメリカでは「強い自己」「自己主張」「個性」を日本の約7倍テーマ設定をしていることがわかりました。日本は「深刻な話」「自己犠牲」「決まりを守る」「協調性」などのテーマがアメリカの4倍ぐらいありました。「ごんぎつね」や「スーホの白い馬」など、もちろん文学作品としては本当に素晴らしいものですが、子どもたちがそこから学ぶことは、じっと耐えよう、そんなに自分の意見を言うものじゃない、ということなんですね。さらに、全教科にわたっていろいろ比べてみると、クリティカルシンキングをする授業というのが、小学校で11%、中学校で12%、これは世界から見るとずいぶん少ないわけです。
(竹内さんスライドより)
竹内:そして「自分で国や社会を変えられるか」という質問に対しても、5年前に比べるとずいぶん伸びてきてはいますが、世界に比べて低い結果が出ています。結局、人前での発表が苦手というのは、自分の意見を持てないからなんじゃないか、そういうものが教育課程にないんじゃないか、ということが、この時点での私の結論でした。
ここで、少しだけ「話す力」の授業体験をしていただこうと思います。自分の言いたいことを見つけるために「広げて、深めて、選ぶ」というプログラムです。
<内容略>
竹内:さて、今やっていただいたワークの①と②は「広げる」作業、③は一番大事な「深める」作業でした。「広げる」と「深める」の違いは何でしょうか?「広げる」というのは、子どもたちにとっての調べ学習、いわゆる情報収集です。ただ、残酷なお話ですが「47都道府県名、そしてそれらの名産や名所、3つずつ上げろ」なんていうお題は、生成AIの手にかかったらあっという間にできてしまいます。ですが、「深める」はまだ生成AIにはできないのです。それは、主役が「自分」だからです。自分はどうしてそれをしたいのか、自分はこれが好きなんだ、それを人に伝えたい、そういう思いを大事にしたいんです。でも、今の国語の問題では「自分」の意見はほとんど問われません。筆者や主人公の言いたいことを言えないと不正解になるんですね。
このような「話す力」のプログラムを学校、自治体、教育委員会、全国行脚して導入していただき、講師の認定資格制度も作り、のべ6万人の子どもたちに教えました。日本財団のサポートもあり、13自治体との取り組みを実現しました。でも、まだあと1700もの自治体が残っている、という話なんです。
我々が提供するプログラムの授業をした結果、プレゼンの自信が高まるのはさることながら、学力も伸びたというデータがあります。しかし、このままでは、プログラムを導入する/しないで、また新たな格差を生んでしまうだけだという気がいたしました。そこで、もう少し教育行政、政財界にもお話を聞いていただくため、自民党の文部科学部会や、経済同友会、人事院など、様々なところにお話しに行っています。また一方、学校の先生方もとても大変です。日本では1人の先生で35人学級、これはOECD各国の中で一番多いです。新しいプログラムを入れて子どもをサポートするのは、先生も大変だろうということで、バーチャル先生が子どもたちと対応するようなアプリを開発してみたりもしています。
藤沢:「深める」、「主体で話す」というのは、まさにナラティブですよね。なぜナラティブができるようになると学力があがるのでしょうか?
竹内:主体的に考えたことを褒められたり、あるいは質問されたりすることが、子どもたちはとても嬉しいんです。それはペーパーテストでいい点をとる嬉しさとずいぶん違うようです。そして、「読み書き」に比べて、「話す」というのは即座の反応が必要なので、それだけ頭のCPUを使うわけですね。認知能力と非認知能力を同時に鍛えられるので、主体性、自己効力感が高まるということと、実際に頭脳が鍛えられるというダブルパンチで、ぐっと子どもが伸びていくようなイメージです。中学でこのプログラムを受けた子どもたちが、その後高校、大学で何をしているか定点観測していますが、学力の伸びだけでなく、スポーツができるようになりました、生徒会をやりましたとか、みんな本当に輝いていて、それを知るといちいち泣けます(笑)。子どもたちが「I」メッセージを発信し、民主主義の担い手となれるような日本人を1人でも増やせるようにと、私も一生懸命いろんな活動をしております。ぜひ皆様にもご支援を賜りたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
藤沢:ありがとうございます。お二人のお話しを聞いて、話したいことがたくさん出てきてきましたので、ここからは3人で対話していきたいと思います。
今日はナラティブというテーマではありますが、私たちは少し大きく「話す力」と捉えています。そもそも「話す力」とは何か?なぜ必要なのか?なぜそんなにも「話す力」が難しいのか?ということを、最初にお話させてください。まず、この会場のなかで、人の前で話すのが得意だ、という方はどのぐらいいらっしゃいますか?あ、いる!2名ほどいらっしゃいましたね。 実際に日本の大人2000人に、コミュニケーションについてアンケートを取ると、4人に3人は「複数の人の前で発表すること」に苦手意識があり、逆に4人に3人は「話を聞くこと」が得意という結果が出ました。
(竹内さんスライドより)
この活動からわかったことは、スキルを教えればいいという簡単な問題ではなかった、ということです。なぜ話せないのか、そこに四層の呪縛があるのではないか。その中でも特に「教育政策」について、かなりの時間をかけて研究をいたしました。
(竹内さんスライドより)
(竹内さんスライドより)
ここで、少しだけ「話す力」の授業体験をしていただこうと思います。自分の言いたいことを見つけるために「広げて、深めて、選ぶ」というプログラムです。
<内容略>
竹内:さて、今やっていただいたワークの①と②は「広げる」作業、③は一番大事な「深める」作業でした。「広げる」と「深める」の違いは何でしょうか?「広げる」というのは、子どもたちにとっての調べ学習、いわゆる情報収集です。ただ、残酷なお話ですが「47都道府県名、そしてそれらの名産や名所、3つずつ上げろ」なんていうお題は、生成AIの手にかかったらあっという間にできてしまいます。ですが、「深める」はまだ生成AIにはできないのです。それは、主役が「自分」だからです。自分はどうしてそれをしたいのか、自分はこれが好きなんだ、それを人に伝えたい、そういう思いを大事にしたいんです。でも、今の国語の問題では「自分」の意見はほとんど問われません。筆者や主人公の言いたいことを言えないと不正解になるんですね。
このような「話す力」のプログラムを学校、自治体、教育委員会、全国行脚して導入していただき、講師の認定資格制度も作り、のべ6万人の子どもたちに教えました。日本財団のサポートもあり、13自治体との取り組みを実現しました。でも、まだあと1700もの自治体が残っている、という話なんです。
我々が提供するプログラムの授業をした結果、プレゼンの自信が高まるのはさることながら、学力も伸びたというデータがあります。しかし、このままでは、プログラムを導入する/しないで、また新たな格差を生んでしまうだけだという気がいたしました。そこで、もう少し教育行政、政財界にもお話を聞いていただくため、自民党の文部科学部会や、経済同友会、人事院など、様々なところにお話しに行っています。また一方、学校の先生方もとても大変です。日本では1人の先生で35人学級、これはOECD各国の中で一番多いです。新しいプログラムを入れて子どもをサポートするのは、先生も大変だろうということで、バーチャル先生が子どもたちと対応するようなアプリを開発してみたりもしています。
藤沢:「深める」、「主体で話す」というのは、まさにナラティブですよね。なぜナラティブができるようになると学力があがるのでしょうか?
竹内:主体的に考えたことを褒められたり、あるいは質問されたりすることが、子どもたちはとても嬉しいんです。それはペーパーテストでいい点をとる嬉しさとずいぶん違うようです。そして、「読み書き」に比べて、「話す」というのは即座の反応が必要なので、それだけ頭のCPUを使うわけですね。認知能力と非認知能力を同時に鍛えられるので、主体性、自己効力感が高まるということと、実際に頭脳が鍛えられるというダブルパンチで、ぐっと子どもが伸びていくようなイメージです。中学でこのプログラムを受けた子どもたちが、その後高校、大学で何をしているか定点観測していますが、学力の伸びだけでなく、スポーツができるようになりました、生徒会をやりましたとか、みんな本当に輝いていて、それを知るといちいち泣けます(笑)。子どもたちが「I」メッセージを発信し、民主主義の担い手となれるような日本人を1人でも増やせるようにと、私も一生懸命いろんな活動をしております。ぜひ皆様にもご支援を賜りたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
藤沢:ありがとうございます。お二人のお話しを聞いて、話したいことがたくさん出てきてきましたので、ここからは3人で対話していきたいと思います。
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