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六本木アートカレッジ
<未来を拡張するゲームチェンジャー>イベントレポート

自分だけの視点<EYES>を持つ

更新日 : 2023年09月26日 (火)

【3】藤原麻里菜(無駄づくり発明家)



2023年はChatGPTの出現で、「10年後になくなる仕事は?」といった予想がさらに現実味を増して捉えられています。「人間にとって仕事とは?」「自分らしく生きるとは?」を、より問われる時代となったとも言えるでしょう。

2022-2023年の六本木アートカレッジシリーズ <未来を拡張するゲームチェンジャー U-35>」では、新しい価値を生み出す5名のゲストを招き、トークイベントを開催しました。ゲストに共通していたのは、業界やジャンルの境界にとらわれず、オリジナリティのある道を切り拓いていること。当初「U-35」と年齢で区切っていた企画でしたが、お話を聞くにつれ、彼らが道を切り拓いていく源は「若さ」にあるのではなく、「自分だけの視点<EYES>」にあると感じました。

そこで、<六本木アートカレッジ>でのトークを振り返りながら、ゲストスピーカーの「社会の捉え方」や「世界の見方」など、独自の視点にスポットをあてたイベントレポートをお届けします。
第3回のゲストは「無駄づくり発明家」として社会に「無駄」なものを誕生させ続ける藤原麻里菜さん。聞き手は、経営学者の楠木建さんです。「無駄」とはどんなもの?「嫌なものとの向き合い方」など、お二人の普通と“逆”をいく考え方、世界観が共鳴したセッションを、対談形式のレポートでお届けします。

藤原麻里菜's EYES 1頭に思い浮かんだものを、「役に立つか」でふるい落とさずに、
実際に作ってみてから価値が生まれるんじゃないか。
楠木 まず「無駄」とはどんなものだと考えていますか?

藤原 「無駄」はすごく曖昧な言葉だと思います。これは(机に置いてあるマイクトレーを手に取って)無駄かもしれないし、無駄じゃないかもしれない。

楠木 ここに置いてある時計は無駄ですか?

藤原 今は時間をみるのに重宝していますけど、無人島では無駄かもしれませんね。

楠木 状況、文脈に依存しているということですよね。今は無駄なことが、時代が違えば変わることもある。

藤原 はい。ただ人間は何かを見ると、道具として使えないか、と考えるので、無人島で今とは別の役割を持たせて、無駄じゃなくすることもあると思います。好きな言葉があります。エイブラハム・フレクスナー(プリンストン高等研究所、アインシュタインなどが集った学術研究機関の創設者の一人)という方の「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」という言葉です。「役に立つか」ではなく、好きなものを追い求めることで価値が生まれてくる。頭に思い浮かんだものを、「役に立つか」でふるい落とさずに、実際に作ってみてから価値が生まれるんじゃないかと思っていて、それが楽しいです。

楠木 「無駄」と「無価値」とは似て非なることです。では「価値」とはなんでしょう?それは、多元的なことで、文脈、状況によって違うものです。今の社会での「役にたつ」という価値基準でみると、藤原さんの作品は「無駄」と捉えられるかもしれない。ただ、明らかに藤原さんの作品は可笑しいですよね。僕にとっては、とにかく笑えるという次元で、ものすごく価値があります。本来ものごとは多元的な価値をもっているけれど、我々はある特定の価値、次元に目が向いて、いつのまにかそれしかないような気になってしまっている。それを解放してくれるのが、藤原さんの作品をはじめ、アート、創造の面白さだと思います。「スプーン・トゥー・ヘル」(服がビシャビシャになるスプーン)は傑作です。「意外性」と「笑い」があって、みんなが思っているものさしの逆をいくということですね。


藤原 「人工的にイヤホンケーブルを絡ませるマシーン」という作品があるんですど、普段イライラしてしまう事象を人工的におこして展示したら、みんな嬉しそうにイヤホンを絡ませ、解くんです。

楠木 「価値を転換する」ということですね。「文明」は、誰が見てもいい、と思うものです。世界中どこでも誰でも「スマホ」を使うのは、普遍的に便利だから。一方、「文化」は局所的なもので、ある文脈では素晴らしいが、そうでなければ無駄ということもある。藤原さんの作品もそうだと思います。今は「文化」が「文明」に取り込まれてしまう世の中だと感じます。
藤原麻里菜's EYES 2続けていくつもりはないけれど、気づいたら続いていた、というのが理想。
楠木 ある藝術家が、作品作りにおいて自分の精神の高揚がすべてで、周りはどうでもいい、と言う人がいました。藤原さんは、作品に対するリアクションがあったほうがいいですか?

藤原 SNSにアップした作品にコメントもらうのは嬉しいですが、量的な反応にはあまり興味がないですね。色々な賞をもらったりすることは嬉しい反面、「無駄づくり」が評価されていいのだろうか?と思うこともあります(笑)。

楠木 僕は大学で研究して本を書いたりしますが、人に読んでもらい「これいいね」と言ってもらわないと嫌なタイプです(笑)。逆に、自分で「わかった、これで説明できた!」となることで、もう報われているという教授もいます。アーティストかクリエイターか、という違いかもしれませんね。藤原さんは、10年後も「無駄づくり」をやっていると思いますか?

藤原 「無駄づくり」を続けるつもりはなかったのですが、もう10年になりました。作ることが、楽しくて、自分にあっているのだと思います。続けていくつもりはないけれど気づいたら続いていた、というのが理想です。もしかしたら違うことをやっているかもしれないですが。

藤原麻里菜's EYES 3自分がわくわくするものは、動画に撮って流す。
胸がときめかないものは動画にしない。
楠木 藤原さんの作品の特徴は、みんなが自分の視点で「これは面白い」「こうしたらもっと面白いんじゃないか?」などと言いたくなるところだと思います。みんなが関わりたくなる、使いたくなる感じがします。

藤原 アイデアは人生を動かすと思っています。「無駄づくり」を見て、アイデアが湧いてきたと言われると嬉しいですね。

楠木 今の価値と少し違うものを提示するのではなく、かなり逆を見せていますよね。90度ずらすではなく、180度違う。「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」という作品も面白いのですが、これも一般的な価値観には反することだけど、結構みんなそう思っている、というところを突いてきますよね。



藤原 あれは明和電機さんと開発しました。

楠木 他に商品化して売れているものはありますか?

藤原 ゴミプラモでしょうか。組み立てると丸まったティッシュペーパーになるというもので、一箱の中に2個入っています。自分でパズルみたいに組み立てるのですが、謎解きみたいで楽しいです。



楠木
 売れているシリーズの続きを作る、という考えはありますか?

藤原 作って満足するので、あまりありません。改善しないのか?と言われるけれど、一度作って自分が満足すれば、それで終わりです。いろんなものを作りたいので、思い立ったら、1日くらいですぐ作ってしまいます。自分がわくわくするものは、動画に撮って流します。胸がときめかないものは動画にしない。「自分がこの作品を人に見せたいかどうか」は、一つの判断基準ですね。

楠木 作品を作る上で必要なメカニカルなもの、工学的なものは、もともと関心があったのですか?

藤原 「無駄づくり」をはじめてからです。最初はダンボールで作っていて、だんだんと電子工作に手を出し始め、周りでやっている人たちに「簡単だよ」と言われてやってみたら一人でもできるようになりました。インターネットでやり方を見て、それを真似して作ったりします。

楠木 まず藤原さんの「アイデア」があって、それを形にするということですが、実現したいけれど、今の技術ではできない、ということがあると思います。つまり、藤原さんのアイデアを実現しようと新たに出てくる技術は、普通では考えつかないものになっているので、それは「無駄づくり」の価値かもしれないですね。

藤原 はい。技術的に諦めるアイデアはたくさんあるので、大学の研究室などとコラボして作れたらいいなと思います。
藤原麻里菜's EYES 4全てからシャットアウトして、無になる時間を持つことで、
自分が本当に守らなければならない時間が見えてくる。
藤原 現代社会は、楽になっているようで、楽になっていない。例えば「ドラム式洗濯乾燥機」で洗濯の時間は削減できたはずなのに、人はより忙しくなっているという不思議な現象があります。そこでみなさんにおすすめしているのは、全てからシャットアウトして、無になる時間を持つこと。本当の「無駄な時間」を過ごして欲しいと思います。天井を見るとか、喫茶店でぼーっとするとか、1日5分でもいいからそういう時間をもつと、自分が本当に守らなければならない時間が見えてくると思います。

楠木 それを強制的にさせたり、促したりするような作品はありますか?

藤原 直接的に狙ったものではないですが、「ビニール袋が風に舞うのをずっとみられるマシーン」​​はそうですかね。リラックスして、無駄なものを見る、心の余白を形にするという感じの作品です。気付くとスマホ、テレビ、動画サイトを見ていて、世の中には時間を食っていくものにあふれています。自分と向き合う「無」の時間をつくることが大切だと思います。

藤原麻里菜's EYES 5嫌なことがあったら、それをもっと増幅させる方法はないか、
それを人工的に再現できる方法はないか、と考えて無駄を探す。
藤原 アイデアが浮かぶシチュエーションのひとつとして、嫌なことがあったら、それをもっと増幅させる方法はないか、それを人工的に再現できる方法はないか、と考えて無駄を探したりしています

楠木 わかります。僕も昔から、わざと嫌な気持ちになる本を読む「特殊読書」というのをやっています。考えが合わない本を読むと、すごく嫌な気持ちになります。エンターテイメントの感覚なのですが、特殊読書用の本棚があります。

藤原 それは、おもしろいですね(笑)。

楠木 嫌いな人と交流する「特殊交際」もやってみました。好きになれるかもって。これはきつかったです。読書に留めたほうがいい(笑)。

藤原 自分はこういうのは嫌だなと気付くんですよね。

楠木 世の中のものさしと、全く逆をいく、ということです。

藤原 結局、正攻法のことはやられちゃうんですよね。水がはねないスプーンは誰かが既に考えついている。でも、水がバシャンとはねるスプーンを本気で作ったら、そこで一番になれる、と思うのです。

楠木 それこそ、ゲームチェンジャーですね。


藤原麻里奈's EYES 6私は子供のころ自由に発想していなくて、視野が狭かった。
大人になって色々な本、映画をみることで、視野が広くなった気がする。
参加者からの質問  「無駄」というフィルターを持たなかった子供の頃のアイデア、視点を持ち続けるために、大事にしていることはありますか?

藤原 私は逆に、子供のころ自由に発想していなくて、視野が狭かったんですよ。大人になって色々な本、映画をみることで、視野が広くなった気がします。子供の時の視点を持ち続けているというより、大人になって考えているアイデアのほうが好きです。

楠木 これは深い!少年の心を取り戻したいと言っている人ほど、ろくな少年じゃなかったというやつです(笑)。そもそも、子供の視点や大人の視点があるのではなく、俗に言う大人の視点というのは単に「視野が狭い」ということであって、本来人間が持っている視点を取り戻すことが大事だということですね。非常に共感できるお話でした。

藤原 ありがとうございます。普段は、一人で考えて、作っていることが多いので、対談を通して「無駄ってなんだろう」とお話しすると、そういう価値観のお話や、言語化の仕方があったな、と改めて思いました。

楠木 藤原さんの本や作品を見ていると、多様性と言っている人ほど多様性を許容しない、品格といっている人ほど品格がない、という、人間社会の持っている本質的な矛盾を凝縮して教えてくれると感じます。「VIVA!人間社会」という視点を感じ、社会に対する肯定的な気持ちになる、これが藤原さんの作品の僕の味わい方でした。

▼トーク中に話題になっていた「無」の時間を作り出す作品が商品化!(2023年9月)
▼トークシリーズ(全5回)詳細はこちら
<未来を拡張するゲームチェンジャー U-35>Vol.3
ビジネスの常識を破壊する 株式会社無駄 “考えてもしょうがない”
<未来を拡張するゲームチェンジャー U-35>Vol.3 ビジネスの常識を破壊する 株式会社無駄 “考えてもしょうがない”

「無駄づくり発明家」として社会に「無駄」なものを誕生させ続ける藤原麻里菜さん。聞き手は、経営学者の楠木建さん。正しいか正しくないか、勝ちか負けか、といった二項対立で判断されがちな窮屈な社会の常識を破壊し、ユル〜く超えていくヒントをお二人の実践者から得られる(かもしれない)60分間の対談です。


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