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いにしえの物語~この国は、いかに成り立しか

「古代史小説」を読む

更新日 : 2020年01月14日 (火)

第2章 古代史を彩るカリスマと美女

ヤマトタケル、聖徳太子(厩戸皇子)
澁川雅俊:『古事記』『日本書紀』(合わせて『記紀』と標記することも)に登場する神々や初期の天皇・皇族の中で、卑弥呼に匹敵するほどの魅力を放つ人物がいます。それが12代景行天皇の皇子とされるヤマトタケル(『古事記』では倭建命、『日本書紀』では日本武尊)です。

ヤマトタケルは天皇の命を受け、九州、出雲、東海、関東に遠征して各地の豪族を次々と平定していきますが、訪れた先々で雄壮な伝説を残しています。その活躍ぶりが現代のヒーロー物語に共通するのか、ヤマトタケルはヤングアダルトに人気が高く、『Kadokawa Comics Aヤマトタケル1~6』〔安彦良和/角川書店〕など漫画やライトノベルにも登場しています。

『物語 日本武尊〈上・下〉』〔田中繁男/展転社〕、『天翔ける日本武尊〈上・下〉』〔神渡良平/致知出版社〕は、女性に扮して九州の熊襲を討ち、天叢雲剣(草薙剣)をもって東北の蝦夷を討ち、遂には黄金の白鳥に姿を変えてこの世を去った皇子の生涯を描いています。遠征は30年余にわたり、皇子は遂に都には帰還できませんでした。

聖徳太子といえば、大勢の者が同時に話したことを聞き分け、適切に応える豊聰耳(とよとみみ)を備えていたなど数々の伝説がありますが、この名は生前功績のあった人物が没した後に贈られる「諡(おくりな)」で、現在の教科書などでは生前の名である「厩戸皇子(厩戸王とも)」が併記されており、『高天原-厩戸皇子の神話』〔周防柳/集英社〕の副題にもその名が使われています。

『記紀』が成立する以前、神話や史実の伝承は口述によってなされ、漢字渡来後は様々な歴史書(「帝紀」「旧辞」など)が制作されました。とはいえ、雑多さゆえに混乱をきたしたため、厩戸皇子は統一を志し、蘇我馬子をモデルにした人物の協力を得ながら、わが国初の「国史」を編纂する、というのが本書のあらすじです。皇子の手による国史は、後に大化の改新の端緒となった乙巳の変で焼失してしまいます。それが『記紀』の編纂につながるわけですが、作家はその想定に立ってこの作品を書いています。

『聖徳太子~世間は虚仮にして』〔三田誠広/河出書房新社〕は、皇太子となる宿命を背負って生まれ、仏教学者としての傑出した見識と国づくりへの純粋な理想を抱えながらも政治の世界に翻弄された厩戸皇子の生涯を、真説・俗説を交えつつ描き出しています。

厩戸皇子の事績には、推古天皇の下で蘇我馬子と協調して政治を行い、国際的緊張のなかで遣隋使を派遣し、中国の文化・制度を学んで冠位十二階や十七条憲法を定めたほか、仏教信仰者としては法華経の解説書『法華義疏』の執筆などがあります。皇子は大王(天皇)や王族を中心とした中央集権国家の体制確立を企図しましたが、「国記」や「天皇記」の編纂もその布石であったとの分析がなされています。

女帝をめぐる美と恋、権力の物語
澁川雅俊:以下に取り上げる古代史小説は、第29代欽明天皇から第48代称徳天皇にかかわるものですが、うち8人が女帝(2人は重祚/天皇を2代務める)です。

『紅蓮の女王 小説推古女帝〈改版〉』〔黒岩重吾/中央公論新社〕は、日本初の女帝の物語です。推古天皇は29代欽明天皇の皇女で、30代敏達(びだつ)天皇の皇后でしたが、蘇我馬子と対立した32代崇峻(すしゅん)天皇の暗殺後、33代として即位します。甥の厩戸皇子を摂政に据え、大胆な改革を通じて国家の基礎をつくり、治世に尽くしたと伝えられていますが、標題の「紅蓮」が象徴するように、物語は絶世の美女とされる女帝とある男の恋物語を縦軸に、横軸として蘇我氏と物部氏の壮絶な権力争いが描かれています。

『朱鳥の陵』〔坂東眞砂子/集英社〕は、天智天皇の皇女として生まれ、天武天皇の皇后から女帝となった41代持統天皇の物語です。わが子を皇位に付けようとする強烈な欲を原動力に、呪詛的な力を駆使し、壬申の乱を通じて皇位継承候補の大津皇子を葬り去るなど“史上最強”とも呼ばれる女帝を描いた作品ですが、物語は霊力によって女帝の真意を見抜いた少女の目を通じて描かれています。稗田阿礼をはじめ、額田王、人麻呂など、万葉歌人とのかかわりが挿話として語られている点も興を深くします。


『天平の女帝~孝謙称徳』〔玉岡かおる/新潮社〕は、重祚により46代孝謙天皇、48代称徳天皇となった女帝の物語です。2代にわたる治世は災害や疫病の流行、貴族の反逆など多難な時期でしたが、父・聖武天皇が抱いた仏教王土の理想を引き継ぎ、東大寺大仏開眼供養、遣唐使派遣など多くの事績を残しました。物語では、生涯独身であった女帝を支えた弓削道鏡との秘めたる恋も語られています。


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