記事・レポート

日本元気塾第6期プレセミナー
レジリエンス(resilience)~自らの手で道を拓く力~

更新日 : 2018年01月16日 (火)

第7章 好きなことだけをするから継続できる。それが力になる

米倉誠一郎: 楠木君はものすごい読書家です。年間どのくらい読んでいるんですか。

楠木: 仕事以外で300冊くらい。テレビも見ない、スポーツもしない、お酒も吞まない。早く家に帰って、本を読んで寝るという生活です。

米倉誠一郎: 「主夫」もしていたんでしょ。ちょっと脇道にそれますが、楠木君の家庭生活の話、すごく面白いので話してください。

楠木: 結婚した頃、大学院で研究を続けたかったけれど、無給なんですよ。そうしたら、妻が「15年間は私が働くから好きなことをしろ。ただし、自分で選んだ道だ、途中でガタガタ言うなよ」(爆笑)。大黒柱が確保できたので(笑)、15年間、好きな研究や読書をし、家事や育児も楽しんでやっていました。ある朝、妻が家に居ます。「今日は会社に行かないの?」と聞いたら、「15年経った。今日からは私が好きなことをさせてもらう」。そこから懲役15年(爆笑)。あと2〜3年で懲役刑が終わります。妻に「そのときにどうなるんですか」と恐る恐る訊ねたら、「そりゃお前、そのときに相談だよ」(爆笑)。そういう家庭生活を送ってきました。他のことはしない、好きなことだけをする、これが大事。好きなことならいくらでも続くじゃないですか。「継続は力なり」で、気がつくと身になっている。

米倉誠一郎: 膨大なインプットの成果は出ているの?

楠木: もちろん! 自分でも時々あふれる教養にたじろいでしまう(笑)。

米倉誠一郎: 僕なんか古い世代ですから、「好きなことばかりしていて飯が食えるのか」と突っ込みたくなるんですが、彼は実践しているので何にも言えない。そのうえ「だからこそチームや組織があるわけでしょ。それぞれの特技を持ち寄れるのがチームや組織じゃないですか」と畳み込まれると、楠木君のあふれる教養に勝てないわけです(笑) 。



個々の力と得技が集まれば、面白いことができる
米倉誠一郎: 藤森さんは普段、どんなことをしているんですか。

藤森義明: 仕事をしています(笑)。

米倉誠一郎: 仕事以外で。

藤森義明: 米国の競争社会で勝ち抜くために、普段から自分自身を鍛えてきましたが、最近、人間として多方面に成長したいと思うようになってピアノを習い始めました。観劇にも行くし、本も読みます。元々左脳人間なので、右脳も使ってバランスをとれた人間になろう、と。

米倉誠一郎: 偉い!(笑)。藤森さんは、あのGEでバイス・プレジデントまで昇り詰めた人。これはもう並大抵の努力ではないと思います。スピーチ・トレーニングのことを話してください。

藤森義明: 米国は、自分の考えを言葉で表現する社会です。どんなに考えていても、上手く表現できなければ評価されないし、誰もついてきません。特にジャック・ウエルチのような超多忙な人には、最初の10秒、15秒で何を伝えるかで勝負が決まってしまう。関心を示して質問が返ってきたら勝ち、質問がなければ終わり。そこで15秒間でどれだけ多くの情報を伝えられるか、徹底的に反復練習をしました。常に言うべきことを考え、意識してトレーニングすれば、15秒間でものすごい情報量を伝えられます。

米倉誠一郎: こうした不断の努力のうえに、藤森さんの鉄壁の強さがあるわけです。

藤森義明: スポーツと同じで、何かを身につけるには反復練習が必要です。イチロー選手のような天才でさえ、あれほどの練習を積んでいるのですから。

楠木健: チームスポーツでは、ひとりで全部できるようにならなくても大丈夫。ここにいる4人もそれぞれ持ち味が違います。闘いの局面は藤森さんにお任せして、僕は後ろで様子見していますが(笑)、僕が役に立つ局面もどこかにあるはず。特技を持つ個人を組み合わせることで力が発揮できるのが、チームや組織の存在意義ではないかと思います。

藤森義明: そうですね。ビジネスでもチームづくりはとても重要です。自分のチームをつくらなければ勝てない。

米倉誠一郎: いろいろな得技をもった人が集まれば、面白いことができる。この元気塾もそうです。



見守り、対話し、責任をとる。これが監督の役割
米倉誠一郎: チームづくりといえば、中竹さんの領域ですが……。

中竹竜二: 私は、最初からお願いベースです(笑)。「自分たちで考えて勝つ。そういうチームをつくってね」と。選手は「じゃあ、監督は何をするの?」(笑)。こんな監督ですから、最初からメディアに叩かれまくりました。2年くらい経ったとき、選手が記事を読んで、「ムカつくよな。監督はたいしたことないけれど、こんなふうに書かれるほどひどくはない」(爆笑)。最後は「仕方がない、この監督を勝たせてやろうぜ」。私のやることは、選手ひとりひとりをしっかり観ること、対話をすること、負けたときに全責任をとることです。

藤森義明: プロスポーツや外資系企業の場合は、必要な戦力を外から引っ張ってくる。でも、日本の大学スポーツや伝統的な日本企業は、今いる人間と組織でどう強くするかを考えなくてはなりません。中竹さんの話のなかにそのヒントがある。中竹さんは選手との対話を大切にしていますが、会社も同じ。特に人を辞めさせるとき、人事に任せるのは最低のリーダーだと思います。大切なことはトップがやらなければいけない。

米倉誠一郎: 「大切なことはトップがやる」。確かにそうですね。ところで藤森さん、皆、失敗談や弱みを暴露したのですから、藤森さんも話してください。あんまり強そうだからいじりたくなる(笑)

藤森義明: 僕の信条は「失敗からも成功からも学ばない」。世界はものすごいスピードで変化しています。同じことは起こらない。だから、過去は振り返らず、今起きていること、これから起きることを徹底して研究します。そんなわけで、ご期待に添えなくて申し訳ない(笑)。ただ、ゲームのルールがまったく違う米国社会に飛び込んだときは、正直ヤバいなと思いました。今まで自分が積み上げてきたことが役に立たないのではないか、と。でも、逆説的に言えば、全く違う世界に飛び込むことで、別の角度から自分を観ることができた。それが自分の殻を破ることにつながったのだと思います。

米倉誠一郎: 「失敗からも成功からも学ばない、すべては過去の話だ」、一度、僕も言ってみたいなあ。よし、今度授業でつかおう(笑)。面白くて時の経つのを忘れてしまいましたが、最後に会場の皆さんの質問を受けたいと思います。


該当講座


レジリエンス(resilience)~自らの手で道を拓く力~
レジリエンス(resilience)~自らの手で道を拓く力~

米倉誠一郎×藤森義明×楠木建×中竹竜二
困難に直面したときに「できない」と考えるか、「どうやったらできるか」と考えるか。それによって、物事の展開は大きく変わります。どんな時代、環境であっても、自らの手で道を切り拓くために必要なことは何か?どのように逆境に立ち向かってきたのか、それぞれの経験から語ります。