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更新日 : 2015年06月10日 (水)

第4章 メルカリが米国進出を決めた3つの理由


 
メジャーリーグと野茂英雄

山田進太郎: なぜ、最初の進出先として米国を選んだのか? 理由は3つあります。

1点目は、米国を征することができなければ、「世界に通用するサービス」とは成り得ないから。かつて、ホンダが二輪車をつくった際、多くの役員は「需要の見込める東南アジアに進出しよう」と言いました。しかし、藤沢武夫氏だけは「米国に行き、『世界のホンダ』になるのが先だ!」と、後に副社長となる川島喜八郎氏を「成功するまで戻ってくるな!」と米国に送り出し、数年かけて大成功を収めたそうです。米国でブランドイメージを確立したホンダは、その後、東南アジアでも大成功を収めています。同じことは、ソニーやトヨタなどにも言えるでしょう。

2点目は、米国は「世界の縮図」だから。米国はまさに多様性の国であり、民族・文化・宗教、様々な背景を持つ人が暮らしています。そのような市場を攻略できれば、他の国でも通用するユニバーサルなサービスになります。

3点目は、日本発のインターネット・ベンチャーとして、米国で最初に“大成功”を収めた企業になりたいから。「米国では、日本のネットベンチャーは通用しない」と言われており、事実、現時点で大成功を収めている企業はありません。しかし、実際にシリコンバレーの方々と接していると、日本で言われているほど、大きな差はないように思います。

たとえるなら、野茂英雄選手が海を渡る直前のメジャーリーグ、でしょうか。最初は誰もが「日本人選手は通用しない」と口にしていた。しかし、野茂選手は周囲の声を気にせず、たった一人で常識を覆し、大成功を収めた。そこから、イチロー選手や松井秀喜選手のように、続けて成功を収める選手が生まれたわけです。同じように、米国で大成功を収める日本発のベンチャーが現れれば、様々なことが劇的に変わっていくはずです。非常に難しいミッションですが、メルカリは野茂選手のようなパイオニアになりたいと考えています。

セオリーでは「普通ではない」結果は得られない

山田進太郎: 日本では2013年7月にサービスを開始しましたが、早くも11月には米国進出の準備を始めました。2014年4月にサンフランシスコに拠点を開設し、過去にシリコンバレーでベンチャーを創業した経験を持つ石塚亮を派遣しました。8月にベータ版、9月には正式に米国版メルカリをリリースしています。

僕自身、準備段階から毎月渡米し、アプリの内容やビジネス展開について、ネットビジネスの先端企業の方にリサーチして回りました。実際は人材採用の側面もあり、各社の役員クラスを中心にコンタクトし、その中で反応の良かった人にはアプローチして採用しており、現在も交渉中の人がいます。

我々のビジネスは、ユーザーインターフェイスの質とともに、「物流」「決済」が重要なドメインとなります。日本は国土が狭く、宅配便が普及しており、どのような場所にも郵便局やコンビニがあり、全国一律200円以下で配送できるインフラがある。一方、日本の26倍もの国土を持つ米国には、日本のような安価で迅速かつきめ細やかな宅配サービスが存在しません。

また、決済の仕組みでは、米国は日本以上にクレジットカードが浸透していますが、詐欺やマネーロンダリングに使われるケースも多く、厳格な法律が整備されています。こうした物流や決済に関する実情に合わせるべく、専門家に相談しながらローカライズ・カルチャライズを進めています。

海外では文化や仕組みが異なるため、色々と苦労することはありますが、最後に1つ、僕が思っていることをお話しします。

米国進出に際しては、様々な方から「米国ではこうやるべき」「こうすれば成功する」といった意見をいただきました。どれも大切なことだと思いますが、別の側面から見れば、それらは“セオリー”と言えるもの。セオリーを守りながらビジネスを行うのは、「普通にやる」のと同義であり、それでは「普通ではない」結果は絶対に得られません。セオリーにとらわれず、自分の意思を貫き通した野茂選手のように、メルカリも目に見える結果を出すことで、様々な常識や既成概念をひっくり返せればと考えています。