記事・レポート

Incubation Hub Conference 2014
グローバル・イノベーターの条件

オープンイノベーションが新たな未来を創る

BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年06月03日 (水)

第1章 ソニーに息づくイノベーションのDNA

ITの世界では近年、IoT(Internet of Things/モノとITの融合)がトレンドとなり、画期的なプロダクトやビジネスが誕生しています。その波に乗り遅れまいと、グローバル企業はオープンイノベーションを加速させ、日本では1つの突破口として「世界で勝てるベンチャー」が待望されています。この秋、虎ノ門ヒルズで開催されたIncubation Hub Conference 2014では、ヤフー、ソニー、メルカリなど、注目の企業を牽引するチェンジメーカーを集め、各社の戦略とともに、未来の世界を変える「グローバル・イノベーター」の条件について徹底討論していただきました。

スピーカー:小田島 伸至(ソニー株式会社 新規事業創出部 専任部長)
スピーカー:川邊 健太郎(ヤフー株式会社 取締役副社長 COO 常務執行役員)
スピーカー:田中 章愛(ソニー株式会社 新規事業創出部 IE企画推進チーム エンジニア)
スピーカー:山田 進太郎(株式会社メルカリ 代表取締役社長)
モデレーター:松本 真尚 (株式会社WiL 共同創業者ジェネラルパートナー)

松本真尚(株式会社WiL 共同創業者ジェネラルパートナー)
松本真尚(株式会社WiL 共同創業者ジェネラルパートナー)

 
大企業、ベンチャー、シリコンバレーの架け橋に

松本真尚: 「モデレータを務める株式会社WiL(World Innovation Lab)の松本です。WiLは、米国のベンチャーキャピタルDCMでパートナーを務めた伊佐山元、サイバー・エージェントでCOOや米国法人CEOを務めた西條晋一、そして私の3名により、2013年8月に立ち上げた会社です。米国はパロアルト、日本は六本木と、日米を代表するイノベーションの発信地に拠点を置いています。

今回のテーマと同様、我々はオープンイノベーションに向けた環境を創造し、日本を起業大国に変えていきたいと考えています。そのために、カネだけでなく、ヒト・モノも交流する真の共創をベースとして、大企業、ベンチャー、シリコンバレーの架け橋となるべく、様々な活動を展開しています。今回登壇いただく方々は、それぞれ形は異なるものの、次代を担う気鋭のイノベーターばかり。示唆に富んだお話が飛び出すのではないかと、楽しみにしております。

最初に講演いただくのは、社内ベンチャーはもとより、企業の枠をも飛び越える新規ビジネスアイデアを事業化につなげるためのプログラム「Sony Seed Acceleration Program」(SAP)の立ち上げを主導し、現在も推進役として尽力されている、ソニー・新規事業創出部の小田島伸至氏です。

「想い」の結合から生まれた新規ビジネスアイデアを事業化につなげるためのプログラム
「Sony Seed Acceleration Program」

小田島伸至: ソニーでは、オープンイノベーションによる新規事業創出を目指して、Sony Seed Acceleration Programを展開しています。とは言え、こうした取り組みは最近になり、突然始めたことではありません。さかのぼれば、音楽事業、保険事業、携帯電話事業に参入した時は他社と手を組みました。ソニーは1960年代から、オープンイノベーションにより様々な新事業を生み出しており、そのDNAを脈々と受け継いできた会社と言えます。

僕は現在、新規事業創出の推進に携わっていますが、入社時はB2Bのデバイス営業部門で働いていました。その後、2007年からデンマークに渡り、液晶ディスプレイでは取引実績のなかった北欧の大企業を相手に、新市場開拓を担うことになりました。

初の海外赴任に胸を躍らせながら現地に降り立ったものの、そこは実績ゼロ、人脈もない場所です。競合も多く、まさにレッドオーシャン。北欧の言葉に苦戦し、文化も異なるため、日常生活すらままならない。1カ月後には孤立無援、五里霧中となり、心が折れかかりました。

どうにも追い詰められた時、「新事業の立ち上げに携われるのは、実は大きなチャンスではないか?」と、発想を大転換してみました。そこからはSNSなどをフル活用し、様々なパーティに行くなど、一心不乱に人脈を広げていきました。2年ほど経つと、少しずつ軌道に乗り始め、最終的には年間数百億円の売上を達成することができました。

忙しく働きながらも、大きな充実感を覚えていた2011年のこと。突然、本社から声がかかり、事業戦略部門に転属、数多くの試練に立ち向かいながら、ひとりデスクの上で様々なデータを見比べ、ありとあらゆるフレームワークを使いながら、必死に戦略を考えました。しかし、1年経っても一向に妙案が出てこない。

どうにもならなくなった時、「原点に戻る」ということを思い出しました。過去に事業を立ち上げた時は、「人」と交流しながらネタを拾い集めていたはず。僕は自分のデスクから離れ、オフィスの外へと飛び出してみたのです。社内を回ると、「何か面白いことをやりたい」「自分のアイデアを形にしたい」という想いを持つ若手・中堅社員に出会いました。彼らに声をかけ、夜な夜な“放課後活動”を始めたのが2014年2月のこと。「類は友を呼ぶ」のことわざ通り、つながりは部門の枠を越えて広がり始めました。

そうした時、かつてソニー銀行を立ち上げた十時裕樹氏が事業戦略部門に参画し、僕たちの想いに共鳴してくれたことで、“放課後活動”が一気に社長直轄のプロジェクトへと変貌しました。Sony Seed Acceleration Programは、僕を含む若手・中堅社員の想いを起点とし、ボトムアップ的に始まったプログラムなのです。