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為末大の「自分軸」のつくりかた

軸が決まれば、自分の存在を最大化できる

カルチャー&ライフスタイルキャリア・人文化グローバル
更新日 : 2013年05月17日 (金)

第9章 “個の時代”に必要なこと

写真左:竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)写真右:為末大(元プロ陸上選手)

 
会場からの質問: 為末さんのお話にもあった「仮決め」についてですが、現在、ご自身が仮決めされているものは何でしょうか?

為末大: 「スポーツの活用」を広げていきたいです。例えば、国の医療費削減のためのスポーツとか、教育のためのスポーツのように、スポーツが持つ本来の可能性を広げていきたいと考えています。僕は人を驚かせることが大好きなので(笑)、ユニークな方法を選びながらスポーツの活用に取り組んでいきたいと思っています。

また、海外ではよくある話で、引退した選手の第2の人生に「スポーツ外交官」というキャリアがあります。これまで日本の選手は、引退すると指導者や解説者になるのが一般的でした。今後は「スポーツ外交官」というセカンドキャリアがあることを、広く啓発していきたいと思っています。

会場からの質問: 「自分軸」というと、孤独との戦いという印象があります。為末さんは、その楽しみ方やモチベーションの上げ方などお持ちでしたでしょうか? あれば、教えていただけますか。

為末大: 例えば、家と職場の間にある「サードプレイス」のようなものをつくるのも良いと思います。僕自身、練習ではストイックに自分を追い込む反面、普段の生活の中では自分のエゴや欲求を、他人に迷惑をかけない形で満たせる場所をつくっていました。いわゆる「エゴ・マネジメント」が上手にできるようになると、物事はうまく回るのかなと考えています。

竹中平蔵: 具体的に、それはどのような形でですか。

為末大: 僕の場合は「良いことをして、感謝される」でした。ある意味では自己満足の世界ですが、エゴや欲求を満たすことにつながっていたように思います。勝負の世界にいると、時にはイヤな人にならなければならない時もあったりします。その辺とのバランスを無意識ながらも考えていたのかもしれませんね。

会場からの質問: フリーランスやノマドという働き方も増えてきました。その中で「個と個のつながり」については、どのようにお考えでしょうか。

為末大: 1つは、自分と異なる人と無理に合わせようとしないこと。組織にいると色々なしがらみもあるので、なかなか難しいかもしれませんが、幸福感を薄める要因になる気がします。もう1つは、人とつながりながらも、一定の距離感を保つといった「緩やかなコミュニケーション」を心がけることです。僕は今後、多くの人々が家や職場以外にある複数のコミュニティに所属する、という時代がやって来る気がしています。バランスよく、緩やかなコミュニケーションを保っていくことが今後大切になるでしょう。いっぽうのエゴ・マネジメントでは、強めのコミュニケーションが可能な場所を確保しておくことが大切です。自分にとっての最後のセーフティネットになるのかなと考えています。

竹中平蔵: かつて、「ホロニック・アプローチ(Holonic Approach/全体と個の調和を図る)」という言葉が盛んに使われた時期がありました。Hol(全体)とOn(個)の調和を図ること、それが“個の時代”だからこそ大切になる。いまの為末さんのお話は、本当に重要な示唆だと思います。アートやスポーツとは、人生を豊かにするものであり、かつ人々の心を揺り動かす大きなパワーを持ちます。為末さんは間違いなく、今後の日本社会におけるコンセプト・リーダーになる方だと思います。〈了〉

<気づきポイント>

●「マジョリティの評価」から離れるほど、真の成功・勝利に近くなる。
●自分の軸となるものは、仮決めの繰り返しによって決まっていく。
●「とりやすいメダル」に目を向ければ、人生の選択肢はより多様になる。

為末大の「自分軸」のつくりかた インデックス


該当講座

自分軸で挑む~21世紀“個の時代”に必要なこと~
為末大 (Deportare Partners代表)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

為末大氏×竹中平蔵氏
選択肢が広がり、価値観も多様化する今の時代、後悔しないため、よりよく生きるためにも、既成概念にとらわれることなく、自分の価値基準を持ち、自分で判断することが大切ではないでしょうか。『走る哲学』、『走りながら考える』等の著書を出版し、twitterでは14万以上のフォロアー、そして「為末大学」を立ち上げる等、常に自身の考えを発信し続ける為末氏に、「自分の軸を持つ」とは何かをお話いただきます。


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