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為末大の「自分軸」のつくりかた

軸が決まれば、自分の存在を最大化できる

カルチャー&ライフスタイルキャリア・人文化グローバル
更新日 : 2013年05月10日 (金)

第6章 見切りをつける線を用意しておく

為末大(元プロ陸上選手)

 
すべてをかけた1台目のハードル

為末大: アスリートである限り必ず直面するもの。それが引退です。どこかのタイミングで第一線から退く決意をしなければなりません。僕自身にも引退を決めたきっかけがあります。

400mハードルでは、全部で10台のハードルがトラックに並びます。選手によってそれぞれ重要なハードルというものがあります。僕はスタートから1台目。これを飛び越すまでのスピードが世界で一番速い時期がありました。1台目までの走りを最大の武器として、前半でとにかくリードを広げる。いわば、先行逃げ切り型でしたので、トレーニングの半分以上は前半に比重を置いていました。しかし、引退する2年ほど前から、思うようにできなくなりました。

34歳まで競技を続けてみて分かったことは、老いとは体が硬くなることなのです。具体的には、股関節の可動域が狭くなり、歩幅が少し小さくなってしまう。走る時やジャンプする際に重要となるアキレス腱付近のバネが利かなくなる。タイムを測定してもそれほど変わりませんが、歩幅とピッチの関係が変わったことにより、それまでと同じように走ることができなくなっていきました。

これだけ練り上げてきたものが通用しなければ、今後もう芽はないだろう。そう考えながら、ロンドン五輪にチャレンジすべく、2012年6月日本選手権に出場しました。そこで、いままで最も大切にしてきた1台目のハードルでつまずいてしまった。「これで自分の時代は終わった」と痛感し、引退を決意しました。

人生における「とりやすいメダル」とは?

為末大: ひとくちにメダルと言っても、実際は「とりにくいメダル」「とりやすいメダル」があります。例えば、ハードル種目は、100m走の10分の1以下の競技人口と言われています。競技人口と競技力の高さは、ある程度比例します。よって、100m走と比べると、ハードルのメダルはとりやすい、となります。

100m走でメダルをとることができるのはごく一握りの人だけです。それが非常に難しいことだと理解していても、人はどうしても「とりにくいメダル」に惹かれてしまう傾向にあります。しかし、ハードルのような「とりやすいメダル」だとしても、それをとることにも大きな意味があると思います。人々の視線が集中していないエリアで、とにかくトップや上位になる。すると、その高さから見えてくる新しい世界があり、その先の選択肢も多様に広がっていく。僕自身も、ハードルで銅メダルをとったことで見えてきた世界があり、出会えた人もたくさんいました。

近年はグローバル化、ITの進化などによって人々の価値観が多様化し、色々なものが再定義されています。また、いままでになかったようなユニークな職業もたくさん出てきています。そうした“個”がクローズアップされる時代を迎えた現在。ほかの人が注目しないようなエリアに焦点を当ててみることも、「自分軸」づくりの大切なプロセスになると感じています。

為末大の「自分軸」のつくりかた インデックス


該当講座

自分軸で挑む~21世紀“個の時代”に必要なこと~
為末大 (Deportare Partners代表)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

為末大氏×竹中平蔵氏
選択肢が広がり、価値観も多様化する今の時代、後悔しないため、よりよく生きるためにも、既成概念にとらわれることなく、自分の価値基準を持ち、自分で判断することが大切ではないでしょうか。『走る哲学』、『走りながら考える』等の著書を出版し、twitterでは14万以上のフォロアー、そして「為末大学」を立ち上げる等、常に自身の考えを発信し続ける為末氏に、「自分の軸を持つ」とは何かをお話いただきます。


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