記事・レポート
加藤嘉一と竹中平蔵が、日本と中国のこれからを激論
中国で最も有名な日本人が語る、中から見た中国と外から見た日本
アカデミーヒルズセミナー政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2012年03月19日
(月)
第8章 海外から見ると、日本は何がしたいのかわからない
竹中平蔵: 加藤さんが外から見ていて、「日本のここは少し急いで変えたほうがいい」と感じる問題点があれば教えていただけますか。
加藤嘉一: 私と同世代の日本の若い人を見ていて感じるのは、国民としての義務や権利に対する意識が非常に低いということです。尖閣諸島問題が起きたとき、広州の中学校で講義をしていたら、中学1年生の女の子に「尖閣みたいな問題が起きたときに、国の安全保障を政治家が率先して国民に訴えて、国家とは何か、国民とは何かという議論を深めていく。それが安全保障の第一歩じゃないんですか?」と言われました。本当にその通りだと思いました。
竹中平蔵: 当時の総理大臣と内閣官房長官に聞かせたい言葉です。
加藤嘉一: 本当です。それから、もう1つ。私は北京で中国人だけでなく、イスラエル人やアメリカ人など、いろいろな国の人と「日本をどう見るか」という勉強会を定期的に開いているんですけど、「日本は何がしたいんだ? 日本人の顔が見えない」とよく言われます。これは非常に大きな問題です。日本は国家としての戦略・ビジョンを示していない、行動で示していない。示したと思ったら、すぐ首相が替わってパターンが変わる。だから行動が読めないわけです。
中国の首脳部に、私はこう聞かれたことがあります。「加藤さん、日本は首相がコロコロ替わりますね。鳩山さんが東アジア共同体と言ったかと思ったら、菅さんになったら急に言わなくなって、ドジョウになったらまた変わって……。日本の内閣は毎回政策を出しますが、いちいち反応する必要がありますか?」って(笑)。これは実に的を射た質問です。彼らは莫大な資本を使って研究するわけですから。中国のシンクタンクは、日本の研究を全部やっているんですよ。中国の日本関係者は、池田勇人元首相の所得倍増計画から、ほとんどを研究しています。
日本は何をしたいのか。それを民間も含めてきっちり発信していけるような国家対外発信戦略を、まさに国家戦略室みたいなところがやるべきです。特に中国をどう評価するか、中国をどう説得するか。中国の首根っ子をつかむことは、日本の外交にとって最強のカードになります。そういうところが今の日本には本当に欠けています。
竹中平蔵: 日本は「自分たちはどう見られているか」「どう批判されているか」ということに対しては敏感なのですが、「自分たちがどうしたいか」ということについては、全く発信してこなかったわけではないと思いますが、それが政治のリーダーの言葉として結実していなかったということだと思います。
最後に、せっかくグローバル人材の話をしていただいたので、加藤さんご自身はこれから何をやっていきたいとお考えか、伺ってもいいですか。加藤さんは新しいタイプのグローバル人材で、私は大変頼もしく思っているのです。ちょっと言いにくいかもしれませんが、どうぞ思い切り。まずい話は聞かなかったことにしますから(笑)。
加藤嘉一: 日本は国家として自立した知的体系や価値体系を持って国民国家を運営しているんだろうか、と私はずっと疑問に感じてきました。黒船来航のときも、GHQのときも、尖閣問題を処理するときも、TPP加盟検討のときもです。日本のいくべき道が、外国に決められるようなことがあってはならないと思います。
私は「日本版黒船」になりたいです。日本にいては見えない日本というのがあるので、それを外国人からではなく、日本人が外に出て、外から見た日本を示す。そういうことを自分の行動で実現したいんです。だから向こう5年、10年は、まだ外にいようと思っていますが、今後はアメリカを視野に入れています。米中間もすごく大事ですし、日本人としてアメリカを押さえておくことは、国民世論のバランス感覚を養ううえでも必要だと思うので。そして最終的には、政策をやりたいです。
竹中先生は学者として政策にずっとかかわられてこられて、内閣にも入られましたよね。先生のようなモデルが当たり前になるべきだと思うのです。外務省の生え抜きだけが外交をやるんじゃない、政治家だけが政治をやるんじゃない。そもそも政治とは何かと言えば、大衆を統治することですよね。アメリカや中国では、そこに人材の流動性があります。日本でもこういう流れを私はつくりたいんです。だから私は「政治家になる」とは絶対に言いたくない。時期がきたら、満を持して日本に帰ってきて、そのときはしかるべき位置に付いていたいと思います。そしてきっちり政策にかかわって、リスクと責任を取っていきたい。
竹中平蔵: 「黒船になる」というのは、実におもしろい表現です。ぜひそうなってほしいと思います。それと同時に、新渡戸稲造が『武士道』という名著を書いて、日本のことを発信したように、そういう役割もぜひ担っていただきたいと思っています。これから加藤さんがどうされていくか、私たちはしっかり見守りながら刺激を受けて、私たち自身、努力をしていきたいと思います。(終)
加藤嘉一: 私と同世代の日本の若い人を見ていて感じるのは、国民としての義務や権利に対する意識が非常に低いということです。尖閣諸島問題が起きたとき、広州の中学校で講義をしていたら、中学1年生の女の子に「尖閣みたいな問題が起きたときに、国の安全保障を政治家が率先して国民に訴えて、国家とは何か、国民とは何かという議論を深めていく。それが安全保障の第一歩じゃないんですか?」と言われました。本当にその通りだと思いました。
竹中平蔵: 当時の総理大臣と内閣官房長官に聞かせたい言葉です。
加藤嘉一: 本当です。それから、もう1つ。私は北京で中国人だけでなく、イスラエル人やアメリカ人など、いろいろな国の人と「日本をどう見るか」という勉強会を定期的に開いているんですけど、「日本は何がしたいんだ? 日本人の顔が見えない」とよく言われます。これは非常に大きな問題です。日本は国家としての戦略・ビジョンを示していない、行動で示していない。示したと思ったら、すぐ首相が替わってパターンが変わる。だから行動が読めないわけです。
中国の首脳部に、私はこう聞かれたことがあります。「加藤さん、日本は首相がコロコロ替わりますね。鳩山さんが東アジア共同体と言ったかと思ったら、菅さんになったら急に言わなくなって、ドジョウになったらまた変わって……。日本の内閣は毎回政策を出しますが、いちいち反応する必要がありますか?」って(笑)。これは実に的を射た質問です。彼らは莫大な資本を使って研究するわけですから。中国のシンクタンクは、日本の研究を全部やっているんですよ。中国の日本関係者は、池田勇人元首相の所得倍増計画から、ほとんどを研究しています。
日本は何をしたいのか。それを民間も含めてきっちり発信していけるような国家対外発信戦略を、まさに国家戦略室みたいなところがやるべきです。特に中国をどう評価するか、中国をどう説得するか。中国の首根っ子をつかむことは、日本の外交にとって最強のカードになります。そういうところが今の日本には本当に欠けています。
竹中平蔵: 日本は「自分たちはどう見られているか」「どう批判されているか」ということに対しては敏感なのですが、「自分たちがどうしたいか」ということについては、全く発信してこなかったわけではないと思いますが、それが政治のリーダーの言葉として結実していなかったということだと思います。
最後に、せっかくグローバル人材の話をしていただいたので、加藤さんご自身はこれから何をやっていきたいとお考えか、伺ってもいいですか。加藤さんは新しいタイプのグローバル人材で、私は大変頼もしく思っているのです。ちょっと言いにくいかもしれませんが、どうぞ思い切り。まずい話は聞かなかったことにしますから(笑)。
加藤嘉一: 日本は国家として自立した知的体系や価値体系を持って国民国家を運営しているんだろうか、と私はずっと疑問に感じてきました。黒船来航のときも、GHQのときも、尖閣問題を処理するときも、TPP加盟検討のときもです。日本のいくべき道が、外国に決められるようなことがあってはならないと思います。
私は「日本版黒船」になりたいです。日本にいては見えない日本というのがあるので、それを外国人からではなく、日本人が外に出て、外から見た日本を示す。そういうことを自分の行動で実現したいんです。だから向こう5年、10年は、まだ外にいようと思っていますが、今後はアメリカを視野に入れています。米中間もすごく大事ですし、日本人としてアメリカを押さえておくことは、国民世論のバランス感覚を養ううえでも必要だと思うので。そして最終的には、政策をやりたいです。
竹中先生は学者として政策にずっとかかわられてこられて、内閣にも入られましたよね。先生のようなモデルが当たり前になるべきだと思うのです。外務省の生え抜きだけが外交をやるんじゃない、政治家だけが政治をやるんじゃない。そもそも政治とは何かと言えば、大衆を統治することですよね。アメリカや中国では、そこに人材の流動性があります。日本でもこういう流れを私はつくりたいんです。だから私は「政治家になる」とは絶対に言いたくない。時期がきたら、満を持して日本に帰ってきて、そのときはしかるべき位置に付いていたいと思います。そしてきっちり政策にかかわって、リスクと責任を取っていきたい。
竹中平蔵: 「黒船になる」というのは、実におもしろい表現です。ぜひそうなってほしいと思います。それと同時に、新渡戸稲造が『武士道』という名著を書いて、日本のことを発信したように、そういう役割もぜひ担っていただきたいと思っています。これから加藤さんがどうされていくか、私たちはしっかり見守りながら刺激を受けて、私たち自身、努力をしていきたいと思います。(終)
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該当講座
加藤嘉一×竹中平蔵が日本と中国のこれからを激論!
~「中国でもっとも有名な日本人」が政治・経済から中国人の日常生活までを語る~
加藤嘉一 (英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニスト/北京大学研究員/慶應義塾大学SFC研究所上席所員/香港フェニックステレビコメンテーター)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
加藤 嘉一(コラムニスト)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授/アカデミーヒルズ理事長)
政治・経済から一般の中国人の生活まで、あらゆる角度から日本と中国のこれからについて、会場の皆さまにもご参加いただきながら議論します。
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